小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

都合のいい無限理論

INDEX|14ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

「費用対効果というのは、主に民事の場合なんですけどね。裁判に至るまでに、まずは、こちらも弁護士などの相談したり、探偵を雇ったりして、相手のことを調べたりするでしょう? もっとも、これは強姦に限ったわけではなく、詐欺などの場合なんですけどね。それに掛かった費用と、被告が罪に問われて、相手の罪状を考えた場合、弁護士費用などの方が相当お金がかかって、相手は、たかがかかっても数万ということであれば、費用的に、こっちが赤になるのであれば、そこまでして、訴訟を起こすかという意味での、掛かる費用と、相手がこうむる損害。つまり、こちらが起こした効果との比較だということですね」
 それを聞いて、りえは、素直にうなずいた。
 さらに、彼女は続ける。
「その次に問題になるのは、被害者が、法廷で聞かれることに耐えられるか? ということですね」
 という。
「どういうことです?」
 と聞くと、
「相手の弁護士は、当然、依頼人のことを守ろうとするから、ズケズケと聞いてくる。例えば、実は合意ではなかったのか? ということを聞きたいので、被害者がただでさえ、思い出したくないことをズバズバと聞いてくるものだから、もし、せっかく忘れたいと思ってある程度まで立ち直っていたとすれば、それを逆行させることになるので、それを被害者側が望むかどうかですよ。まわりは、当然皆被害者に対して、腫れ物に触るように、十分に気を遣うでしょうね。でも、裁判に入って尋問されれば、それまでの努力も苦労も水の泡ということになるんですよ。それで、いいのかどうか? それが一番の問題なんでしょうね」
 というのだった。
 これに関しては、まったく異論はない。それくらいなら、示談にしてしまおうと少なくとも当事者全員が考えることであろうと、りえは納得したのだった。
「なるほど、だから、減算法での罪刑が決まるということね。分かった気がするわ。要するに、プラスから見ると、マイナスって、正反対だということになるのね?」
 と、りえがいうと、
「うん、そういうことよね。プラスとマイナスというのは、ゼロという線を挟んだ、まったく逆の効果があるの。だから面白いわけで、私はそこに挟まっている、ゼロの線というのが、逆に気になっているんだけどね」
 というではないか?
「えっ? どういうこと?」
 と、何度目であろうか。彼女のいっていることに何度となく同じリアクションを示しているのであるが、そのうちに何が違うのかということを、自分の中で、何となくであるが、分かってきているような気がしているのだった。
「私は、時々思うことがあって、それが、ゼロというものへの考え方なのよね? というのが、例えば、無限ということを考えた時、まず、発想するのが、「合わせ鏡」というものなのよね。この合わせ鏡というのが、どういうものなのかって、分かりますか?」 
 と言われて、正直、聞いたことはあったが、どんなものなのかということは知らなかった。
 りえは、興味があることを、自分から進んで調べようということはしなかった。
「女性というものは、控えめな方がいい」
 と思っていたからで、最近では、それが自分の勝手な思い込みだと考えるようになったことで。次第に考え方が変わってきたことを感じていた。だから、最近は、いろいろ知りたいと思って。本を読んでり、ネットで調べてみたりしているが、いまいち要領を得ていないので、時間が掛かったり、ぎこちなかったりしていたのだ。
 しかし、それも、
「そのうちに、慣れてくるわ」
 という、どちらかというと、考え込まないところがあり、それがある意味、
「一番のいい性格ではないか?」
 と思うようになった。
 そう思うようになってから、遊びの部分というか、気持ちに余裕が出てきた気がして、その分、いくらでも、臨機応変に対応できるということが、
「自分にとっての武器だ」
 と思うようになってきたのであった。
 それを考えると、人から聞いたことを吸収する楽しみも生まれてきて、それが、今の彼女の、
「コミュ力」
 というものを作っているのだと感じさせるのだった。
 りえが、
「合わせ鏡って、聞いたことはあるけど、実際にはよく分かっていないのよ」
 というと、友達は、おもむろに説明を初めてくれた。
「合わせ鏡というのは、自分の前と後ろ、あるいは、左右にそれぞれ、等身大の鏡を置くことなんですよ。そうすると、例えば、前後に置いた場合を考えてみると、目の前に、まず、自分が写っているでしょう? すると、その向こうには、鏡が写っていて。その鏡には、背中から映った自分の姿が見えるのね。そして、その向こうには、また鏡があって、今度はこっちを向いているというように、徐々に小さくはなっているんだけど、ずっと果てしなく続いているということになるのよね」
 と友達がいうと、りえは、その話を聞いてその光景を想像していたのだが、何か奥歯にものが挟まってしまったかのような、不可思議な感覚になっているのだった。
 それを見て友達が、
「どうしたの?」
 と聞いてきたのだが、その顔が、
「私には何でも分かっているのよ」
 といっているようで、マウントを取られているはずなのに、実際にはそこまで感じていないという不思議な感覚になっていた。
「だんだん小さくなっているのに、無限に続いていくんでしょう? そんなことって、普通に考えてありえないような気がして」
 と、りえがいうので、友達も納得したかのように、一度大きくうなずくと、興奮したかのように、
「うんうん、確かにその通り、でも、それが、この仕掛けの思うつぼといってもいいところなのよ。というのが、この発想が、いわゆる、「限りなくゼロに近い」という感覚を持っているということになるのよ」
 と、身を乗り出すようにしていった。
 この日一番の友達が興奮した瞬間だったのだ。
「そうなのよ。この問題は、無限ということを前提にして、小さくなっているにも関わらず、決してゼロにならないということを、不思議だと思うところから始まるといってもいいって、私は思っているの」
 と、友達がいう。
 りえは、口には出さないが、またしても、表情で、
「どうしてなの?」
 と聞いている、
 そう聞かれるのが、彼女としては、快感なのかも知れない。一種の異常性癖に近い感覚ではあるが、別に悪いことではないと、りえは思っていた。
 その話を聞いた時、
「私も、友達のような発想に目覚めたのかも知れないわ」
 とばかりに、自分がどこかで、
「何かを覚醒したのかも知れない」
 と感じるようになったのだった。
 覚醒というと、恰好いいが、最近では、あまりいい意味に使われないという場合もあったりする。それを考えると、必要以上に考えてしまう自分がいて、
「面倒くさく見られるかも知れない」
 と感じたが、だが、それは自分の思い過ごしで、友達が話しているのを見ると、
「自分もあんな風に人を説得できるようになりたい」
 と思うのだった。
 しかも、彼女のように、相手に、
「自分が説得されようとしていない。まるで、洗脳されているのではないか?」
作品名:都合のいい無限理論 作家名:森本晃次