小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三人三様

INDEX|8ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

                 言葉の魔力

 その日、性口は、いつもよりも、少し酔っているかのようだった。
 実際には、
「三人が三人とも酔っぱらっては、収拾がつかなくなる」
 ということで、いつも、セーブしながら飲んでいるのが、大迫だった。
 本当であれば、冷静沈着な雰囲気もあり、一番年上の殿山の立場がその役にふさわしいのだろうが、酒に関しては、結構好きだということで、ここでは、本当は、
「あまり酒が好きではない」
 という大迫がその役を買って出たようなものだった。
 といっても、歴然とその役が決まっているわけではなく
「三人の中で」
 ということで、決まった役が、この大迫だったのだ。
 実際に大迫という男は、見た目は、殿山が一番しっかりしているようだが、実際には、大迫の方がしっかりしている。
 それは、大学生という立場がそうさせたのかも知れない。
 大迫は、引っ込み思案なタイプに見えるが、それは、自分が、
「社会人にはかなわない」
 と思っているからだった、
 一度でも、社会人として仕事をしたことがない人間が、大人の二人に逆らうことなどできない。
 という思いがかなり強かったりする。
 他の二人は、そんな意識はないのだが、それは、相手が、大迫だからである。
 大迫に対しては、二人とも、それなりに、敬意を表していた。
 この控えめな性格も、結構いいところがあると思っていて、それが、大迫にいいように働くのか、ちょうどうまく、大人二人の間に入る形で、そういえば、ここ半年近く、ずっとここで飲んでいるのに、険悪な雰囲気になったことなどなかった。
「半年も、週に数回一緒に飲んだりしていれば、数回くらいは、喧騒とした雰囲気になってもよさそうなんだけどね」
 と、ママさんは言っていた。
「そうなのよ、やっぱり、大迫さんの力ってすごいわね」
 と、あかねは、どうやら、大迫を中心に見ているようだが、その視線はまんざらでもない、結局は、あの三人のグループは、何といっても、中心にいるのは、大迫なのだからである。
 それをママも、あかねも分かっているが、実際に、当の本人たちは、どうなのだろう。
 実は、三人が三人とも、
「俺たちのグループの中心は、坂口だ」
 と思っていた。
 坂口本人は、普通に、そう思い込んでいるだけだった。
 つまりは、
「自己顕示欲の強さが、そのまま出ている」
 ということである。
 大迫とすれば、
「自分にとって、いい兄貴分」
 ということで、慕ってもいるが、逆に、
「反面教師」
 という面もあり、大迫には、坂口の、
「悪い面」
 というのもちゃんと見えていて、そこは、
「反面教師として、悪いところは悪い」
 ということで、見ていこうと思っていたのであった。
 というのも、
「坂口さんは、俺の想像するような過ちを犯してくれる」
 というところがあった。
 特に、
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 ということで、言動に関しては、いつも、
「一言多い」
 と言われていた。
 どんな過ちが多いのか?
 別に酒が入ったからというわけではないのかも知れないが、とにかく、一言多い時がある。
 それは、仲間内の時でも、それ以外でも関係ない。それを思うと、
「この一言多い」
 という性格は、坂口という男の、
「真の性格」
 なのかも知れない。
 と思える。
 そう感じてしまうと、
「なるべく、あの人を他のグループに近づけないようにしないといけない」
 ということで、内輪で、坂口を囲むように飲みという感じになったのだ。
 それが、
「三人の中心にいつも、坂口がいる」
 という感じにまわりから見えるようになったのだった。
 殿山にしても、大迫の気持ちが分かったことで、坂口を中心にしているのだろうが、それだけではなかった、
「坂口を中心に据えた方が、俺の方が目立つかも知れない」
 と考えていた。
 殿山は、どうしても、
「計算高い」
 というところがあり、まわりに対して、
「殿山は、聖人君子だ」
 というイメージを植え付けるところがあったからだ。
 そのためには、
「神輿である坂口を担ぎ出し、その中心に自分がいる」
 ということを思い込ませることが一番だった。
 大迫は、そこまで考えているわけではなく、あくまでも、
「大人をリスペクトしている」
 ということで、殿山とすれば、
「願ったりかなったり」
 という立場が、
「大迫の立場」
 といってもいいだろう。
 大迫にとって、殿山という人間の立場は、
「坂口さんを自分たちの中心に据える」
 ということで、
「一番のキーパーソンだ」
 と思っていたのだ。
 大迫とすれば、殿山という男が、
「本当に聖人君子のような人なのかどうか」
 という疑いの目があった。
 ただ、別に、殿山に、
「聖人君子」
 のような立場を望んでいるわけでもなんでもない。
 ただ、見た目がそうであるから、
「それなら、その雰囲気でいてくれる方が、都合がいい」
 と思っていたようだ。
 殿山という男は、大迫が思っているよりも、もっと、計算高い男のようで、それが分からないのも無理はない。
 何といっても、年齢差が、30歳以上もあり、
「まるで、親子」
 といってもいいくらいで、どうかすれば、
「父親よりも年上だ」
 といってもいいくらいであろう。
 年上というと、今まで、学校の先生くらいしか、相手にしていなかった。
 もちろん、親というのは特別なので、同じ大人でも、見方が違っている。
 中学、高校の頃の先生というと、
「一線を画した」
 というところがあり、
「リスペクト」
 というよりも、近寄りがたい雰囲気があったといってもいい。
 だが、大学に入り、教授の下で、皆和気あいあいというゼミの生活をしていると、まるで、教授が、
「兄貴」
 という雰囲気に感じられるようになるのであった。
 年齢は、今の殿山と同じくらいかも知れない。
 しかし、殿山を見ていると、とても、
「兄貴」
 とは思えない。
 だから、大学教授に対しても、殿山に対しても、
「リスペクト」
 というのを感じていたが、同じリスペクトであっても、その感覚はまったく違うものだった。
 教授の場合は、どうしても、
「同じ研究をする同士」
 ということであり、さらに、そこには、主従関係のようなものがあった。
 それは、
「教授と学生」
 ということで、高校生までの、
「先生と生徒」
 という雰囲気とはまた違うものなので、そのリスペクトの感覚は、
「学問だけではなく、人間的にも言えることなのではないだろうか?」
 ということであった。
 殿山に対しては、
「学問的なものは、まったくない」
 といってもいいので、そのすべては、
「人間性」
 というものによるものである。
 だから、殿山は、大迫にとって、やはり、
「人生の先輩」
 という意味での教師に見えたのだ。
 だが、
「そこまでリスペクトするのは、違うのではないか?」
 と思えていた。
 それは、殿山を見ていて、
「あれは、作られた聖人君子ではないか?」
 と思ったからだ。
 それにしても、
「作られた聖人君子」
 というのは、どういうことなのだろう?
「人の性格を作る」
作品名:三人三様 作家名:森本晃次