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三人三様

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 そのタイミングがうまくいけば、それだけで、
「成功だ」
 といえるもので、もし、少しでもタイミングを間違えると、
「二度と、思い通りになるということはない」
 と、いえるかも知れない。
 そういう意味で、あかねという女性は、
「自分は、たい民後を合わせるのが、苦手なのかも知れない」
 と思っていた。
 しかし、そのタイミングを合わせるというのは、何も、同じことだけではない。
 恋愛もそうであろうし、人とのコミュニケーションにしてもその通りだ。
 何かをするのに、人とタイミングを合わせなければうまくいかないということは、結構あったりする。
「スポーツ」
 であったり、極論として、
「政治工作」
 などというのもそうだ。
 それを考えた時、
「何かが始まった時、すでに、答えは出ている」
 というようなことをいう人がいるが、それだけ、
「下準備」
 であったり、
「根回し」
 というものが、
「うまくいっている」
 ということになるのであろう。
 それも一つのタイミングというもので、そもそも、
「タイミングを合わせるために、下準備であったり、リサーチや、演習というものが不可欠だ」
 といえるのではないだろうか?
 あかねは、そのあたりのことは結構分かっていて、彼女自身も、性格的に、連星沈着なのではないかと思えるのだった。
 あかねが好きになったのは、大迫だった。
「年齢が近い」
 ということで、最初から、気にはなっていたのだが、大迫を気になり始めたのは、
「余計なことを言わない」
 ということであった。
 喫茶店などにいると、中年くらいになると、相手が嫌がっているのを見て楽しむという、一種の、
「悪趣味な男性」
 というのは、どこにでもいるというものだ。
 学校や、会社の仲間などであれば、
「セクハラ」
 といって、注意もできるのだが、あかねの立場で、
「お客さんには、そんなこと言えないし」
 と思っていた。
 しかも、それを言うのが、常連に近いくらいの人たちで、実際に常連になってしまうと、そんなことを口にはしないだろう。
「しようものなら、せっかく通ってきて常連になったのに、自分から振り出しに戻すようなものだ」
 ということになってしまう。
 だから、本来なら、
「中途半端な常連くらいの人が一番気を付けなければいけないのだろうが、そこまでくればさすがに、ママが黙っていない」
「今度そんなことを言ったら、出禁にするよ」
 と半分、冗談めかしているが、目は決して笑っているわけではない。
 むしろ、
「目は座っていて、相手を威喝するような態度である」
 といえるだろう。
 そうなると、
「ママさんにシャッポを脱ぐ「
 か、あるいは、
「出禁になる覚悟で、途中までやったのならと、自分お意志を貫くか?」
 ということのどちらかになるだろう。
 ただ、この店では、これらのようなことは、結構あったようで、
「常連になるために、通らなければいけない道」
 という人もいた。
 実は、
「あかねという女の子は、そういうセクハラまがいの冗談を言いたくなるタイプの女の子なんだ」
 ということのようだった。
 ママさんは、さすがに、これだけの事例の多いことから、ウスウス感じているようだったが、だからといって、許すわけにもいかない。
 平然と、真面目な顔をして客をたしなめるということができるのは、
「場数を踏んでいるからに違いない」
 といっても過言ではないだろう。
 それを考えると、
「ママさんと、あかねは、いいコンビなのかも知れないな」
 という風に思える。
 ママさんも、
「あかねちゃんは、今までいてくれた女の子の中でも、客のことが分かっている女の子なんだけど、ちょっと真面目過ぎるところがあるので、そこは、気を付けてあげないと」
 といっていたのだ。
「本気になるということもないし、怒りを抑えられないというタイプではないんだけど、どこか、自分の中に押さえ込んでしまうところがあるから。それがストレスとなって、襲い掛かってくる」
 ということが
「なきにしもあらず」
 ということである。
 そんな中で、
「あかねが、大迫のことを気にしている」
というのは、ママには分かっていた。
 だが、他の男性陣、大迫本人を含めて、その自覚はないようだった。
「やっぱり女の勘ってすごいんだ」
 と感じるのだった。
 あかねがこの店に入ってきてから、そろそろ半年くらいであろうか?
 こじんまりとした店ということもあって、女の子は、基本三人で回していた。
 近くに女子大があることもあって、アルバイトの女の子は、女子大生が多かった。
 普通に働ける期間というと、
「大体、2,3年というところであろう」
 と言われている、
「三年生になったら、専門分野の講義であったり、実践的な研修や、ゼミなどがあり、そちらが忙しくなり」
 というものであった。
 あかねも、
「保育科」
 ということで、昔の保母さんになる道を目指していたようだ。
「どうして、保母さんを目指したか?」
 というと、
「親せきのおばさんが、以前、保母さんをしていたということだったが、そのおばさんが、他の親せきの人に比べても、ダントツで優しかったのだ」
 ということと、
「自分が、保育園にいっている時の先生が、とてもやさしく、もう少しで、孤立しそうになっているのを、子供心に察した時、その先生が、いつも私を守ってくれたのよ」
 といっていたが、まさにその通りのようだ。
 時々、ママさんと開店準備をしている時、
「どう、学校の方は?」
 とママさんが気を利かせて聞いてくれた時など、ちょうど、話したいと思っていることがある時で、
「それがママさん。聞いてくださいよ」
 という雰囲気で、まるで、
「近所のママ友のような雰囲気」
 といってもいいくらいだった。
 もちろん、ママさんは、そんなことを分かっていて聞いているのだろうから、あかねも、
「遠慮する必要なんかない」
 と思っているのだ。
 ママさんにも、親せきの女の子がいて。
「その子も、保育士を目指しているのよ」
 ということだったので、あかねとすれば、
「ママさんが、あの時の保母さんを思わせる気がするわ」
 ということで、
「この店でよかった」
 といつも感じていた。 
 店の客層は、正直、
「いい帆とばかり:
 とは言えない。
 何といっても、
「酒を飲ませる店」
 だということだから、しかも、酔った状態で、目の前に女の子がいるのだから、それは当然のごとく、
「いやな客」
 というのがいないという方が、おかしいくらだといえるのではないだろうか?
「私は、そこまで嫌な客はいないけどね」
 と他の女の子はいっていたが、その子の場合は、特別で、結構、
「歯にものを着せぬ」
 という言い方をするのだ。
 だから、客が圧倒されるくらいになるのだが、それでも、文句を言われることがないのは、その女の子が、それだけしっかりしているからなのか、それとも、ママさんの目が光っているからなのか分からない。
 ただ、ママさんの目力は相当なもので、お客さんも、それを承知で来ているのだから、それだけ、馴染みになると、強いのかも知れない。
作品名:三人三様 作家名:森本晃次