お教とお香の覚醒
「我に返るまでに、一定の期間を要するが、その期間は、あきらめるよりも早いということ」
だったということである。
それは、山村に限ったことではなく、
「皆感じるのは、同じことだった」
と言ってもいいだろう。
それを考えると、
「山村という男が、他の人と合わないのは分かる気がした」
最初こそ、
「一言多いから、嫌われるのではないか?」
と思っていたが、それよりも、山村という男は、
「自分が勘違いをしていることに気づかないまま、人と仲良くなることが多い」
ということで、
「だから、つい余計な一言を言ってしまう」
ということであった。
その一言を言わないと、気が済まないのだ。
いってしまうと、嫌われると分かっていても言わないと気が済まない。
むしろ、
「そのひところを言って、自分から去っていくような相手であれば、こっちから願い下げだ」
ということまで感じているのかも知れない。
そう思うと、
「やっぱり、最後は、俺だけが残ってしまうんだろうな」
と思ったが、もう一つ、この山村には、
「負けん気の強さ」
というものがあった。
それが、彼にとって、
「いい面と悪い面の両方がある」
ということで、それが彼の、
「二重人格性」
というものを示しているようだった。
彼のまわりから、人が離れていくのは、むしろ、この、
「悪い方の二重人格性」
が見え隠れしたからではないだろうか?
そして、この二重人格性というのは、
「結構分かりやすい」
といえるもので、
友達として、
「ちょうどいい人数」
というのはあるというもので、その人数を、坂巻は把握しているつもりだったが、友達が離れていくスピードが思ったよりも早いということで、坂巻が気づいた時には、
「すでに、その人数を通り越している」
ということになっているのであった。
「俺にとって、山村という男は、どうも、他人とは思えない」
と感じるところがあったのだ。
というのも、
「行動パターンが手に取るように分かるのだ」
ということであった。
今までは。ここまで相手のことが分かるというようなことはなかった。しかし、山村を見ていると、
「次の瞬間の行動」
というものまでわかる時があるのだ。
それは、大げさかも知れないが、
「俺は、山村になりたいと思っているのだろうか?」
と感じることがあるからであった。
大げさというよりも、
「いずれ、山村のようになる」
という予感があるからであり、それは、
「夢を見ているような感覚だ」
ということであるが、それは、正夢に思えてくるから不思議なのであった。
「大学時代だけが、彼との仲だ」
と思っていたが、三年生の途中から、
「俺は大学に残ろうと思うんだよな」
というのを山村から聞かされて、
「ああ、それは俺も思っていたんだよ。山之内博士と一緒に研究をしていきたいという気持ちが強くてね」
というと、
「そうそう、それを俺は言いたかったんだよ」
といって。二人は、十分に納得した感覚だったのだ。
すでに、この頃には、大学院の方で、
「山之内研究室」
というものがあり、そこで、いろいろな研究が行われているのは分かっていた。
大学のゼミでは味わえないことが、存在しているのが、大学院というところであった。
民間の企業への就職率が悪いというわけでは決してない。
実際に、民間会社の研究所というところは、
「慢性の人手不足」
ということであり。卒業後、
「山之内研究室にいました」
といえば、就職ということでは、引っ張りだこだというのは、間違いないようだった。
だから、山之内研究所出身の先輩が作っている、
「サークル」
のようなものがあり、卒業生においての、
「同窓会的なもの」
であり、悪いものではないとのことだった。
それだけ、
「教授が慕われている」
ということであり、
「山之内教授は、研究のすばらしさだけではなく、人間的なすばらしさも、十分に備え持っている」
といってもいいだろう。
そんな教授を慕う学生や、同窓生も少なくなく、同窓会は、いつも盛り上がっているという話を聞いた。
だが、研究室に、
「大学院生として残る」
という学生はそれほどたくさんはいないということであった。
研究にそこまでの興味がないわけではなく、単純に、
「民間で、自分がいずれ、研究所のトップに君臨したい」
という思いがあるからであった。
民間んお研究室も、大学に負けず劣らずの施設があるという。
むしろ、研究に金をかけているところも多いようで、目先のことだけを考えれば、坂巻も、山村も、一般企業に進んだかも知れない。
「民間に行ってしまうと、不景気になったりして、最初に首を切られるのは俺たちかも知れないな」
という思いがあり、それを危惧したというのが、大学院に進んだ理由の一つではあった。
意外と、クラスメイトの連中は、そのあたりのことが分からずというか、気づいていないというべきか、あっさりと、何も考えず、民間企業に行ったのだ。
就活などすることもなく、企業の方から、
「来てほしい」
という誘いがある。
ありがたいことで、
「就職率は、ほぼ100パーセントに近い」
といってもいいだろう。
「そんなに就職率がいいのなら」
と考えないわけでもなかったが、それも一瞬のことで、
「大学院に進むんだった」
とすぐに我に返るのだった。
大学院に進むと、新しい研究所を見ると、相当な施設がそろっているのが分かる。
「さすがに、大学院だ」
と思ったが、一緒に山村と研究できるのはうれしかった。
その頃には、山村は、だいぶ、
「人間が丸くなり、人から慕われるくらいになっていた」
といってもいい。
それを見ると、
「山村という男。これが、本来の姿ではないだろうか?」
と感じた。
つまりは、まだあの時も、成長期ということで、毎日のように性格が違ったのかも知れない。
要するに、成長期というのは、
「頭の成長」
ということで、
「大人がさらに成長する」
という時期のことで、人によっては、
「第二思春期」
といっている人もいた。
それがほかならぬ、山之内博士であり、
「博士には博士の、他の人にはない。突飛な発想が潜在しているのだ」
と言われるゆえんなのかも知れない。
さすがに、ずっと研究所にいる人には分かっていることで、
「博士って、本当に分かりやすい性格をしているんだよな」
ということであった。
もっとも、
「これだけ長く一緒にいれば、分かりにくいところでも、分かりやすいと思うものなのかも知れないな」
と感じたが、それを一種の、
「腐れ縁」
というのかも知れない。
この言葉を使うのは、院生というよりも、むしろ、
「山之内教授の方なのかも知れない」
ということになるのだった。
山之内教授というのは、
「お茶目なところがあり、人をリラックスさせられるところもあり、そのあたりが、学生や院生に好かれるところではないか?」
と、坂巻は分析していたのだ。
タイムリープ
「タイム〇〇」
というと、一番に思いつくのが、