人を呪えば穴二つ
という快感が、店の中にあふれていたといってもいい。
ただ、三人三様というのは、
「含みがあってのことだ」
と言ってもいいかも知れない。
河東という男は、
「女を手玉に取る」
ということがうまかった。
ただ、
「されでもい」
というわけではなく、自分が気に入った女で、しかも、自分に従順な女でなければ、自分からすり寄ることはしない。
しかも、
「自分が目を付ける女は、そういう女ばかりだ」
という自負があり、それを、自分の取り柄だと思っているのだった。
だから、女の方も安心する。
「男の方から、こわごわ近寄られるよりも、自信を持った男性に惹かれる」
というのは、女としては、当然のことであろう。
だから、女も安心するのだろうが、
「それができる女は、それだけ自分に自信を持っている女ではないだろうか?」
ということであった。
「男が女をひっかけるように、女も男を見ていて、自分からひっかける」
と人もいる。
ここのようなスナックなどでは、日常茶飯事だというところも少なくはないだろう。
それを思うと、
「自分にとって、好きになる男性を見分けるには、自分に自信が持てるようにならないといけないのではないか?」
と言えることだろう。
どういう意味では、スナックのようなところは、
「食うか食われるか?」
という状態の中にいるといってもいいのではないだろうか。
ママさんが最近気になっているのが、その河東という男が、
「最近店に来なくなった」
ということであった。
かずきの死体が見つかる少し前には、まったく姿を現さなくなった。
ただ、こなくなった傾向は、1か月くらい前からあった。
それまでは、週に3回くらいは姿を見せていたのに、急に来る回数が減ってきた。
そのことを、ママは気にならなかったが、最初にそれを口にしたのが、かずきだったのだ。
それまでかずきは、河東にそんなに意識を向けていたわけではなかった。どちらかというと自分から話をすることはなかったのだが、河東が話しかけると、結構、二人だけの世界を作っているように見えたのだ。
それは、みさきにもあった。
どうやら、最初は、先輩であるかずきに遠慮していたようなのだが、次第に、慣れてくると、
「先輩相手でも遠慮しない」
という態度に出るのだった。
スナックのようなところなので、それでもいいのだろうが、かずきとの関係は、他の、女の子同士の関係とは少し違っているようだった。
「一緒にすると、少し危ない」
ということでもあったのだが、ただ、それは、
「客を取り合う」
というような、殺伐としたものではなく、漠然とした感覚の中だったので、理由というと言葉にできるものではなかった。
かずきという女と、みさきという女を、それぞれ一人のオンナとして見た時、
「一緒にするのは危ない」
ということになるのであった。
何が危ないのか?
というと、
「男がらみではない」
という漠然とした感覚になったのだ。
だから、どこかからのウワサとして、
「あの二人、レズらしい」
と言われても、
「ああ、そうなんだ」
と、無理なく納得できたのだった。
あの二人がp店では遭わないようにさせたのは、
「二人が衝突する」
というよりも、
「二人だけの、異様な世界を作ってしまいそうで、それが怖かった」
と言ってもいいだろう。
店の外では、二人がどんな関係であってもいいが、店で直接的に何かの問題が起こると、厄介だった。
もし、
「二人がレズだ」
などというウワサが流れたとすれば、
「どちらかをひいきに来てくれていた客が来なくなるのは必至だ」
その客が、
「他の女の子に乗り換えよう」
と考えたとしても、
「もし、レズというものが流行っているのだとすれば、乗り換えようと思っている子が、レズの毒牙に罹っていないとも限らない」
そんなことを考えると、
「この店自体が怖い」
と感じ、
「もう来ない」
ということになりかねない。
それは当たり前のことであり、客が少しずつ減っていくと、そこから雪崩を打って消えていき、最終的に、
「常連だけの店」
ということになるだろう。
ママは、それでもいい」
と思っていたが、
どこかで、
「風評被害」
というものが、襲ってくるのは困ると思っていた。
一度立ってしまったウワサは、
「根も葉もない」
と言われるウワサほど、面白がって広がるもので、、
「その内容を誰が信じるというのか」
というのは、当事者だけで、広がってしまったウワサは尾ひれがついて、時には、
「信憑性のあるもの」
になっていくのではないだろうか?
特に、このあたりのスナックでは、
「レズのウワサ」
というのは、昔からあるようで、その信憑性は高かったといわれる。
なぜなら、一時期、レズが流行ったといわれる時期には、数軒の店で、ウワサになったりしている。
それを、
「まるで伝染病ではないか?」
と言われることも多いようで、女の子とすれば、
「そんな根も葉もないウワサ」
と言っていた人が、その渦中に入り、実際に、
「レズだった」
ということが、当たり前のようにあったようで、それこそ、
「レズって、伝染病なんじゃないか?」
と言われるようになっていたようだ。
レズというものが、どういうものなのか、実際にやらないとわかるわけはない。
それは、男性がそう思っていることであり、女性は、
「想像はつく」
と思っていた。
だから、
「嵌る時は、無意識に嵌ってしまうのではないだろうか?」
と言われていたのだった。
「世界的なパンデミック」
というものが流行った時、スナックの女の子たちは、
「職がなくなるのは、困る」
と思っていたが、半分は、
「レズという伝染病に罹らなくていい」
という思いもあったのだ。
レズを伝染病だと思った時、
「高熱によって発症し、熱が上がりきるまで、苦しむ」
と思っていた。
伝染病として一番怖いと考えるものとして、
「インフルエンザ」
というものを、考えると、
「高熱が出るメカニズム」
というものを思い出した。
インフルエンザに感染したりすると、まず、高熱が出る。
これは当たり前のことで、すでに、熱が39度近くになっていれば、即効性のある解熱剤を接種し、食事がいけなかった場合には、
「点滴」
などを打つことになるだろう。
もちろん、他の病気を併発しないように、抗生剤も一緒に接種するということになる。
それを考えると、
「高熱が出ることがどういうことなのか?」
と思うようになる。
そもそも、人間の身体の中には、病気に対する、
「抗体をつくる」
という機能があるのだ。
菌やウイルスのようなものが入ってきた時、それらをやっつけるためのものだ。
そして、その抗体があるおかげで、
「同じ病気に罹りにくい」
ということになるのだ。
そんな抗体ができるということを意識しない人は、病気に罹った時の看護を、
「間違える」
ということになりかねない。
というのは、
風邪などを引いて、熱が出た時、どうするであろう?
「熱があるから、冷やさないといけない」