人を呪えば穴二つ
「ええ、これは、簡易裁判のようなもので、お互いに顔を合わせることなく、調停委員という人が、男女それぞれいるので、男と女の言い分を聞いて、うまくまとめることができるんですよ。だから、夫婦が顔を合わせるのは、すべてが決まって、最後の調印の時くらいですかね。だから、怨恨が残るということもあまりないということのようですよ」
というのがママさんの話だった。
どうやらmママさんも離婚経験があるようで、話しぶりでは、
「これは、ママさんの、調停離婚したんだな」
ということが分かるというものだった。
そんなママさんの話を聞いていると、
「じゃあ、かずきさんが離婚してから、みさきさんと関係ができたんですかね?」
と言われ、ママさんは、
「そうだと思うんですけど、どうも、話がうますぎるきもするんですよ」
といった。
「というのは?」
と、刑事は、少し前のめりになっていた。
「二人の関係は、一筋縄ではいかないと思っていたのがその気持ちなんですが、でも、私が思うのに、男女が一筋縄ではいかないけど、くっつく時は簡単にくっつくでしょう? 女性同士というのも、同じなのかも知れないと思ってですね」
と言って、少し、ママさんは考え込んだ。
確かに、レズの関係というのは、簡単に理解できるものではない。
しかも、それが、
「身体だけの関係なのか、それとも、精神的にお互いが離れられないほどの感覚になっているのか?」
ということで、見た目と実際は、かなり違っているのではないか?
と感じるのだった。
特に、刑事などは、
「男女の関係については、今まで捜査で、いろいろ表も裏も見ているからな」
と思っていた。
しかし、こういうお店での関係性については、同じ水商売の、
「女の勘にはかなわない」
と思っていた。
実際に、今までいろいろな操作をしてきたが、特に、
「お店関係の、男女の関係」
というものは、毎回その事情が違っていて。それだけではない何かがあると考えるようになっていた。
ママさんの話を聞いていて、桜井刑事は、
「この事件も、一筋縄ではいかないのかも知れない」
と思っていた。
そして、桜井刑事の気持ちの中で、
「何か、誰かが巻き込まれた事件」
というように思えてならないのであった。
裏切られた女
「みさき」
という女が今逃避王をしているが、彼女は、店に勤めている時、
「裏切られた」
と思ったことがあった。
自分を裏切ったのは、最初は誰か分からなかった。
というのは、自分を裏切った相手というのが、誰か分からないが、
「同僚の女の誰かだ」
と思っていたのだ、
というのは、そもそもの離婚の原因となった、
「かずきの浮気」
を旦那に密告したやつがいた・
ということだったからだ。
それをかずきは、
「みさきだ」
と思っていたのだ。
実際には、みさきが入ってきたのは、ちょうど、離婚問題が出てきた時だったわけだから、そんなちょうどいいタイミングということもない。
もし、そうだったとすれば、
「みさきという女は、かずきのことをばらすために、店に入ってきた」
というくらいでなければ、タイミングが合うわけなどない」
というものであった。
それを考えると、
「あの二人の関係は、最初からねじれたものだったのか知れない」
とママさんは思っていた。
このあたりになると、曖昧なところが多いのと、
「タイミングが微妙」
ということで、必要以上のことはいえない」
ということで、桜井刑事の耳には入れないでおくと考えるようになっていたのだ。
それはそれで正解だったのかも知れない。
実際に、ママさんの方でも、
「それ以上のことは分からない」
ということで、自分でも、曖昧な部分に、
「女の勘」
というものが、結びついてこないということが分かってきたようだった。
そんなことを考えていると、
「どうして、かずきさんが殺されなければならなかったのか?」
ということがますます分からなくなっていた。
ママさんが、ここまで気にするのは、店が忙しくなったということで、募集を掛けた中で、入ってきたみさきという女が、
「事件に巻き込まれた」
という状況を作ってしまったのが、自分であると感じたからだった。
しかも、ママの考えとして、
「一人女の子を増やすと、かずきの抑えになるかも知れない」
と思ったのだ。
「かずきが何かをする」
というハッキリとしたものはなかったのだが、
「かずきなら何かをしかねない」
という思うがあったのも事実で、
「何か不気味な気がする」
という気分にさせられたのが、ママさんとしては、
「気持ち悪かったT」
ということであった。
「私は、どちらに対して、謝らなければならないのか?」
と、ママさんは考えていた。
少なくとも、今回、
「かずきさんが殺される」
という、痛ましい事件が起こった。
そのことに関しては、どうしようもないということになるのだが、ただ、ママさんが今回の事件の第一発見者ということになってしまったのは、
「私に何かあるからなのかも知れない」
ということで、
「事件に首を突っ込んでしまった」
ということが、ただの偶然ということで片付けられないということを感じた時、
「本当に、この事件を無視してはいけない」
と思えて仕方がなかったのだ。
だからと言って、詳しく知っているわけではない。
しかも、
「浮気相手かも知れない」
ということで、ある意味、
「一番の容疑者だ」
と思っていた。河東に、
「まさか、鉄壁のアリバイがあったなんて」
と感じていたのだ。
確かに、鉄壁のアリバイがあることで、少なくとも実行犯ではない」
といえるのだが、だからと言って、
「河東さんがまったくの無関係」
ということはありえないとしか思えなかった。
ママさんは、河東という男を、結構知っているつもりでいた。
最初は、ママさんを目的に来るようになった。
そもそも、ここを利用している会社の、
「営業での接待」
として招いたのが最初だった。
だから、
「一見の客だ」
ということでママさんは、認識していたのだが、一度来てから、数か月後の、
「忘れかけていた時期」
といってもいいくらいの頃に、ふらりと、河東が現れた、
「もう来ないだろうな」
と思う客が来てくれるということが、ママさんとすれば一番うれしかった。
「常連になってくれることはないだろうな」
と思っている相手は、来てくれるのだ。
これ以上ありがたいことはないだろう。
それを分かっているだけに、
「お互いに有頂天になった」
といってもいい。
ママさんも、いつになく喜んでいる。
そんなところに、かずきが入ってきた。
「この人、浮気相手がいるくせに」
と思ったが、そんな感情をママとしては出すわけにはいかない」
それでも、うれしかを隠せない二人は、まるで、
「河東を奪い合う」
という感覚だったが、それが、男にとっては、
「至福の悦び」
に近いものがあり、
「くすぐったい」
という感覚だったのだ。
それだけ、
「三人三様」