歴史の答え
「普段は何も言わない」
ような素振りで、実際に何も言わないくせに、
「10分前の女を抱いた」
といって、あっけらかんとしているのだ。
主人公の女は、その時まで、
「男性が、賢者モードというものに陥るのだ」
ということを知らなかった。
主人公は、
「男性経験は、そんなにない」
といっているが、実は、まだ処女だったのだ。
モテないわけでもなく、その証拠に、
「いつも、男性から告白される」
といっている。
「本当は、処女である」
ということを、今までの彼女であれば、
「自分から公開してもいい」
というくらいに感じていたことだろう。
だが、普段から、なるべく言いたくないとは思っていたが、特に今回は、
「絶対に言いたくない」
と思っているのだ。
それだけ、
「10分前の女を意識してしまっている」
ということに違いないのだった。
ただ、一つ気になっているのが、
「お前だった」
と、彼がいうから、その言葉を信じてしまうわけで、ひょっとすると、違う女なのかも知れない。
しかし、もし、複数の女と付き合うのであれば、一度期に、同じタイプの女と付き合うということはないだろう。。
「そういえば、あの男とどうやって知り合ったのだろう?」
と、主人公は感じた。
「なぜか、思い出せない」
ということであった。
そして、この思いは、
「もう一人の自分」
つまりは、
「10分前の自分」
も同じことを感じているのではないかと感じるのだった。
というのは、考えてみれば、
「この男も、本当だったら、自分が好きになるタイプではないんだけどな」
と感じた。
どちらかというと、アイドルのような、
「推し」
というような人がいて、
「たくさんのファンを持っていて、最初は自分もその中の一人なんだけど、いずれは自分を選んでくれる」
というような、夢物語と思い描くような女性だったのだ。
もちろん、それは、
「妄想」
でしかないのだ。
妄想を抱くということは、
「実は、好きなのかどうか分からない」
ということではないか?
と感じるのだった。
ただ、この男のように、
「冷静沈着な男は、昔から嫌いだったはずだ」
というのは、
「マウントをとられてしまう」
と感じたからで、
「相手に理屈を並べられると、逆らうことができない」
ということで、プライドが許さないと感じるのだろう。
だが、今回こんな男に惹かれたというのは、
「何か見えない力に操られているのかも知れない」
と感じるからではないだろうか?
ただ、この男は別にマウントをとっているわけではない。それでも、いっていることは間違っていないだけに、余計に腹が立つ。
それでも、惹かれるということは、
「私って、マゾなのかも知れないわ」
と感じるのだった。
SMの世界については、よくは知らないが。冷静沈着な男を相手にしていると、
「ヘビににらまれたカエル」
という形になってしまいそうで、焦ってしまって、緊張から、汗が流れ出てくるのだが、そんな状態になっている自分を、客観的に見ることで、
「好きな男性でもないのに、好きになることというのは、往々にしてある」
と感じさせられる。
ただ、
「それが本当の愛情なのかどうなのか?」
自分でわかるわけもない。
人を好きになるということを冷静に考えると、
「冷静にこちらを見ている相手には、かなわない」
ということになるのであろう。
焦りというものを煽ると、冷静にならなければいけない状況で、冷静になれないことが、自分のマウントをとっている相手に、惹かれてしまうという。
「矛盾した感情」
ということになるのだろう。
男と一緒にいると、好きなわけでもないのに、どこか惹かれるところを感じる。確かに「SMの感情」
というものを感じると、
「この男に抱かれてみたい」
という感情が浮かんでくる。
しかし、この男に抱かれるのは、何か自分のプライドが許さないはずだった。
この感情は、矛盾しているわけではなく、一種のプロ感情というものではないだろうか?
なぜなら、彼女の商売は、
「風俗嬢」
だったのだ。
そのことを、男は知らないと思っていた。だが、そのうちに、
「お前は風俗嬢だからな」
と言ってのけた。
もし、これが他の男だったら、否定していたろう。しかし、この男に睨まれると、それを否定するだけの感情が浮かんでこない。
彼女は名前をなるみといった。この名前は、源氏名で、最初に、この男に源氏名を名乗ったので、ずっとそのままの名前で通していた。
最初は当たり前のように、本名など名乗らない。SNSの世界では、
「本名は使わない」
というのが、当然のようになっていたので、そう考えると、源氏名で通すというのは当たり前のことだった。
相手の男の名前は、
「まさと」
といった。
まさとがいうには、
「10分前の女」
の名前は、りなというらしい。
りなが、どんな女のなのかということを、まさとは、ある日、克明に語った。どこを触ればどのように感じるのか、どのようなことを自分にしてくれるのかということを、赤裸々に話すのだ。
なるみは、それを聞いて、ムズムズしてくるのだ。自分ができないことへの憤りと、傷つけられたプライドが、身体を熱くする。
しかし、よく聞いてみると、その話は、
「なるみのプロとしてのテクニック」
というものに似ているではないか。
それなのに、身体が反応するということは、
「まさか、私は、その10分前の女である、りなという女を求めているということなのだろうか?」
と感じたのだ。
ムズムズしてくる感情を持ったまま、男の部屋から何もできずに、帰らなければならない。
だからといって、すぐに、男の部屋を出ることはない。いつも決まった時間だけは、必ずそこにいるのだ。
だが、その時間を持て余しているわけではない。ある日から、毎回精神的にも肉体的にも、毎回同じ感覚にさせられるのだ。
「いつから、こんな感覚になったのか?」
ということを思いだしていれば、それは、
「まさとが、自分がりなからされていることを私に話した時だった」
という思いだったのだ。
その時から、約1時間という時間、持て余す時間ではあったが、その分、そのほてりを我慢できないところまで、きてしまうと、なるみは、自分の一番感じるところを触っただけで、完全に達してしまったのだ。
肉体的には、満たされた感覚になるのだが、心は違う。それでも、その瞬間が、ちょうど1時間という時間になっているので、その時なるみは、
「お客さんが感じているのは、こういう時間の感覚なのではないかしら?」
と感じたのだ。
そうなると、
「いかされてしまった」
と感じさせられるのだが、それはあくまでも、勝手な妄想であり、男からまったく触れられていないのが、悔しかった。
確かに、感じやすい身体ではあったが、
「私の身体、本当に敏感なの」
ということを、言いたくて、達した後、さらに男を求める目をしてしまうのだった。
なるみは、いつも、
「達してしまった」
そのあとは、妖艶な気持ちになる。
だから、その時から、