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一人三役

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 自分の中では、その判断はつかないと思いながら、今度考えたのは、
「なるべくなら、刺殺であってほしくないな」
 という思いであった。
 体から血が噴き出しているのを見ただけで、気持ち悪く感じるというのは、当然なのであろう。
 死亡推定時刻から考えると、すでに血は止まっていて、死後硬直がかなり進行しているはずである。
 そして、もう一つ、
「血を見るのが嫌だ」
 という意味でいくと、
「実は、刺殺よりも、もっと見たくない」
 と感じている殺人方法というのは、
「毒殺」
 であった。
 毒殺というと、すぐに感じるのは、
「血を吐いている」
 ということである。
 したがって、毒殺されたのであれば、口元から流れている血が、あたりにばらまかれているということで、しかも、
「吐血というのは、ナイフで刺されるよりも、どす黒い」
 というイメージがあるのだった。
 しかも、その臭いが、どのようなものか、想像を絶するものがあるように思えたのだった。
 刑事に促されて、死体を確認にいくと、やはり最初に目についたのは、
「血液の有無」
 であった。
 すると、案の定、死体が転がっている前に、血糊の残りがべったりと床にへばりついていて、それが、刺殺によるものであることは分かった。
 そして次に感じたこととして、
「思ったよりも、血液の量が少ないな」
 と思った。
「それは違和感というもので、死体の顔にいくまでに、絶対に最初に目がいくものだろうな」
 と感じたことであった。
「大丈夫ですか?」
 とさすがに、嗚咽しそうになっている松崎を見て、桜井刑事も言葉をかけてくれた。
 吐き出すまではいかなかったので、その恐ろしさを再度感じたが、今度は明らかに、
「刺殺死体なんだ」
 と感じたことで、さっきまで感じなかった、
「血の臭い」
 を感じたのだ。
 しかも、ただの血の臭いではない。湿気を含んだ、
「血の臭い」
 だったのだ。
 ここ最近、雨が続いていたような気がした。しかし、それを感じさせなかったのは、ここに来たのが、久しぶりで、しかも、ゴーストタウンで、埃がまっているということが分かっているからだっただろう。
 そう思うと、いまさらながらに、その場所における空気が、カラカラに乾いているのを感じた。
 そんな中に、
「血の海」
 だったのが、数時間前のことだった。
 と感じると、
「湿気を感じる」
 というのも、ある意味、正常な感覚なのではないかと思うのだった。
 松崎は、いよいよ死体のその顔を覗き込むと、
「あ、この人は」
 と思わず声を出してしまった。
「ご存じなんですね?」
 と桜井刑事に聞かれた松崎は、
「ええ、知っています」
 と答えた。
「誰なんですか?」
 と聞かれたので、
「この人は、沢村伸子さんと言われる方です」
 といった。
 さすがに、最初はだれなのか分からなかった。
「女性だろうな」
 ということは分かっていたが、その女性の中でも、正直言えば、そこに横たわっている人間を想像した時、
「ありえない」
 と最初から、頭の中にある、
「リスト」
 にはいなかったからである。
「沢村伸子」
 そうこの名前は、この商店街の存続を無視して、近くの大型商業施設のテナントとして心機一転、鞍替えしたのはいいが、結局半年くらいで、閉店に追い込まれ。そのまま助けもなく、廃業してしまった沢村氏の奥さんだった。
 そこまで考えると、
「あれ?」
 と思い返した。
「確か、奥さんは、離婚したんじゃなかっただろうか?」
 ということであった。
 そこまで考えると、確かに久しぶりに見た奥さんだったが、その顔は、
「本当に、伸子さんなのだろうか?」
 という思いである。
「変わり果てた姿になって」
 というのを、刑事ドラマなどの、
「殺人現場」
 で、死体を見て、それが知っている人であれば、第一発見者は、皆そう思うものだろう。
 だから。松崎もその思いは、類に漏れずに同じことを考えていたのだった。
「その沢村伸子さんというのは、どういうお方なんですか?」
 と。死体の身元確認を、松崎ができたところで、
「もう結構ですよ」
 と、桜井刑事に促されて、最初に事情聴取を受けていたところまで戻ってきたのだ。
 そのうちに、今度は、もう一人の刑事に促されても。
「次の人」
 が、死体の身元確認をしていたが、その顔を見ると、明らかに、
「想定がのものを見た」
 と感じさせられた。
 それもそうだろう。
「本当に久しぶりのものを見た」
 ということだったからだ。
 ここに警備隊としてきた三人が三人とも、伸子とそんなにかかわりがあったわけではないので、リアクションに変わりはないだろう。
「ということは、さっきの俺も、あんな表情をしていたことだろうな」
 と、松崎は感じていたのだ。
「沢村さんというのは、一年以上前くらいまで、この商店街で店長をしていた人の奥さんなんですが、すでに離婚されていて。今はおひとりではないか? と思っていたんですがね」
 と、松崎は言った。
 しかし、松崎はその時知らなかったのだが、伸子は、すでに結婚していたのだった。
 松崎は続けた。
「彼女の家庭は、最近、郊外に、大型ショッピングセンターができたのはご存じでしょう? そこに、引き抜かれる形で、あちらのテナントに入ったんです。ですが、半年もしないうちに、経営がうまくいかずに、最初のクールで、あえなく休業に追い込まれて、店を畳むことにしたということを聞いています。その時に離婚もしたようですね」
 というと、
「なるほど、そういうことは、よくあることなんですか?」
 と、桜井刑事が聞くので、
「そうですね、ありがちなことだとは思いますが、あまり聞かないというのも事実です。今回も、沢村さん夫婦だけですからね、商店街を捨てて、他のところに行った人を見たのは」
 と、松崎は言った。
 それを、刑事がどう聞いたかは分からないが、そのことと、
「今回の事件に同かかわりがあるかということを、少ない情報から、桜井刑事は考えているのではないか?」
 ということを、松崎は感じていた。
「松崎さんは、その夫婦と仲が良かったんですか?」
 と聞かれたが、
「いいえ、そんなことはないですね。そもそも、沢村さんの旦那さんは、人い相談するタイプではなく、勝手に独断で決めてしまうところがあるようなので、自分などは、今回の移転についても、夫婦で話し合ったということではなく。沢村さんが、勝手に決めたことではないかと思っていました。もし。そうだと言われても、私は、そこに違和感を感じることはなかったでしょうね」
 というのであった。
 それを聞いた桜井刑事も、きっと、
「まぁ、そういうことになるんだろうな」
 と、感じたとしても、
「それは、漠然とした考えではないか?」
 ということだろうと感じたのだ。
「じゃあ、奥さん個人に関してはいかがですか?」
 と聞かれた松崎は。
「奥さんとも、あまりお話をしたことがないですね。たぶん、見ていて感じたことは、自分の殻に閉じこもるタイプではないか? ということでしたね」
 と、答えた。
 答え方としては、
「可もなく不可もなく」
 という返答であった。
作品名:一人三役 作家名:森本晃次