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一人三役

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 と言って、さっきの予想とは異なって、まさかの最初は、刑事からの事情聴取であるということであった。
「私は、桜井といいます」
 と、刑事は名乗った。メモを取り出して、話を聞こうとする。
「早速ですが、皆さんは、ここで何をなさっておられたんですか?」
 と聞いてくるので、
「最近、空き巣とかが流行っているので、我々で、警備隊を結成して、自分たちの街を、自分たちで守る覚悟をしていました」
 と、少し皮肉を込めていうと、
「ああ、そうですか。最近流行ってますからね。それで、今日はその活動でここにおられたというわけですね? びっくりされたでしょう?」
 と刑事があっさりというので、完全に、皮肉をうまく?き消されたようになったが、別にそれを気にする松崎ではなかった。
「ええ、それはね。何といっても、今までこんなに長期に渡って、閉めたことのない店ですからね。蜘蛛の巣が張っていたり、完全な、ゴーストタウンですから、本当なら、何があっても、びっくりはしないという感じでしょうか?」
 とまたしても皮肉をいうと、それも一蹴するかのように、臆することもなく、
「それは大変でしたね」
 というと、今度は松崎の方から、質問するのであった。
「ところで、あれは何だったんですか? 私には人が倒れていると思ったんですが、どうも、びくともしないので、死んでいると思って、警察に電話したんですが」
 というと、桜井刑事は、
「ええ、あれは、すでに亡くなっている死体ですね。死後はどれくらいなのか、今鑑識の方が見ているところです」
 といっているところに、鑑識がやってきて、刑事に耳打ちをした。
 とうやら、何か分かったことを報告しているようだった。
 桜井刑事はそれを聞きながら、メモをしっかりと取っていて、さらに、松崎に聞いてくる。
「死亡推定時刻ですが、今から8時間くらい前だということですね。今の時刻は、ちょうど、正午くらいですから、午前余事前後ということになるでしょうか?」
 と刑事は言った。
「その時間帯のこの辺りは、以前であれば、まだ開いている店も、ちらほらありましたね。基本的には、飲み屋などは、この辺りでは、午前五時までは営業可能でしたからね」
 と、三度目の皮肉を言った。
 しかし、よく考えてみれば、
「何を言っても、皮肉にしかならない」
 ということになる。
「普段は、どうだった、しかし、今は」
 という話し方になるということは、当然、今の状態に対して。
「国も警察も何もしてくれない」
 と言いたいのだということになる。
 だが、刑事も皮肉を言われるくらいは慣れているのか、それとも、
「刑事のような仕事をしていると、皮肉を煙に巻くくらいの話術は、しっかり心得ているということか」
 と思うのだ。
 警察だって、公務員の端くれ、
「苦情を言われてなんぼ」
 というくらいのことを考えているのかも知れない。
 お役所仕事は、皆苦情を言われるのが仕事のようなもので、実際に、知り合いで公務員をしているやつがいて、そんなことを言っていた。
 その時は、この、
「世界的なパンデミック」
 になった時、
「公務員はいいよな、仕事にあぶれることはないからな」
 と皮肉をいうと、
「そんなことはないさ。しょせん俺たちは小間使い。要するに、苦情処理係でしかないのさ。上が決めたマニュアルを、感情をこめずにいうだけさ。感情を込めると相手に喧嘩を売っているようになる。だからといって、淡々というと、相手は舐められていると怒るだろうけど、それでも、喧嘩を売っていると思われるよりもマシだ」
 ということになるという話であった。
 それを考えると、
「公務員と警察って、同じ公務員だけど、同じなのかな?」
 と、松崎は考えていた。
「ちょっと、ご遺体をご確認願えますか?」
 と言われたが、他の二人は、まだ、事情聴取を受けているようだった。
「どうやら、死体確認も、それぞれでさせるみたいだな」
 と、松崎は感じたが、すぐに、
「それもそうか」
 と思ったのだ。そして、
「一番先に俺が確認することになったのは、それは、この桜井刑事が、この中では一番偉いからなんだろうな」
 と思った。
 松崎は、桜井刑事に導かれるようにして、死体を確認に行くと、そこにいるのは、よく見ると、女性のようだった。
 最初こそ、パニックになってしまい。さらに、真っ暗な中で動きもしない真っ黒な、想像以上に大きな物体があったということで、どうしようもなく不気味なものが、気持ち悪さとともに、もやもやした感情に包まれていた。
 ただ、そのうちに、死体ではないかと思ったのは、松崎だけではなかった。他の二人も口にこそ出さないが、そう思っているに違いない。
 なぜなら、口に出さないことが、
「死体ではないか」
 と思っている証拠だろ。
 気持ち悪さからなのか、
「口に出すのも恐ろしい」
 という感情からではないかと思うと、松崎は自分がそうなので、納得できると感じたのだ。
「一体、誰がそんなところで死んでいるのだろう?」
 と思うと、最初に見た時の残像があまりにも大きくて、目が慣れてきても、その大きさを自分で限定することができなかった。
 というのも、
「大きな物体」
 と最初に思い込んだことで、今になって見る物体との大きさの違いを、いまさらながらに思い知らされているのだった。
「俺が感じたその物体の大きさは、今見た感覚とはまったく違う」
 と思った。
「あれだけ大きいと思ったのは、死体だという認識が最初からあったことからだろうか?」
 と感じたからか、それとも、
「死体ではないと思いたいことから、その大きさが少しでも小さく感じてしまうと、今度見た時、さらに大きく感じ、死体だと思って自分の思いを自らで打ち消してしまいそうで、それが怖かったのだ」
 と感じたのだ。
「松崎さん、ご覧になってください」
 といって、刑事が懐中電灯で、その場所を照らしたが、スポットライトになって当たっていることが、これほど気持ち悪いものかと思わせるのだった。
 思わず、その顔をそむけた松崎に、桜井刑事は、
「しょうがない」
 と思いながらも、
「これは任務だ」
 と思ったのか、
「松崎さん、すみません。ご確認の方、よろしいでしょうか?」
 といった。
 すると、松崎は、覚悟を決めて覗き込んだ。さすがに、今まで生きてきて、まさか、死体の第一発見者になるなど、考えたこともないし、死体を現場で確認するなど、想像もしていなかったので、これほど気持ち悪いものはないと思ったのだ。
 もちろん、そこに転がっているのが死体だということは分かり切っていることだ。
 だから、いまさら覚悟さえ決めればいいと思っているのだが、その覚悟がなかなか決まらないといってもいいだろう。
 よく見ると、今度は、それが女だということは、慣れてきた目で、最初に全体を見渡した時に分かった。
 スカートを履いていたからである。
「まさか、女装か?」
 とも思ったが、素直に女性が転がっていると思うと、その大きさが小さく感じたのも分かる気がした、
「女だと思ったから小さく感じたのか?」
 それとも、
「小さく感じたから、女だと思ったのか?」
 ということであった。
作品名:一人三役 作家名:森本晃次