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一人三役

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 というのも、
「あの奥さんに感じている思いうというのは、それ以上でもそれ以下でもない」
 という感覚だったのだ。
 とはいえ、曖昧な感覚に違いがないということであるが、
「曖昧だからこそ、一点をとらえることで、見た焦点が、狭まることはあっても、広がることはない。だから、曖昧なんだろうな」
 と考えたが、こちらの回答も、
「無理のない回答だ」
 という考えだったのだ。
 桜井刑事がどれほどの経歴の人なのか分からないが、この話の内容が、普通に、
「どこにでもある、あるある話だ」
 ということになると思っているのだろう。
「そこにいる女としてが、どのような人生を歩んできたのか?」
 ということを、今まで、散々死体を見てきたということで、桜井刑事は感じているに違いない。
 ただ、今回は、第一発見者の松崎も感じていた。
 一年前まで、同じ商店街で、商売をしていた人なのだ。その人が、死体となって発見され、再度昔のことを思い出そうとしても、今となっては、
「曖昧なことしか思い出せない」
 ということなのだ。
 しかも、その記憶は、死体を見た今でも、どんどん薄れていっているように思えたのだった。
 それだけ、
「変わり果てた姿になった」
 ということになるのだろうが、
「今までも、奥さんのことを気にしたことがなかったのだろうな」
 と思わせた。
 だが、実際には、一度だけ気になったことがあった。
 それは、奥さんが、ある日、非常に慌てていて、
「奥さんのこんな顔初めて見た」
 と思ったのだが、当然、
「なぜ、こんなにも慌てているんだろう?」
 ということを感じさせられていたことからだった。
「あの時の奥さんは、慌てていたというよりも、狼狽していた」
 といった方がいいだろう。
 それは、
「確かに何か、慌てていたのは間違いないが、その時に感じた狼狽は、見られたくないことを見られてしまった」
 ということから感じたような気がした。
「じゃあ、一体何を見られたというのだろう?」
 と思ったが、思い当たるふしはなかった。
 その時は、てっきり、
「旦那と何かあったのか?」
 と思ったが、それなら、狼狽と慌てた格好で出てきた後から、旦那も出てきそうなものだと思ったが、出てくることはなかった。
「人によってはそれが普通:
 ということなのかも知れないが、少なくとも、旦那の沢村であれば、
「真っ先に宇飛び出してくる」
 という感覚になるのは無理もないことだろうと思ったのだった。
 だから、それが、
「ただの夫婦喧嘩」
 だったのかという疑問は残ったが、気になることというのは、二人が出ていくまで、
「本当に波風の立たない夫婦だった」
 と思い知らされるだけだった。
 しかし、頭の中には、奥さんの。
「あの時」
 というものが残っていたからだった。
 だが、出て行って少ししてから、そのことも一緒に忘れ去ってしまったということが分かったのだった。
「もう、別にどうでもいいことになってしまったか」
 ということであったが、別にそれはそれでいいのだろうということである。
「去る者は追わず」
 ということを信条にしていたので、別に気にすることもない。
 ただ、気になるのは、
「商売の行方」
 だったのだ、
「これで、商店街から抜けようとする人はいないだろう」
 ということで、
「もし抜けるとすれば、商売自体に見切りをつけ、サラリーマンか何かで生計を立てようということなのだろう」
 と思ったが、今まで、経営理論しか勉強してこなかったので、
「普通にサラリーマンに収まることができる」
 と、簡単に考えているとすれば、
「それは、一種の自殺行為で、どれだけ頭が悪いのか?」
 といえるように思えたのだ。
「俺が考えるに、商店街を捨てて、テナントに走ったのも、考えが浅いと思うが、サラリーマンでやっていけると思った人間の方が、はるかに、考えが浅いのではないか?」
 という風に考えるのだった。
 考えが浅いということを思うと、
「俺だって、そこまで浅はかじゃない」
 と松崎は思ったが、それは、松崎は今でこそ、こうやって商売を引き継いでいるわけだが、実際には、
「家を継ぐなんて嫌だな」
 とずっと思っている口だった。
 しかし、実際には無意識というべきか、
「このまま、商店街で頑張る」
 と思ったのは、
「いまさらサラリーマンなんてできるはずはない」
 と思ったからだ。

                 奥さんの秘密

 桜井刑事は、そこまで話すと、あとは適当に聞くだけで、その時の話を終えた。同じくらいのタイミングで、二人の質問も終わったようで、同じように開放されたのだが、どうも桜井刑事の性格からいうと、
「自分が先に終わってから、その後に、終わる人を、世間話で待っていたということなんだろうな」
 と思ったが、実は世間話の中に、
「警察として聞いておきたい」
 と思うようなことが含まれているような気がした。
 というのも、
「ここの商店街というのは、昔からあるんですか?」
 というところから始まったのだが、どうもこの始まり方が、
「松崎が一番乗って話せるくらいにまでなった」
 ということを感じさせるものであった。
 つまりは、短時間で、いかに話をさせるかというテクニックを、
「さすが刑事」
 ということを思わせたに違いない。
 桜井刑事は、
「ありがとうございました。また、お話を伺うことになるかも知れませんが、その時はよろしくお願いいたします」
 というのであった。
 三人は、
「お役御免」
 ということになると、それぞれ落ち合った。
 警察の調べがまだまだ続いていて、鑑識が、いろいろ見ているので、まだ死体の持ち運びもしていないかのようだった。
 それを見ると、三人は、捜査を尻目に、とりあえず、そのバカラ立ち去ることにした。
 当初の目的である。
「防犯」
 ということであれば、今の状態が一番安全かも知れない。
 何しろ警察がいるのだ。調べが終わり、現場保存のための、、線が敷かれ、そこは立ち入り禁止ということになるのだから、何かあれば、警察が調べてくれる。
「これほど安全なことはない」
 ということで、三人は、その場から立ち去ることにした。
 とはいえ、このまま帰るのも、何か嫌な気がした。
「お互いに警察から他の人が何を聞かれたのか?」
 ということが気になるに違いない。
「ファミレスでも行こうか?」
 と松崎が言い出したので。二人は、無言でお互いを見渡すこともなく、頷いたのだ。
「世界的なパンデミック」
 のせいで、24時間営業の店が、最近は少なくなったが、今でも、その店は24時間なのは分かっていたのだ。
 さすがに深夜、人は少なかった。
 パンデミック前であれば、学生連中が、勉強と称して、深夜たむろしているのを見かけるのだが、最近は、その姿もめっきり見なくなった。
 深夜に開いているお店が少なくなったことで、余計にそうなのだろう。
 何といっても、びっくりしたのは、
「コンビニが、閉まっている」
 ということであった。
「緊急事態宣言中」
作品名:一人三役 作家名:森本晃次