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一人三役

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「110番だ」
 と感じることは、当たり前のことに違いない。
 皆が皆、同じような精神状態になるとは限らないだろう。
 人それぞれに性格があるというもので、皆の性格というのは、なんとなくであるが分かっているつもりであり、
「俺と同じ方が珍しいのかも知れないな」
 と感じるほどであった。
 だから、松崎が、
「110番だ」
 といった時、誰も、反対もせず。それに従った。
 我に返った瞬間、皆頭の中が一瞬真っ白になり、それまで考えていたかも知れないことを忘れてしまったのだ。
 それは、相手に、
「先を越された」
 という意識があるからで、これから何を言っても、二番煎じにしかならないことが、恥ずかしい」
 と感じるからに違いない。
 そう思うと、二度とこの件で前に出てこれない。この瞬間から、この場の主導権は、
「松崎に任された」
 といっても過言ではないだろう。
 それを感じると、松崎というのは、
「しっかりしないといけない」
 と思い、
「自分に主導権という権利とともに、責任という義務を同時に負ってしまったのだ」
 ということになるのだった。
 警察に連絡をまず入れると、
「すぐに、捜査員を向かわせます」
 ということだったので、しばらく待たなければいけなくなった。
 そういう意味でも、
「ここに一人で待っていなくてよかった」
 というのは、皆感じたことだったであろう。

                 その物体は?

 約15分ほどして、表に、けたたましいパトカーの音が聞こえた。
 あっちやこっちから多重で聞こえてくるように感じたので、
「サイレンの音、特有の、ドップラー効果ではないか?」
 と感じたが、考えてみれば、殺人事件なのである。一台だけで来るわけはないだろう。捜査員が少なくとも、二人はいるとして、それ以外に、鑑識がいなければいけないということくらいは、刑事ドラマを見たことがある人であれば、大体気づくことであろう。
 サイレンが鳴りやんでから、革靴のような乾いた音が、複雑に聞こえてくる。
「それだけたくさんいる」
 ということであろう。
 階段から上がってきた警官を見ると、制服警官がまず入ってきて、鑑識が入ってくる。そして、ゆっくりと、背広の二人組が入ってきたので。
「ああ、最後のが刑事さんなんだな」
 ということにピンときたということであろう。
 刑事がどうしても気になってしまって様子を見ていると、見るからに落ち着いていて、
「これが刑事というものか」
 と、テレビドラマでしか見たことがなかったが、
「さすが、いかにも」
 と感じた。
 それは刑事に対してではなく。ドラマでこちらの刑事とそんなに変わらない雰囲気を作れる俳優が、すごいと感じたのだ。
 松崎だけが感じたことなのか、周りも感じたことなのか分からないが。松崎は、どうしても、二人の刑事が気になったのだ。
 他の人たちの目は、どうしても、鑑識官の動きが気になるようで、その動きを見ていると、
「すごいな」
 というような、尊敬のまなざしのようなものを見つめていた。
 当然おことながら、
「テレビドラマで見た光景との違いを探っているというのは、分かり切っているといってもいい」
 と考えるのであった。
 そんな状態であったが、刑事がいくつか、自分でも、いろいろ探っていた。
 そして、何かに気づいては、
「鑑識さん」
 といっては。呼び寄せ、無言で気になった場所を指さしていた。
 その様子は、さすがに、
「格好いい」
 と感じるものであり、
「刑事というもの、さすがに場数を踏むことで、着実にしっかりしてくるんだな」
 と感じるのであった。
 鑑識も、刑事にはそれなりに敬意を表してか、当たり前のように命令されたことをこなしているのだった。
 服装の色からみても、帽子をかぶっているところも、
「いかにも、黒子のようだ」
 と感じ、思わず笑ってしまった松崎だったが、他の人も、見ていると、なんでもないようなタイミングで笑い出したのを見ると、それが、
「思い出し笑いだ」
 と感じると、
「さっきの自分が感じたことを、今感じたんだな」
 と思ったが、もし、自分の前に感じた人がいたとしても、そこまで気づくはずもないということで、
「俺が一番じゃない可能性だって普通にある」
 と感じたのだった。
 警官が、自分たち、ちょうど3人のところにやってきて。
「少しお話を聞かせてもらえますか?」
 ということであった。
 松崎としては、
「あれ? こういうことは刑事が聞きに来るものではないのか?」
 とも思ったが、そういえば刑事ドラマで、第一発見者の人が、刑事に聞かれる時、
「また話せってか?」
 と文句をいうと、刑事が、別に驚きもせずに、
「何度でも聞くのが我々の商売ですから」
 といって、涼しい顔をして、手帳を開いていたのだ。
「ああ、あの時と同じシチュエーションだな」
 と思うと、怒りも不思議と浮かんでこなかった。
 しかも、同時に感じたことがあり、そっちの方が、言葉に信憑性があるということを感じたのだった。
 というのも、
「人というのは、毎回同じことを答えるわけではない。何度も同じことを聞くと、そのうちに違う答えをしてしまい。それが、嘘をついているのだとすれば、すぐにバレるかも知れない嘘だ」
 ということになるだろう。
 それを考えると、
「警察が何度も聞くというのは、うそ発見器を遣うよりも、マニュアルであるが、却って信憑性の高いということを、認識しているからではないか?」
 と思えたのだ。
「人というのは、ちょっとしたことでボロを出すものであり、身構えている時よりも、ふとした油断をした時の方が、その思いは強いのかも知れない」
 と感じるのだった。
 とりあえず、まずは、
「警官から」
 ということである。
「制服警官というのは、日ごろから、刑事に頭が上がらないということで、一般市民にも腰が低いものだ」
 と思っていたが、意外とそんなことはなく。
「高飛車とまではいかないが、どこか、マウントをとっているように見えるのは気のせいだろうか?」
 と感じたが、相手も、
「しょせんは、制服警官ではないか」
 といって、舐められたりすれば、
「彼らとしても、屈辱を感じるかも知れない」
 ということであった。
 警官は、一人ずつ呼んで話を聞いているようだった。
 まず、一人が警官に呼ばれたが、このやり方も、三人が、口裏を合わせるようなことがないようにということからであろう。
 もちろん、
「警官というのが、どう考えているのか」
 ということもあるだろう。
「黒子のようだ」
 と感じたのだから、何を考えているのか分からない。
 それは却って、こちらとしても、その真意を探るのは難しいことだろう。
 しかし、一人が今聴取を受けているところで、ちょうど二人の刑事がやってきて、自分の方には、少し年配の刑事がやってきて、
「第一発見者の方ですね」
 というので、
「はい、そうです」
 と答えると、
「少しお話をお聞かせ願えますか?」
 というので、
「ああ、いいですよ」
作品名:一人三役 作家名:森本晃次