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一人三役

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 やはり、中学生になって、わだかまりは消えたかのように見えるが、根本的な距離が縮まっているわけではない。
 どちらかというと、
「交わることのない平行線」
 たどっているだけだった。
 そうでなければ、
「地球を一周するところで、もう一度どこかですれ違うことになる」
 と思っていたのだが、それが、
「平行線」
 ということになってしまっては、自分ではどうすることもできないという回答にしかならないのであった。
 中学時代から、いや、もっと前からだったか、いつも彼のそばにいたやつがいて、他から見れば、
「あいつの奴隷じゃんか」
 と言われていることも分かっていた。
 しかし、どうすることもできない。それが、
「俺の宿命のようなものなのかな?」
 という、あいまいな結論を出すことが、中途半端な性格を作っているということだと考えられるのだろうか。
 彼は名前を、
「松崎陽介」
 という。
 商店街の中では、ブティックを経営していて、父親が、元々洋服屋をしていたので、そも店を改造して、ブティックにしたのだった。
「親父が絶対に、何かいうと思ったんだけどな」
 と、松崎がいうと、まわりの店長仲間は、
「そうだよな。普通だったら、自分が始めた店を、そのまま息子にはやってもらいたいものだろうからな。だけど、あれはお前が正解だったかも知れないな。あれから、売り上げは結構伸びたんだろう」
 と言われた。
 確かに売り上げは伸びたが、
「爆発的に」
 というわけでもない。
 郊外型の大型ショッピングセンターには、遠く及ばず。何とか、この商店街にしがみつこうとしたのが正解かどうか、正直まだ分からない。
「俺が、この商店街を、盛り返してみせる」
 などという大きなことをいうわけではないが、何とか、しがみつくだけのものだけでもいいから、頑張りたいと思った。
 というのは、
「この商店街で生きていくだけでも、えらいといえるのではないか?」
 そう思うと、松崎は、却って、
「気が楽になればいいだけだ」
 と思うのだった。
 というのも、この商店街の中で、郊外型のショッピングセンターが近くにできるという時、
「テナントに入りませんか?」
 ということで、あちらかのオファーを受けたところもいくつかあり、中には、そのオファーに乗っかった人もいて、すぐに、あちらのテナントとして、店を構えることにしたのだが、最初こそ、
「こんな、先の見えた商店街でくすぶっているよりも、たくさんの客でにぎわっているところで商売がしてみたい」
 ということで、向こうに移ったのだ。
 彼は、まだ、40代前半くらいだった。
 だから、昔の
「賑やかだった商店街」
 というものを知らない。
 もちろん、それは松崎も同じなのだが、だからといって、松崎は、簡単に相手がいうことに乗るつもりはなかった。
「当然。親父も反対するだろうしな」
 ということもあったが、頭の回転の速い松崎には、相手の気持ちが見えた気がしたのだ。
「急いで、大型ショッピングセンターを作ったのだろうが、その理由は、正直、ブームの波に乗り遅れてはいけないという思いからであろう。しかし、そのために、どうせ、テナントもろくに決めていないだろうから、今から探すのかも知れない」
 と思っていたところの、テナントのオファー。
 それを見た時、
「やっぱり」
 と感じたのだ。
「そんな考えが浅はかな連中の経営するところに乗っかっても、どうせ、ろくなことにならないだろう」
 と思った松崎は、向こうに行った連中の様子を見ていたが、客が多かったのは、最初の数週間。そこから先は、平日の午前中など、
「スタッフの数の方が多い」
 ということになる。
 休みの日は、駐車場がないくらいに忙しいが、そのギャップを考えると、とても、儲かっているようには見えなかったのだ。
 案の定、店をたたむところや、支店として入ったところの撤退が相次いでいたのだ。
 そのうち、商店街から入った店も、いつの間にか、貸店舗の張り紙が貼ってあったりしたのだった。
 きっと、
「商店街でなら、商売になったのだが、テナントとして入ると、なかなか難しいのであろう」
 ということであった。
 商店街というと、たくさん店が並んでいるとしても、ライバルではあるが、
「皆が仲間」
 といってもいいだろう。
 だから、売れなかったら、
「他の店からの紹介だったり」
 という声かけもあったりするだろう。
 それに、基本的に、似たようなライバル店を近くに置いたりなどはしない。さらに、同じような系列の店であれば、遠くに配置したりという配慮があるに違いない。
 しかし、大型商業施設のテナントというと、基本的に、配置はそんなに意識していないであろう。
 そもそも、商店街のように、そんなにいろいろな種類の店があるわけではなく、ブティックやアクセサリー屋さんなどが、軒を連ねているという感じで、
「同じようなブティックが数軒並んでいる」
 という光景だってたくさんあることだろう。
 そんな状態で、売れるわけもない、それぞれの店が潰しあうのもオチだ。しかも、もし、その店が商店街にあれば、今までその店をひいきにしていた人がいたとしても、テナントのようなところに移転したとしても、今まで通りに、ひいきにするだろうか? 両隣が似たようなブティックがあれば、当然、比較して見るに違いない。
「商店街にあったら、そこしかないので、その店に行ったのに」
 と思うだろうし、そもそも、そこに店があったとして、
「商店街のあの店だ」
 ということにちゃんと気づくだろうか?
 それを思うと、
「客というのは、想像以上に店のことを考えてくれているわけではない」
 ということを、思い知らされるだけだった。
「馴染みといっても、冷たいものだ」
 と、今までの常連さんが、平気で隣の店で買い物をしているのを見ると、実に、世間の世知辛さというものを思い知らされるだけのことであった。
 さらにもう一ついえば、
「テナントとして入ったところで、このように、店の入れ替わりが激しかったりすると、今までは隣は競合店ではなかったとしても、今度入ってくる店は、競合店かも知れない」
 ということで、
「これまでの店でも、販売がギリギリなのに、隣に競合店が来たりすると、もうたまらない」
 と思うと、
「今までの商店街にいた頃が、厳しかったとはいえ、まだましだったのかも知れないな」
 ということで、テナントとして出店した人たちが、また商店街に戻ってくることはなかった。
「どの面下げて戻ればいいんだ」
 ということである。
「確かに、戻ることは可能なのかも知れないが、一度裏切った形になって、もし相手が許してくれたとしても、こちらは、一度裏切ったのだ。こちらの気が持たない」
 ということで、結局、もう、後戻りはできないということなのだ。
 そもそも、商店街を、
「裏切って」
 テナントとして、出店してしまったのだから、最初から戻るつもりなどないだろう。
 商店街にいれば、細々とでもやっていけたかも知れないところを、
「起死回生」
 を狙ったわけでもないが、
「落ちぶれていく商店街」
 というのを、
「抑えられない時代の流れ」
作品名:一人三役 作家名:森本晃次