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一人三役

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 であっても、後半にならないと、時短営業しなかったコンビニが、もちろん、店舗形態のよるのだろうが、時短営業を常時している店が増えてきたのだ。
 そんなことを考えると、
「ファミレスで人が少ないのも、分かる気がする」
 といってもいいだろう。
「奥の窓際の席」
 というのは、誰も何も言わなくとも、いつもの指定席だった。
 もちろん、空いていることが大前提だが、少なくとも、一人で来るときも、
「奥の窓際というのは、指定席」
 という感覚だった。
 ここにいる三人は、皆、席に関しては同じだったが、
「席の場所」
 というのはそれぞれ違った。
 松崎は、奥の窓際」
 というのが指定席だった。
 理由は、
「店全体を見渡せるから」
 というのが理由で、彼は性格的に、
「まわりが見えていないと我慢できない」
 というところがあった。
 下手をすると、
「呼吸困難に陥りそうになる」
 というくらいで、自分では、
「閉所恐怖症だからではないか?」
 と思っていたのだ。
「閉所恐怖症」
 というと、電車に乗る時も同じで、他の人は、まぶしいからといって、ブラインドを下す人がほとんどだが、松崎は、絶対に下ろさない。
 もし、下ろそうとする人がいると、文句をいうくらいに感じていた。
「それで喧嘩になるくらいなら、喧嘩してやる」
 というくらいに思っていたので、それだけ本当につらいようだった。
 そして、あとの二人も着席の際に何も言わず、お互いに目配せをすることもなかったので、それぞれの指定席がバッティングすることはなかった」
 ということであろう。
 それぞれ席に着いて、いつもの、
「ドリンクバーを注文し、紅茶、コーヒーを入れにいって、戻ってくると、だいぶ先ほどのショックは消えていた」
 顔色がしっかりしてきたことで、笑顔も戻ってきていたのだ。
「それにしても」
 と最初に口を開いたのは、三人の中では一番若い、まだ20代の男だった。
 彼は、まだ店長というわけではなく、父親を見ながら修行しているところであった。店長としての、
「帝王学」
 のようなものは、父親からだけではなく、
「先輩から学ぶというのも一つだ」
 と父親も言っていた。
 これからの世代を担うお前たちが、
「それぞれに協力しあって、商店街の未来を築いてくれればいい」
 といっていたのだ。
 その理屈は、松崎にも、他の先輩にも分かっていて。青年が聞いてくれば、皆優しく教えてくれるというものだった。
「それにしても、何なんだい?」
 と、言葉を一瞬飲み込んだ青年に、もう一人が助け舟を出した。
 松崎は、いつも、
「ここぞというときに発言すればいいんだ」
 ということで、誰かとこういう会話になった時は、最初の方では、
「あまり自分から口を出さない」
 というようにしていた。
 今回も、黙って聞いていることにしたので、それを分かっているもう一人が訪ねたのであった。
「まさか、奥さんがあんな形で死体で発見されるなんて」
 といって、少し落ち込んでいた。
 どうやら、彼が、沢村家が、商店街を、
「裏切って」
 街から出ていくということで、皆が怒っている中で、彼だけが、真剣にさみしそうにしていたのを、松崎は分かっていた。
 だから、松崎は、
「彼は、奥さんのことが好きだったんだろうな?」
 と思っていた。
 彼は名前を、樋口といった。
 樋口青年は、最初こそ、寂しそうにしていたが、そのうちに、急に安心したようになり、笑顔が漏れるようになった。
 それは、ちょうど、沢村夫妻が、テナントに入るということで、引っ越していった時のことだった。
 彼らの中に、
「商店街を裏切った」
 という意識があるのかどうか、最初は分からなかった。
 しかし、
「近所に、大型商業施設ができる」
 ということを聞いて、それからずっと悩んでいたのは間違いないことで、皆が、
「そんなものに負けてたまるか」
 といって、士気を高めていた時に、いつも悩んでいる様子を浮かべていた沢村を、まわりの人間は、決して快く思っていなかったに違いない。
 そんな沢村を見ていてなのか、樋口も何か様子がおかしい。
 ということで、松崎は二人ともを気にしていた。
 しかし、表立ったトラブルがあるわけではない。もし、トラブルのようなものが少しでもあったのなら、それが何か分からないまでも、見ていて、分かるはずだからである。
 そして、二人が接触するということもなかった。どちらかというと、避けているという感じで、それも、避けているのは、樋口青年の方であった。
 その様子を見ていて、
「沢村が何か、商業施設のことで悩んでいるというのは分かったが、それを見ている樋口青年も、何かに悩んでいる。しかし、それは、商業施設に対してのことではないように思う。それであれば、樋口は沢村に接触するはずなのに、避けているからだ、となると、樋口は、沢村を避けながら、気にしている様子というのは、これほど目立ち、しかも、それが、アンタッチャブルであるということを思わせるに違いない」
 と感じさせるのであった。
「奥さんが殺されたというのは、本当にびっくりだよな」
 といったのは、もう一人の、名前は秋元といった。
 秋元は、三人の中では、一番、
「中立的な考えを持つことができる」
 という男であった。
 松崎も、そういうもそういう意味では中立的な考えを持てるのであるが、彼の場合は、まわりから、
「ご意見番」
 あるいは、
「元老」
 とでも言われているのだった。
 年齢も、皆の中では一番年を食ってもいると、その分、しっかりしているということが露呈しているからであった。
 要するに、
「皆が認める、元老」
 ということである。
 そんな立場になると、表向きは、
「中立」
 ということであっても、どうしても、まわりをまとめなければいけないという意味での、
「中立」
 ということなので、秋元のような、
「まったくかかわりにならない」
 という中立とは、質が違っているということになるのだ。
 秋元のその言葉を聞いた樋口青年は、
「ええ、そうなんですよ。奥さんが殺されたということもそうなんですが、僕は、どうして死体があそこにあったのか? ということの方が不思議なんですよね?」
 というのであった。
 樋口青年が奥さんのことを、
「男として見ていた」
 
 ということは、
「公然の秘密」
 ということであった。
 だからといって、樋口青年と奥さんが、
「男と女の関係」
 になっているとは思えなかった。
 なぜなら、樋口青年が、
「不倫に嵌っているとすれば、もっと、異常な状況になっている」
 といえると思ったからだった。
 樋口青年は、
「一つのことに嵌ってしまうと、猪突猛進になってしまう」
 というほどに、いい言い方をすれば、
「実直な性格」
 ということであり、悪い言い方をするとすれば、
「融通が利かない」
 ということになるのである。
 そして、そういう人間にありがちな、
「ウソをつけない性格」
 ということで、思ったことが、すぐに態度に出るという、ある意味、
「損な性格」
 といってもいいだろう。
 だが、意外とそんな樋口青年は、
「先輩たち」
作品名:一人三役 作家名:森本晃次