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疑心暗鬼の交換殺人

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 そうでなければ、どこから足がつくか分からないからだ。
 特に、交換殺人などというものは、
「二人が知り合いである」
 ということが分かった瞬間、
「これは交換殺人ではないか?」
 ということがバレる確率が、グンと跳ね上がることになるだろう。
 さすがに警察としても、一応は、
「交換殺人」
 というものが、脳裏をよぎるかも知れないが、よぎったとしても、
「実際に交換殺人など、ありえない」
 と思っているだろう。
 特に警察は、
「組織で動くところ」
 である。
 だから、個人で、
「これは交換殺人だ」
 と思ったとしても、その信憑性を、会議で示して、
「よし、交換殺人の線で捜査してみよう」
 と、本部長が決めなければ、本人がそう思ったとしても、交換殺人として捜査をすることは、
「和を乱す」
 ということで、許されることではない。
「単独行動」
 ということで、捜査から外されるのは、当たり前だろう。
 刑事ドラマなどで、単独行動の常習犯が、主人公になっているが、あればあくまでもドラマであって。あんなことが毎回許されるわけなどないに違いないのだ。
 それが警察という組織であり、
「いいも悪いも警察だ」
 と言われるゆえんなのであった。

                 疑心暗鬼

 安西が大学時代に、文芸サークルに入部し、小説を書いていたのだが、中学時代の部長との関係は、
「交わることのない平行線」
 だった。
 それは、安西が自分で臨んだことであり、別に、
「部長とどうにかなろう」
 などという下心はなかったのだ。
 どちらかというと、
「そばにいるだけでいい」
 という感覚で、その時にあった距離感というものが、実に絶妙だったという気がするのだ。
 確かに、
「そばにいるだけで心地よい」
 ということはある。
 それは、相手が人間だということよりも、ペットだという方が、気持ちとしては強い。
 安西家では犬を飼っているのだが、その犬が、家族全員に、
「癒しを与えてくれる」
 のだった。
 特に、妹のいちかは、犬の面倒も嫌がらずに見るし、犬もよくわかっているのか、妹に一番なついているのだった。
 犬の種類は、柴犬で、安西家で、最初に犬を飼おうと言いだした父親が、
「犬の種類は何がいい?」
 と言った時、ほとんどが柴犬だったのだ。
 ペットショップに行った時、皆が、それぞれに可愛い犬を見ていて、
「ああ、この子も可愛い」
 といって、他の種類の、ポメラニアンだったり、ミニダックスだったりを気にしていたのだが、いちかだけが、柴犬の子供のそばから離れなかったのだ。
 いちかも、飼っていた犬も、そのことを意識しているのだろう。
 だから、二人とも、その絆は家族の誰よりも深いことだろう。
 そのことは、皆が分かっていて、
「うちの子は、いちかのものだっていいかも知れないわね」
 といって、二人の仲を見ながら、さらに癒しを感じさせられているかのように思うのだった。
 いちかもそのことを分かっているのか、
「この子は、私が面倒見るね」
 と、普段は、家族との団らんを嫌がるところではあったが、犬の話題になると、積極的に出てくるのだった。
 いちかは、中学時代から、基本的に変わったところはないように見えた。
 部活でも、目立ってはいるのだが、それは、自分から目立とうとしているわけではなく、いちかの内面からの雰囲気が、勝手にまわりに花を咲かせるのだった。
 それは、華やかではあるが、賑やかな感じというわけではなく、内に秘めたるものが、いちかの中で、次第に膨れ上がり、まわりを、華やかにさせるという、特技を持っているということになるのだろう。
 それを思うと、
「いちかというのは、自然とまわりに取り巻きを作ることができる」
 という性格なのだが、だからといって、それをひけらかすことはなく、その目はいつもある一点に向けられていたのだ。
 しかし、それが、本人ということであれば、
「どこまでをそう思うのか」
 ということが分からなくなっている。
 ただ、いちかの場合はそれでいいのだ。
「すべてをわかっていないといけない」
 ということのない人だっているんだ。
 と考えたことがあったが、それが、いちかだったというのは、自分でも、想像の範囲を超えていたと思えるのかも知れない。
 いちかが、犬の散歩をするようになってから、しばらく経ってのことであった。
 ある日のことで、いつものように、いちかが、公園から回り込んで、住宅地の近くを通って、帰宅してくるのだが、その日は、ちょうど、犬が、急にリードをいきなり引っ張ったので、いちかがそれを抑えることができず、思わず手を放してしまった。
 そこで、犬はそのまま草むらの方に侵入していったのだが、どうやら、
「用を足したかった」
 ようである。
 普段であれば、近くの電柱でするのだろうが、どうも、大のようだったので、犬としても、普段から、母親にしつけられているので、犬も気を遣ったのだろう。
 今までは、ずっといちかが散歩に連れて行っていたのだが、ここ最近では、いちかが部活で遅くなっているということで、ずっと母親が散歩に連れてきていたのだ。
 ただ、この日は、どうも、犬が、いちかと一緒にいきたいということで、イチカから離れなかったことで、悪い気がしていないいちかは、
「じゃあ、私が連れていくね」
 ということで、いつもの散歩コースを久しぶりの散歩ということで出かけていったのだった。
 いちかのそんな姿を見た犬も、普段よりも、喜びの姿勢を見せ、飛び上がって喜んでいたのだ。
 いちかは、犬を連れての散歩を楽しむつもりだったが、嬉しがっている犬に引っ張られるような感じだった。
 だから、いつもの力で握っていたが、いちかには、想定外の力で犬が引っ張ったので、つんのめりながら、リードから手を放してしまったのだ。
 急いで犬を追いかけたが、すでに草むらの中に入っていて、おいかけることができなかった。
 いちかは、その時、近くにワゴン車が留まっているのは意識していた。
 しかし、まさかそこから男が二人出てくるとは、想像もしていなかった。
 その日のいちかは、普段から散歩しないでいいということで、最近は、家ではフリルのついたミニスカートを履いていた。
 いわゆる、
「ロリータファッション」
 ということなので、車から降りてきた連中は、
「ロリコン趣味」
 ということであろう。
「ロリコン趣味が悪いというわではないが、明らかに、やつらの目は、滾っていた」
 といってもいいだろう。
 それから先は、いちかの身に何が起こったのか、回想することなどできるはずもなかった。
 いちかは、目の前で起こっていることが、まるでスローモーションのように見えているのだが、意識は明かに飛んでいる。
 あっという間のことだったように思うのだが、情景は、スローモーションである。
 泣けど叫べど、男たちは理不尽に微笑んでいるだけだ、
「必死に叫んでいるのに、息を飲み込んでいるかのようで、呼吸もおぼつかない。男たちのその顔は、抵抗してもダメなことは分かるのだ」
 しかし、かといって、抵抗しないわけにはいかない。
作品名:疑心暗鬼の交換殺人 作家名:森本晃次