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疑心暗鬼の交換殺人

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 まるで夢を見ているような感じだと、人はよくいうが、それは、
「これは自分に起こっていることではないんだ」
 ということを、夢のせいにして、なかったことにしたいという、
「できるはずのない感覚になっている」
 ということなのであろう。
 その時間が、1時間だったのか、2時間だったのか分からない。男たちに蹂躙されていた時間よりも、その場に放置されてからの方がどれだけ長かったことか。
「私が何をしたの?」
 と、なぜか、自分が悪いという方向にしか頭がいかない。
 自分が悪いことをしたと思わなければ、この時の説明はつかないだろう。
「とにかく、この場から逃げ去りたい」
「何もなかったことにしたい」
 ということしか、頭になかった。
 時間があっという間に過ぎていくのは、
「現実逃避」
 を試みる自分が、許せないと思っているからであろうか?
 いちかを襲った連中は、捕まった。
というか、親を伴って、
「自首してきた」
 というのだ。本来であれば、その場で出頭するのであれば、
「自首」
 というのだろうが、犯行が明るみになってから、親に連れられて出て行って、
「何を自首というのか?」
 ということである。
 どうやら、加害者は、まだ未成年ということで、当時はまだ、20歳未満が未成年だった時代である。
 しかも、親が金持ちで、ちっとは名の知れた
「先生」 らしいというが、そんな息子がいて、
「何が先生だ」
 ということだ。
 自分の子供一人をまともに育てられずに、犯罪を犯して、顧問弁護士がどうやら、今までかなり握り潰していたということである。
 それを考えると、家族としては、腹が煮えくりかえるくらいだ。
 相手の弁護士は、
「容疑者はまだ、未成年で、前途ある青年なので、訴えたとしても、大した罪にはならない。だから、示談金を弾むので、それを受け取って。早く忘れることです」
 というのだった。
 しかも、裁判などになると、被害者も裁判に出頭し、聴かれたくないこともあれこれ聞かれるというのだ。特に、
「同意の上ではなかったか?」
 などということまで聞かれるので、
「そんな思いをするよりも、早く忘れて、先に進んだ方がいい」
 という言い方をするのだ。
 一番腹が立ったのが、
「何が前途ある青年だ。前途ある青年が、そんなことをしていいのか?」
 ということであったが、それ以外のことは、確かに弁護士の言う通りだった。
 しかも、被害者である妹の方が、
「もう、これ以上事を荒立てて、自分がさらし者になるのは嫌だ」
 と言いだしたのだ。
 そうなってしまうと、
「泣き寝入りは嫌だとは思うがしょうがない」
 ということにしかならないのだ。
 それで結局、それで、起訴しないことにしたのだが、その時はそれ良かったのだが、その後、どこから漏れたのか、妹が、
「暴行された」
 ということが世間に広まってしまったのだ。
 一度不起訴と決まった事件を、また蒸し返すわけにはいかない。不起訴ということは、
「無罪判決」
 と同じだからだ。
 だが、そのせいで家族はバラバラのようになり、最後には、妹は自殺してしまったのだ。
 あれだけ、自分に対して優しく、これからも、
「美術で頑張る」
 と言っていたのに、完全に美術どころか、学校にすらいけなくなってしまい、それまでの夢も希望もすべてが消えてしまったのだ。
 家族も、一度は、
「妹のために」
 ということで。不起訴ということに落ち着いて、
「後は忘れるだけ」
 ということだったのに、ウワサになると、
「あの時起訴すればよかったんだ」
 と、あの時の話を蒸し返すことになる。
 しかし、何を言っても、妹が晒し物にされないということにはならない。
 そもそも、こういうウワサが怖くて、起訴するのを辞めたのではないか。こうなってしまうと、すべてが後の祭りであるが、どうしようもない状態になってしまったというのは、誰に文句を言えばいいのだろう?
 誰も悪くない状態で、状況は最悪になった。
「家族が離散するのも、当たり前だ」
 と、いうことである。
 安西は、その時、自分が、躁鬱症のような状態になり、落ち込んでしまった鬱状態の中で、まわりの人間に対して、
「疑心暗鬼に陥っている」
 といっても、過言ではないという状態になっていたのであtった。

                 大団円

 こうなってしまっては、安西の怒りは収まらない。もちろん、気持ちは復讐に向くのだ。そして、思い出したのが、自分が大学時代に書いた小説だった。
 それが、
「交換殺人」
 というものを描いた作品だった。
 その作品では、自分の中で、思っていることであった。
「交換殺人というのは、小説でしかありえない」
 ということを書きながら、
「実はそれが、警察の盲点でもある」
 という考えである。
「一般人がありえないと思っているのだから、警察だって同じことを考えているに違いにない」
 ということだ。
 だから、
「敢えての交換殺人は、却って犯人のもくろむ、完全犯罪を形成できるかも知れない」
 と感じたのだ。
 もっといえば、
「復讐さえでいれば、俺はそれでいいんだ」
 という思いであった。
 別に警察につかまろうが、その時は、もうどうなったていいと思ったのだ。
 そもそも、復讐機というのはそういうものであろう。そう考えて、安西は殺害計画を練るのだった。
 そこで、一人の男性が、
「もうすぐ、死を迎える」
 ということが耳に入った。
 これは、偶然ということでもあったが、逆にいえば、
「その情報が手に入ら明ければ、この計画を行おうとは思ってもみなかった」
 といってもいいだろう。
 そもそも、自分の知り合いが、保険の外交員をやっていて、その女から、逐一の情報が流れてくるのだった。
 彼女は、
「安西の女」
 だった。
 ある意味、強引に自分のものにしたようなものだったが、彼女の方でも、一度関係ができると、安西にぞっこんであった。会社の情報など、どんどん流している。二人にとって、保険会社としての、
「守秘義務」
 など、どうでもいいと言わんばかりだった。
 ただ、彼女の方としては。
「安西さん。本当にやるの?」
 という覚悟を知りたかった。
「ああ、やるさ。俺には、もうこれしかないんだ」
 というのだ。
「そう、分かったわ。私も覚悟を決めるわね」
 とばかりに、犯罪への協力を惜しまないと言った覚悟を持った、彼女だった。
 交換殺人の計画としては、まず、その
「死が近づいている男というのが、実はチンピラのような男で、この男を殺したいという人が結構いっぱいいる」
 という情報も入っていた。
 だから、安西は、その中の男を物色し、そして、一番ふさわしい男に、白羽の矢を立てたのだ。
 この男は、実質的に、相手を殺さないと、自分の人生の先はない。
 という男で、しかしかなりの小心者である。
 だが、そんな男こそ、一度信じてしまうと、もうそれ以外は見えなくなる。
 つまり、
「計画に一度入り込んでしまうと、言いなりとなる」
 とうことであった。
 安西が立てた計画は、こうである。
作品名:疑心暗鬼の交換殺人 作家名:森本晃次