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疑心暗鬼の交換殺人

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 という基本的な考えにいたらないように、事件を攪乱しているのだとすれば、それも一種のミスリードだということになるだろう。
 そもそも、密室トリックというのは、そのほとんどが、
「針と糸を使ったような、機械的なトリック」
 というのが、密室トリックである。
 だから、
「密室の謎」
 ということで小説を読み進んでいくと、他に絡むトリックがなければ、
「なんだ、つまらない」
 ということになるのだ。
 探偵小説黎明期から、少しして、ある探偵小説家が、
「トリックの基本はほとんど出尽くしているので、あとは、そのバリエーションだ」
 と言っているのだったが、まさにその通りで、パターンにこだわらず、複数のトリックを組み合わせる話だったり、連続殺人にそのトリックのバリエーションを組み込むということが大切なのだろう。
 さて、後者の、
「一人二役」
 であったり、
「交換殺人」
 というのは、
「今回の犯罪が、この種類の犯罪だったらどうなるか?」
 ということであるが、一人二役というのが、
「顔のない死体のトリックのバリエーションだ」
 ということになるのとは別に、
 前者でいうところの、密室トリックというのは、実は、
「本当は、密室トリックなどを使うというのは、犯人側からすれば、あまり効果のないものだ」
 といえるのではないだろうか。
 というのも、犯人側とすれば、
「誰か自分たちではない人を犯人に捜査陣をミスリードすることで、自分たちの安全を確保する方がいい」
 といえるのではないだろうか。
 つまりは、
「密室などというトリックは、前述のように、こちらこそ、他のトリックの伏線として使うためのものでないといけない」
 ということになるのだが、中には、
「偶然、密室となってしまった」
 という犯罪も、探偵小説にはあったりする。
 この場合も、密室トリックの謎というよりも、
「偶然に密室になってしまった」
 ということが分かれば、犯人たちが、必死になって他の人を犯人だとミスリードするような仕掛けは、すべてが、無駄になりかねないということだ。
 つまり、そういう仕掛けは、故意に作られたものであり、偶然の産物として出来上がった密室トリックというのが、フェイクのようになると、ミスリードが確定することになり、結果として、
「その人は犯人ではない」
 ということが確定したといえるであろう。
 そういう意味でも、
「密室殺人」
 というのは、基本的には不可能だということになるのだが、機械的トリックというものを使えば、できないことはない。
 ただ、それだけでは、本来の意味での、
「犯した殺人の犯人が、自分ではない」
 ということにしなければいけないのだ。
 それは、
「完全犯罪」
 というものでなくとも、自分が犯人と特定されたり、もしされたとしても、警察に捕まりさえしなければ、犯人の勝ちだといってもいいだろう。
 しかし、それも、数十年くらい前から言われている、
「時効の撤廃」
 ということから、その様相は変わってきていた。
 そういう意味で、ますます、
「完全犯罪」
 というものは起こりにくくなってきた。
 といってもいいだろう。
 ただ、今までの、15年の時効期間というのは、中途半端な長さだっただけに、その期間に起こる、
「いろいろなドラマ」
 というものが、探偵小説としての構成要件を満たしているといってもいいだろう。
 特に
「法律の抜け目」
 のようなものがあって、よくテーマとなるのが、
「後一日で時効だったのに」
 というような話にすれば、サスペンスとしては、話が面白くなったりするものだ。
 また、時効というものは、
「海外にいる間は、その時効の進行がストップする」
 と言われているので、例えば、
「3年間、海外に潜伏していた期間があった場合は、延べにして、犯行は行われた時から、時効成立までに、18年が掛かる」
 ということになるのだ。
 それが時効というもので、
「時効成立までに海外潜伏期間を差し引く」
 ということが分かっていたとしても、法律の解釈で、
「どこからが、海外潜伏なのか?」
 ということになるのかということを、しっかり把握していないといけないだろう。
 犯人が、隠れていて、時効成立を狙ているのだとすれば、確実に15年の潜伏は必要だということだ。
 しかし、今のように、時効撤廃であれば、そこまで気にすることはないのだろうが、本当に15年の潜伏というのは可能なのだろうか?
「もし、時効が成立したとすれば、捜査陣の方で、最初から間違った道を捜査していて、ありえない犯人を想定してしまっていたなどということになり、事件が解決などするわけはない」
 ということになるであろう。
 だから、犯人は、そこまで必死に隠れる必要もない。
 隠れるとしても、必ずどこかでボロが出るであろうから、警察が、ミスリードさえしなければ、犯人逮捕は、そんなに難しいことではないだろう。
 つまり、キチンとした事件の事実を掴んでさえいれば、日本の警察であれば、犯人を探し出すことは、そこまで難しくはないだろう。
 何といっても、15年間、姿をくらますということは、難しいだろう。
 よく、テレビなどで、
「整形うしている」
 などと言われるが、そんなことが可能なのだろうか?
 保険証を使えば、そこから簡単に足がつくであろうし、それこそ、
「もぐりの、整形外科医にやらせるということか?」
 当然保険もきかないだろうから、相当巨額な金銭が発生することになる。そうなると、犯行が、銀行や金持ちの家に対しての強盗や、身代金を狙った、営利誘拐でもなければそんな大金をポンと払えるわけではない。
 そもそも、大金持ちだとすれば、そこまでして犯行を犯すのだとすれば、それは金銭目的ではなく、怨恨によるものだということになるだろう。
 そうなると、犯人像が自ずと浮かんでくるというもので、
「15年という間、息をひそめて生きていくということが可能なのだろうか?」
 ということである。
 そうなると、考えられることとしては、
「自分を死んだこととする」
 という方法である。
 特に、日本では、
「7年間、行方が分からないと、死亡したことになる」
 という法律がある。
 もし、これが、
「時効の15年との絡みがどうのようになるのか?」
 ということは、今のように、時効が撤廃された今となっては、難しいことだろう。
 ただ。この場合は、あくまでも、
「犯人が誰なのか?」
 ということを警察が掴んでいる場合に言えることである。
 もし、他の人を犯人だとして、指名手配をいていれば、基本的には、安全だからである。
 ただ、参考人として考えているのであれば、難しいところであるが、
「そもそも、捜査本部というのが、いつまで設置されているのかということは分からないが、半年も一年も、同じ事件の捜査本部が作られているということは考えられないであろう」
 だから、そういう事件は、
「お宮入り」
 ということで、
「未解決事件」
 のファイルに閉じられ、書庫に眠ることになるのだ。
 今では、時効も撤廃されたので、余計に未解決事件というのが、増えていくばかりである。
作品名:疑心暗鬼の交換殺人 作家名:森本晃次