疑心暗鬼の交換殺人
「数名だけのことではないか」
ということであった。
ただ、最初こそ、
「まるで、10人くらいいてもおかしくない」
という感じではないか。
と思っていたのは、この同一人物と思しき人間が、まったく目立っていなかったからである。
しかし、その目立ちを感じるようになると、
「何となく、人数相応」
という形ではないか。
と思うようになったのだ。
それは
「投函事件」
の時の、
その変わり身の素早さに通じるものではないか?
ということであった。
本人とすれば、
「別に、意識しているわけではない」
ということかも知れない。
だから、意識していないだけに、これだけ変わり身が激しいのに、本人は、
「ビフォーアフター」
で変わっていないという気がするのだった。
それを考えると、
「本当はわざとやっているのであって、それは、こちらに何かを思わせるためのミスリードがあるのではないか」
と感じると、
「じゃあ、この男は、投函事件と、コソ泥事件の中の豹変する前と後とのどれを一番見てほしい」
と感じたのだろう。
そもそも。そこまで考えてくると、
「待てよ」
と桜井刑事は考えたのだ。
投函事件というのは、
「何となく気持ち悪い」
という人が言ってきただけで、
「事件性は、今のところはない」
といえるだろうが、ことが、
「殺人予告」
というものであり、それよりも何よりも、
「名指しされた人間」
というのが、この脅迫状を受け取った時には死んでいたというのである。
そもそも、
「名指しされた男が、余命僅かだということを、どれだけの人間が知っていたか?」
ということである。
確かに、
「もうすぐ、俺は死んでしまうんだ」
と思うと、
「どんなにこの世に未練がない」
と思っている人であっても、
「本当にそうだろうか?」
と考えるはずだ。
というのも、
「人間の欲というのは、無限だ」
と思っている人は多いだろう。
だからこそ、ある程度、いろいろと目標を果たしてきても、さらに目標が生まれるのだから、
「ひょっとすると、不老不死の薬をほしがっているやつは、本当にいるのかも知れない」
と感じるのだが、それは、絶えず夢を追い求め、
「そこから逃げるということを絶対にしない」
ということを考えている人にはあり得ることなのかも知れない。
それを考えると、
「目標があるから、生きられるのであって、その目標は、基本的に何だっていいのだ」
と言えるのではないだろうか。
ということであった。
交換殺人
殺人の中で、
「小説などでは、時々見かけるが、実際には起こりえないのではないか?」
というのも、いつくかあるだろう。
密室殺人のように、
「物理的には不可能だ」
というものであったり、交換殺人のように、
「理論的に不可能なんだ」
というものなどがある。
密室殺人と、交換殺人の違いとして、ピンとくることとしては、
「密室殺人というのは、最初から、これが密室殺人であるということを分からせておく必要がある」
ということであり、逆に、
「交換殺人というのは、この事件が、交換殺人だということが分かってしまうと、その時点で犯人側の敗北」
ということになる。
そういう意味で、最初から分かっていないと困るものとして、
@顔のない死体のトリック」
であったり、
「アリバイトリック」
などがそうであろう。
それぞれに、どういうトリックなのかということが示されたうえで、そこから謎解きが始まるというものだ。
しかし、
「わかってしまえば、犯人側の負け」
というのは、一人二役であったり、今回の交換殺人であったりである。
つまり、前者は、最初からトリックの種類が分かっているということで、基本的には。このトリックだけではなく、
「他のトリックと組み合わせることで、複雑にするというよりも、探偵であったり、捜査陣を攪乱させる」
という目的があるのであろう。
そういう場合は、どちらかというと、
「本格派探偵小説」
に多いのではないだろうか?
つまり、
「トリックの組み合わせによって、事件を複雑化させ、謎解きを困難にする」
ということである。
たとえば、
「顔のない死体のトリック」
などは、探偵小説の中の定義として、
「被害者と犯人が入れ代わる」
というような公式があるという。
しかし。そこに、
「一人二役」
というトリックを織り交ぜることで、事件を複雑にすることになる。
ただ、あくまでも、トリックとして表に出ているのは、
「顔のない死体のトリック」
であり、裏にある、
「一人二役トリック」
というものが、露呈してしまうと、
「顔のない死体のトリック」
が暴露され、今回も、
「一人二役がトリックの裏にある」
ということが分かった時点で、犯人側の、
「ほぼ敗北」
ということが決定しているのであった。
この場合の
「一人二役トリック」
というのを、組み合わせるのは、
「1+1=2」
と公式が、
「3にも4にもなる」
ということで、発展形のトリックになるということである。
そもそも、
「顔のない死体のトリック」
自体が、公式という形になっているのだから、ここでの公式が発展するというのも分かることだろう。
ただ、その代わり、
「わかってしまうと終わりだ」
ということであり、
「顔のない死体のトリック」
の中に、さらに、一人二役というのが潜んでいるということで、それが結局、一人二役トリックが、
「バレなければ、犯人の勝ち、バレてしまうと、犯人の負け」
ということになるのだ。
当然。緻密な構成が必要になるというものだ。
だが、逆に、今度は、
「密室トリックの場合はどうであろうか?」
密室殺人というのは、
「基本的にありえない」
と言われているものであるが、それを敢えて密室殺人にするのは、考えられることとしては、
「アリバイトリック」
との絡みである。
完璧なアリバイを持っている人は、
「そこが、密室であることで初めて、アリバイが成立する」
ということであれば、探偵をはじめとした捜査陣は、その人に動機が存在しているとすれば、一応、
「密室とアリバイの因果関係」
というものを考えるであろう。
という意味で、表にあるのが、
「密室トリックであっても、そこに潜んでいるアリバイトリック」
というものが、存在しているということが分かり、そのアリバイが崩れるということは、密室の謎も解けるということで、こちらは、完全に、
「諸刃の剣だ」
といってもいいだろう。
いわゆる。
「入らなければ出られない」
ということであり、さらに、ここにバラバラ殺人というのが絡むことで、被害者の特定ができるわけで、そのことがトリックとなることで、事件をさらに、
「カオスにする」
ということでもあった。
そもそも、胴体だけを持ち去ったと考えるのではなく、
「実際には、他で殺されて、ここに運ばれてきた」