満月と血液のパラレルワールド
と言われていた。
都会の方でも、何とか生き残ろうと健気に生きている人がたくさんいるが、どうしても、物資に限りがあり、人口を賄えないということもあり、毎日のように、
「栄養失調で、バタバタと死んでいく」
ということが横行しているのだから、まだまだ都心部の復興は難しいといってもいいのであった。
田舎の中で、しかも、大都会からは、完全に離れた地方都市傘下といってもいい村が、存在していた。
そこは、自給自足を行うには、十分なところであったが、ここでもいかんせん、
「若い労働力」
が絶対的に不足しているのであった。
その若い労働力の中で、二人の男が、復員してきて、家族もなく、住む家もないということで、最初は自害しようと考えたが、何とかこの村に辿り着き、施しを受けていた。
二人が偶然に村をほぼ同じ時期に訪れていたということもあり、それぞれの家では、その男のことを、最初のうちは、隠していた。
かたや、
「息子が帰ってきてくれた」
という意識から、自分たちだけの息子として迎えようと思ったのと、かたや、
「労働力を他に取られたくない」
という、少しまわりを軽々しいぇいるという、それぞれ別の理由で、その若者を抱え込むことになった、それおれ二つの民家だったのだ。
二人というのは、
「一人は、南方戦線からの復員。一人は、満州から、中国戦線を渡って復員」
という、それぞれ違った復員兵だったのだ。
この村には、以前から、伝説めいたことがいわれるようになっていた。
というのも、
「満月の夜には、何かが起こる」
という伝説であった。
「満月の夜」
というのは、不吉でもあり、実際には、
「子供がたくさん生まれる」
というような都市伝説もあり、
「悪いことばかりではない」
とされていた。
だから、満月に対しての謂れは、何もこの村に対してだけというわけではないのだが、他では、なぜか、
「満月おことに対してはタブー」
という風潮があったようだ。
例えば、
「満月に生まれた子供は、病気を持っていた李、将来、危険人物になる」
などということを、平気でいい、実際に、偶然か必然なのか分からないまでも、実際に、そんな状況になった人を探してきては、
「やはり、満月の夜は恐ろしい」
という風潮を流していた。
ただ、これは、よく分からない不吉な異名を持つと言われる、
「反政府組織」
が暗躍している。
と言われていた。
その組織には、何か大きな組織がバックにいるということであるが、それが、どれほどの規模なのか分からない。
「世界的に有名な宗教団体だ」
という話もあるし、
「日本政府ではないか?」
という話もあった。
さらには、
「皇室」
のその側近ではないか?
と言われることもあったようだ。
だが、実際には、そんなウワサを耳にしたことも、暗躍が確認されたこともなかった。
戦時中などの、政府に逆らう、あるいは、危険分子とみなす連中を、ことごとく取り締まってきた、
「特高警察」
は、当時の法律としてあった、
「治安維持法」
に基づいて、密かに、このウワサの真意を調査していたという話は、ウワサのような形であったという。
いわれのないただのウワサではないかということも言われたが、当時の日本のように、反乱分子であったり、政府に逆らうものは、取り締まるという、
「有事においては、大切なこと」
とされてきたことであるから、ちょっとしたウワサでも、無視することができないのが、
「特高警察」
というものであり、政府首脳だったのだ。
ただ、あまりにもウワサが漠然としていて、その根拠どころか、出どころもなかなかつかめない状態だったことから、どのように捜査をしていいのかということが、大きな問題となっているのであった。
そのうちに、戦争が終わり、
「武装解除」
であったり、
「財閥の解体」
などが進む中、登園のごとく、
「特高警察」
というのも姿を消してきたので、この時の、
「満月のウワサとなったであろう、秘密結社の捜査」
というものが、曖昧となり、どこまで捜査が進んでいたのかということも、分からなくなっていたのだ。
ドラキュラ
この村で、二人のか悪者が暗躍しているということを、誰もしらなかった。それぞれの存在を知っているのであるが、その人物の素顔を見た人は、そんなに多く会いだろう。
それぞれの民家に入り込んで、それぞれに昼間は農作業をしてうて、その姿は、誰もが見ているはずなのだが、
「じゃあ、実際に、どんな顔なのか?」
ということを聞かれると、
「言われてみると、特徴もない顔だったので、何とも言えないな」
という答えしかなく、
「じゃああ、会えば分かるというくらいなのかい?」
と聞かれると、その表情は、さらに曇るのであった。
「いや、見ても分からないかも知れないな」
ということを、その村人はいう。
とにかく、
「印象が薄い人なので、ほとんど分からない」
ということであった。
そしていうのが、
「まるで石ころのような感じなんだよ。見えているのに、印象に残らないので、ひょっとして、見えていることがウソなんじゃないだろうか?」
と感じるほどだったのだという。
それを聞くと、他の人も、
「そうだよな、あんなに印象に残らない人はいないよな」
ということであったが、彼らは、そもそも、この村から出たことはない。
しかも、この村では、
「よそ者は一切受け付けない」
という、
「暗黙の了解」
のようなものがあった。
それは、あくまでも、
「この村の血を絶やさない」
ということがいわれていることであり、実際に、他から、新たな血を入れなくても、村のなかだけで、
「血の系統」
というものが、完結できていたのは、偶然だったのだろうか?
そういう意味で、この土地に置いて、
「血筋」
というものは大切だった。
そう、この村で、他の血を受け入れることがタブーだと言われていたのは、江戸時代までだったが、実際には、
「他から入れなくても何とかなった」
というのが、この村の伝統だった。
しかし、日本が敗戦したことによって、この村での、これまでの神話として信じられてきたことは、
「本当は迷信ではないか?」
とも、言われてきた。
特にこの村では明治期から、
「日本が他国に敗れるということはない」
という伝説を持っていた。
もし、敗れるということになれば、これまでの伝説を覆すことになり、
「他から、血を入れてもそれは仕方がないことだ」
と言われるようになってきて、今回のように、
「働き手がいない」
という場合でも、受け入れる体勢は整っていて、実際にやってきた二人を受け入れたということであった。
「伝説」
というものが、壊れる瞬間というのは、実際に、
「あっという間のことなのかも知れない」
といえるのではないだろうか?
そんな村に、最初にやってきたのは、
「竹中」
という男だった。
作品名:満月と血液のパラレルワールド 作家名:森本晃次