満月と血液のパラレルワールド
特に、湯川博士や、竹中博士たちが研究することは、あくまでも、
「戦争に勝利」
するための科学力の利用でしかなかったのだ。
世界を震撼させたゼロ戦の開発などが、そのいい例であっただろう。
世界水準を超えた戦闘能力を持ったゼロ戦であったが、その性能を出すために、犠牲になったのが、
「安全性」
というものであった。
打たれて、相手の弾が当たってしまうと、その薄い機体では、あっという間にやられてしまう。
相手はその弱点を知らない間は、
「ゼロ戦と、ジェット気流に遭遇した時は、迷わず逃げろ」
と言われていたくらいなので、戦わずして逃げるというのが相手の作戦だった。
しかし、それは考えてみれば、日本軍がしなければいけないことだったのだ。
ゼロ戦の操縦は難しい。
というのは、極限まで戦闘に特化した機体なので、その軽さであったり、不安定さというのは、パイロットが熟練でなければ、その特化した機体を操ることはできないのだ。
だから、どんなに優秀な機体であっても、パイロットが優秀でなければ、
「操縦はできない」
ということになる。
そうなると、一番の問題は、
「熟練のパイロットを失ってはいけない」
ということであり、それがうまくいかないと、ゼロ戦というのは、ただの箱になってしまうのだった。
特に、艦載機なので、空母の甲板にいるところをパイロットごと、飛び上がる前に、攻撃されれば、ひとたまりもない。燃料が誘爆して、空母ごと、乗組員もろとも、海に沈んでしまったのだ。
この時、物理的に失った機体や空母よりも、ゼロ戦に関しては、
「優秀なパイロット」
を失ったことで、大東亜戦争の戦略的な優位が、完全に逆転したということだったのである。
対立
日本国は、この村に、二人の学者を送り込ませて、表向きは、
「二人の農作業従事者」
ということで、何ら問題なく、この村に潜伏させていた。
しかし、実際には、二人のために研究所を山奥の洞窟に作っていて、そこで、研究をっ継続させていた。
というのも、元々の研究所というものが、空襲で壊されてしまったので、
「研究は、ままならない」
と思われていたが、日本軍は、空襲を恐れ、密かに研究器具や研究所の機能を、山間部に、
「疎開」
させていたのだ。
さすがに、山間部の農村には、空襲もなく、しかも、本当に山の中に穴を掘って、退避させていたので、ほとんど、被害はなかった。
しかも、この村の奥には、軍の施設があり、そこは、研究所になっていて、占領軍も、「使われていない施設だ」
ということで、見ていなかったのだ。
だから、いずれは解体するか、接収するつもりだというようなことであったが、
「まずは、都心部の復興を急がないといけないということで、研究所は、手付かずだったのだ」
そこを、軍は、
「俺たちは解体されるだろうが、研究だけはそこで続けてくれるとありがたい」
ということで、二人の学者に研究の継続を任せたのだ。
その研究の名目は、
「血液の研究」
ということだったので、とりあえず、占領軍にも、ごまかしが利いた。
といっても、
「そもそも、731部隊関係のことは、ある程度、大目に見ている占領軍なので、この研究所も、その派生だ」
ということが分かっているので、あまり強くは出ることができない。
何しろ、占領軍にとっては、
「最高国家機密」
に近いことだったので、それをばらされることを思えば。
「血液の研究」
というのは、今後の自分たちも利用できるということで、
「とりあえずは、様子を見る」
ということしかできなかったのだ。
それを考えると、
「占領された日本であったが、占領軍にも、迂闊に手を出さないというところもあるんだな」
ということであった。
占領軍というのも、
「確かに今回は、戦勝国」
ということになったが、実際には、その戦勝国の中で、すでに、対立が始まっていたということである。
それが、
「民主主義国家」
と、
「社会主義国家」
との対立であった。
社会主義、つまり、
「共産主義」
というのは、そもそもが、民主主義、
「資本主義国家」
から見れば、
「敵対している相手」
だったのだ。
だから、社会主義国家である、
「ソビエト連邦」
というものができ、その間の混乱に乗じて、民主主義陣営は、
「多国籍軍」
というものを形成し、
「シベリア出兵」
というものを行ったではないか。
だが、ソ連を撃滅することができない間に、ヨーロッパでの情勢が怪しくなり、ナチスが、
「ドイツの再軍備」
というようなことをしたため、その軍事力を使って、周辺諸国を占領していき、いよいよ、ポーランドに侵攻したことで、
「第二次大戦」
というものが勃発したのだった。
そもそも、ドイツは、ポーランド侵攻前に、
「領土的野心は持たない」
ということを約束しておいたのに、平気で、ポーランドに侵攻した、
しかも、その時、
「元々敵対していたはずの、ソ連を手を組んだ」
ということで、世界を震撼させたのだ。
「ヒトラーは、反共主義ということで、他の民主主義の国とは、共産主義が、共通の敵だったはずなのにである」
要するに、
「利害関係が一致した」
ということなのだ。
「利害が一致すれば、反発している相手とも手を組む」
というのは、政治や、外交では、普通にあることなのかも知れないが、さすがにこの行動は世界的には、信じられないものだっただろう。
それを思えば、
「ヒトラーの言っていることは、信じられない」
といってもよかったのかも知れないが、それでも、信じたというのは、それだけ、
「お花畑的発想だった」
ということなのだろうか?
実際に、社会主義国家と手を組んだヒトラーだったが、それは、
「ポーランド侵攻」
ということ、それから、フランス、イギリスに侵攻する時、
「西部戦線に力を注いでいる時、東から攻められると、どうしようもない」
という、いわゆる。
「第一次大戦の失敗」
ということが頭にあったのだろう。
しかし、あくまでも、ヒトラーの狙いは、
「ロシア侵攻だった」
のだ。
それを、スターリンですら失念していたというのは、それだけヒトラーという男が、
「政治的にまともな外交ができる」
と考えていたのだろうか?
そもそも、利害関係が一致しただけの、同盟だったのだ、その大義名分がなくなれば、
「そりゃあ、敵対関係に戻るのも当たり前のことだ」
といってもいいだろう。
そうなると、イギリス侵攻を諦めたドイツは、戦法を変え、今度は、
「ソ連に襲い掛かる」
という、戦略をとった。
さすがに、準備をしていないソ連軍は、ナチスの、
「電光石火作戦」
というものに、歯が立たない。
あっという間に信仰されることになるのだが、結局、
「ナポレオンの失敗」
を今度はヒトラーが繰り返したのだ。
「急な寒波で、思いもよらぬ、銭湯不能となり、ドイツ軍は、初めての敗退となり、ここから、作戦が空回りして、ソ連に対して苦戦することになる」
作品名:満月と血液のパラレルワールド 作家名:森本晃次