満月と血液のパラレルワールド
「人間になり切れなかったことで、妖怪になった」
という話があった。
しかし、この話の、彼らは、
「本来なら人間になるはずのものが、突然変異というべきなのか、人間になれなかったことで妖怪になるのだが、これも実は妖怪としては、中途半端なものだった」
ということなのである。
これは、イソップ寓話の中に出てくる、
「卑怯なコウモリ」
という話を彷彿させるものに感じられるのだった。
というのも、この、
「卑怯なコウモリ」
という話は。
「鳥と気も尾が戦をしていて、獣に向かっては、自分を獣だといい、鳥に向かっては自分を鳥だと言って、逃げ回っていた」
ということであった。
つまりは、コウモリという動物が、獣でも鳥でもない、中間的な存在であることから、戦の間は逃げ回っていたが、戦が終わると、
「卑怯者」
ということを言われるようになり、
「洞窟の奥深くで、ひっそりと暮らすようになり、決して、人間世界には姿を現さない動物」
ということになったのだ。
これは、
「人間の前に決して姿を現さない妖怪変化」
と同じではないか?
といってもいいだろう。
つまりは、
「人間にも、妖怪にもなれずに、中途半端な存在の生き物は、人間にも、妖怪にもその存在を知られるものではない」
ということになるだろう。
人間から見れば、そんな、
「妖怪人間」
は、妖怪にしか見えず、
妖怪からすれば、
「人間にしか見えない」
ということになるのであろう。
それを考えると、
「妖怪人間」
というのは、
「本物の妖怪」
というものへの、
「進化の過程」
ではないか?
と考える学者もいたりするくらいだ。
竹中も、実は似たようなことを考えていた。
「ひょっとすると、妖怪人間くらいのものであれば、作ることができるのではないか?」
という考えもあった。
この妖怪人間という発想は、一種の、
「改造人間」
つまり、
「サイボーグ」
という発想に匹敵するものだという発想が、竹中の中には密かにあり、
「731部隊」
の中でその研究が実際になされていたのだ。
研究の中には、実際に、
「戦争に勝つ」
という目的で研究されている、
「伝染病の培養」
それも、竹中博士の中で、重要な研究材料だった。
しかし、他の研究員は、
「まさか、竹中博士が、そんな不老不死の研究を行っているなどということを想像もしていなかったので、容易に研究材料の共有」
ということをしていたのだった。
竹中博士は、その頭脳は、部隊の中でも一目置いていて、彼だけ、
「特別待遇」
というものを受けていた。
しかし、竹中本人もしらなかったのだが、
「731部隊」
というところには、もう一人、
「特別待遇」
を持って受け入れられている人がいた。
彼も竹中と同じように、名目は、
「学徒出陣」
ということでの出征であったが、実際には、極秘裏の研究のために、日本から、こちらの部隊に配属されたわけである。
ただ、悲しいかな、世の中が、そんな状況ではなくなってきた。
研究に金を使って行うだけの余裕が、国家にはなくなっていたのだ。
「もし、戦争に負けてしまったら、日本は占領され、この研究所の存在は、すべて葬られなければならない」
ということは、政府や軍、さらには、
「731部隊」
の面々も、覚悟していたといってもいいだろう。
そうでないと、
「お国のために、玉砕までして死んでいった同胞に顔向けができない」
という、最終的には、彼らは研究員ということでもあるが、軍人であり、軍人としての誇りと、さらには、愛国心というものから、最後には、
「この研究室と、運命を共にする」
ということは考えられていることであろう。
それを思うと、
「竹中や、もう一人の研究員も、同じ考えであるに違いない」
と思われていた。
だが、実際には、その考えは、占領軍の思惑とは違っていて、彼らは、その研究成果を欲しがっていた。
それも、
「自国の利益」
ということもあるが、
「来たるべき、社会主義との闘い」
というものにおいて、核兵器と同じだけの抑止を持つ、
「科学兵器」
というものの力を欲しがっているのではないだろうか?
それを考えると、
「日本が滅んだ時は、自分たちもこの世にはいない」
と思っていた彼らも、最後には思いとどまったといってもいいだろう。
日本政府から、
「証拠隠滅」
というものを言われ、必死になって、証拠隠滅に走っていたのだろうが、それは、敵国にもその動きは察知されていて、事前に、この研究所は、占領されていたとも考えられる。
実際には、満州には、ソ連軍が入り込んでくる前だったので、まだ、民主主義体制の国が入ってきても、目立たないようにやれば、問題にはなかっただろう。
密かに、研究員を脱出させ、本国に連れて帰ったりして、あとは、連合国によって、証拠隠滅が行われたとすれば、日本が行うよりも、速やかだったことだろう。
どうしても、証拠隠滅には、躊躇があっただろう。
そうなると、連合国側としても、
「日本が降伏する前に、この研究所が存在していたということすらも、打ち消すことにしないと、研究員を連れ帰っただけに、もう、後戻りはできない」
ということだったのだろう、
だから、戦後、
「アウシュビッツ」
などのドイツにおける強制収容所の存在は明るみに出たが、
「731部隊」
の存在は、跡形もなく消えていたというのも、分かるというものだ。
ドイツの場合は、
「人道問題」
つまり、
「ホロコースト」
を暴くことで、ドイツを裁くのだが、それは、
「民族の粛清」
という問題が孕んでいることが大きく、
「これは、世界に公表すべきこと」
ということで、敢えて、証拠隠滅をしなかった。
しかし、
「731部隊」
の場合は、化学兵器、生物兵器のノウハウをいただくということでは、すべてを秘密に行い、
「最初からなかった」
ということにしておかなければいけないということなのである。
ただ、占領軍にも、
「竹中と、もう一人」
という、極秘の中のまた極秘の存在まではしることはなかった。
だから、彼らは密かに、部隊を脱出し、日本に帰国していた。
そして、ある程度のほとぼりが冷めた頃に、命の存続ということで、それを、
「空襲でやられていない、農村部に身を寄せる」
ということで、占領軍の思惑から逃れるということを考えていたのだ。
つまり、
「彼らには、その裏で操っている、国家とは別の結社がある」
ということである。
元々は国家だったのだが、占領されることになり、
「国家ぐるみ」
ということにだけは、してはいけなかった。
そうなると、
「我が国の存続」
というのも危うくなるからであった。
まずは、
「国家の存続」
「国体の維持」
それが、国家にとっての一番の問題だったのだ。
そんな731部隊が、
「解体」
ということになり、その存在は、
「墓場まで持っていかなければいけない」
ということになった。
作品名:満月と血液のパラレルワールド 作家名:森本晃次