悪魔への不完全犯罪
「いやいや、俺は何を考えているんだ?」
と、あれだけ遭いたいと思っていた相手に満を持して会うつもりだったのに、気が付けば、また冷めている自分がそこにいたのだ。
しかし、
「言い知れぬ、この気持ちは何だろう?」
と感じたのも事実で、それがどこから来るのかということを考えると。ふいに頭をよぎったものがあった。
「そうだ、これこそ、賢者モードではないか?」
と、冷静になれば、簡単に分かるはずのことであったが、それでも、木がつぃた時、
「よく自分で気づいたな」
ということが分かったほどであった。
「賢者モードというのは男にしか味わうことのできないことだ」
ということであったので、
「じゃあ、俺が今感じているような思いは女性はしない」
つまりは、
「いつかさんは、感じていてくれるはずのない感情なのか?」
と思うと、急に寂しくなってきたのだ。
「男と女って、肉体も違えば精神も違う」
と思い、
「だから引き合うのだろうな」
と思うのだが、
「本当にそれだけのことなのだろうか?」
と感じるのだった。
そんな中で、
「半分こしよう」
といってくれた同僚の女の子の存在が、それまで、
「女の子を好きになる」
ということをしようと思わなかった坂下の中で、何か壊れたものを感じた。
実は、坂下には、
「女の子を好きになりたくない」
という理由があったのだが、それは、後々分かってくることになるのだろうが、この時、一度、
「女の子を好きになってもいい」
と感じさせる相手に出会ったというわけである。
ただ、今までは、
「風俗の女性」
しか相手にしてこなかったので、どのように接すればいいのか分からなかった。
そこで、最近プライベートで友達になったやつを呼び出して、いろいろ、
「うまくやってもらおう」
と考えたのだ。
その友達というのは、最近、ネットで友達になったのだ。
好きなゲームをしていて、ますはゲームのことを優しく教えてくれたことで、気持ちが安らいでくるのを感じ、
「そういえば、最近プライベートで友達がいたことなどなかったな」
と、最後は大学時代の、
「就活前だった」
というのを思い出した。
といっても、就活前ということえあれば、あれは、大学二年生の頃だっただろうか。
あの頃というと、友達といっても、そんなに真剣に付き合っているわけではなく、ただ、
「友達と言える人をたくさん持っていたい」
という、普通の大学生が思うことを感じていたのだ。
いくら、大学にいる間は、
「坂下財閥の息子であっても、別に皆には関係ない」
ということは分かっていた。
だからこそ、
「数だけはたくさん知り合いを作っておこう」
と思ったのだ。
しかし、それは、あくまでも勝手な思いで、
「いくら数だけいても、そこに、
「友達としての意義がなければ、何にもならない」
ということを、後になって感じたのだ。
そうなると、
「友達がいるといっても、薄っぺらいもので、数が多いだけ、収拾がつかなくなるというものであった」
ということである。
大学生の頃は、今から思えば、大人の遊びを覚えた頃で、結構、お金を使っていた。
さすがに、ザルに使ってしまっては、さすがの財閥といえども、財をなくすということになってもムリがない。
そんなことのないように、
「お目付け役としての、教育係がいるからであり、彼らにとっては、坂下は、いつまで経っても子供だ」
ということになるのだった。
実際に、大学生の時代は、自分では、
「そんなことはない」
と思いながらでも心が大きくなってしまうだろう。
しかし、ただでさえ、金銭感覚がマヒしている人間なのだ。よほど気を付けなければ、
「身代を壊してしまう」
ということになりかねない。
かといって、怒らせるわけにはいかない。
ある程度負けることを覚えさせて、ある程度の恐怖を身体で覚えさせるくらいしかないのであろう。
実際に、金を持っているからといって、
「絶対的な立場になる」
というわけではない。
何と言っても、そのことを思い知ったのが、大学2年生の頃であった。
その時は、アウトドアに嵌って、よく一緒にキャンプに行ったりしていた。
信州の別荘地などにしばらく滞在し、そこから、近くの山にキャンプに出かけたりしたものだった。
いつも、3人で行動をしていて、一緒に出掛けたキャンプ地では、最初の頃こそ、
「金持ち」
ということで、皆がちやほやしてくれて、完全に、
「お山の大将」
になっていたのに、それがありがたかったのだ。
だが、そのうちに、慣れてきたというのもあるのか、主導権は、別のやつに移っていった。
最初こそ、皆度量が分からなかったこともあり、金銭的に優位に立っている、
「坂下を煽てていれば」
ということなのだろうが、そのうちに、それぞれの立場がハッキリと分かってくると、
「ここは、浅倉君に、主将になってもらおう」
と勝手に、自分たちの間のリーダー格を決めることになったのだ。
言いだしたのは。もう一人の河村だったが、彼は、どちらかというと、誰かに従っている方であり、自分から表に出る方ではない。
実際に、元々は、
「浅倉と河村の二人組だったところに、坂下が入ってきた」
というのが、本当のところであり、この二人の関係も、
「浅倉が中心にいる」
という感じで、二人からすれば、
「元に戻った」
といってもいい、まったく違和感のない感じであった。
しかし、坂下としては、実際には面白くはなかっただろう。
だから、意地でも、こちらを中心にさせようと、惜しげもなく、
「お金を使う」
という状態だったのだが、それも最初だけで、二人も自分たちの本来の姿を思い出すと、
阪下がいくらお金を使っても、靡こうとしない。
それでも、坂下としては意地があるので、
「二人から離れようという意識はなく、この状態で、何とかこちらに振り向かせよう」
という手段だった。
だから、普段、大学が終わってからは、
「俺のつて」
ということで、合コンを開いたり、バーやクラブなどに連れていってもらっていたりしたのだが、結局二人からすれば、
「俺たちのような、分相応ではない者がいっても、楽しいなんてことあるわけはないじゃないか」
ということで、
「連れてきてもらうのは、最初の方こそ嫌ではなかったが、そのうちに、嫌になってくるのだ」
ということになってきた。
合コンにしても、相手は、有名女子大の女の子たちで、坂下が、自分で、金の力にモノを言わせて、連れてきた相手だったのだ。
この頃になると、お金を使うにも、教育係は、あまり何も言わなくなっていた。
「お金を使い方を考えるのも、勉強うち」
ということであった。
とは言っても、すべてにおいて自由というわけではなく、
「変な組織に引っかかりそうになるのであれば、そこはちゃんとみている」
ということであった。
もちろん、細かいところまでは気にしていないが、お金の動きくらいは、教育係はしっかりと把握しているのであった。
「俺って、そんなに信頼がないのか?」