悪魔への不完全犯罪
ということで、ありがたいことだと思うのだった。
sれを見ているうちに、
「自分にあってほしいと思っているが、どうやらなさそうだ」
と感じた、
「人心掌握術」
というものを、この部長から学べればいいように思えた。
そう感じている時、この部署の女の子に、
「気になる女の子」
がいた、
「好きだ」
という感情があるわけではなく、そばにいて、さわやかで、安心感を与えてくれる人だったのだ。
それは、坂下だけではなく、皆に言えることだった。
一度、同じ部署の課長が、他県に出張して、お土産を買ってきてくれたことがあった。
普通だったら、人数分あるのだが、課長は何を勘違いしたのか、二人分足らない箱入りの菓子を買ってきてしまったのだ。
それを、
「すまない。私が間違えた」
ということで、課長の分と、もう一人、誰かが、
「犠牲になる」
ということになったのだが、敢えて、坂下が、
「僕はいいです」
と答えた。
正直、会社のお土産に興味があったわけではないし、絶対に、食べたいというわけでもない。
家に帰れば、お菓子など、
「いくらでも食べ放題だ」
というくらいであった。
それを思うと、
「別にここで」
と思うだけで、別に気を遣っているわけでもなく、ただ、冷めているというだけのことだったのだ。
だから、その時はそれだけのことだったのだが、少しして、その女の子がそばにきて、
「これ食べませんか?」
と言ってさっきの菓子を差し出してくれた。
その子に対しては、別に気になる存在ということは、その時まではなかったのだが、急に差し出されたことでビックリした。
そのため、恥ずかしさと、どうしていいのか分からないということで、
「いいよ。君が食べればいい」
と言って、そっけない素振りを示してしまったのだ。
「しまった」
と反省はしたが、出してしまった態度をひっこめるわけにはいかない。
ひっこめるということは、却って相手に失礼になるからであった。
そんなことは分かっていて、
「何となく気まずい空気に包まれたな」
と感じたその時、彼女が、
「じゃあ、半分こしましょう」
というではないか。
「半分こ?」
というと、彼女はニコニコしながら、笑っている。
その言葉を聞くと、急に心が晴れてきた気がして、さらに感じたのは、
「半分こなどという発想は、俺にはなかったな」
ということで、まるで、目からうろこが落ちたかのような気がしたのだ。
冷静に考えれば、すぐに思いつくようなことなのに、まったく気づかなかったというのは、それだけ、
「自分が冷静ではなかった」
ということであろう。
冷静であれば気づきそうなことを気づかないということは、彼女の前に出れば、
「冷静でいられなくなる自分がいる」
ということになるのだろう。
その冷静さというものが自分でも、その正体が分からない。
「こんなに、さわやかな気分になる」
というのにであった。
ただ、それが、一つ分かったのは、
「彼女が自分の想像もつかないようなことを言ってくれたことで、目からうろこが落ちた状態」
ということを感じた時だと思うと、
「ちょっとした気持ちの違いで、自分にも何かが思いつけるんだ」
と感じたのだ。
しかし、こんなことは、正直、子供の頃から普通は感じているのだ。
それをわかっていないということを考えると、
「今までの帝王学か何か知らないが、必要なことなのかも知れないが、一体自分のどこに必要なのだろうか?」
と思うのだった。
そして、
「自分にとって、もっと大切なことが本当はあるはずではないか?」
ということも感じるのだった。
「俺にとって、彼女の存在はどういうことになるのだろう?」
と考えるのだった。
河村との再会
自分にとって、
「帝王学」
によって歩んできた学生時代。
その中では、
「筆おろし」
のようなこともあったが、それも、一種、
「儀式」
のようなものであり、儀式は、粛々と行われるというもので、そのせいで、坂下には、何ら感情というものがなかったような気がする。
勝手に決められて、勝手に連れていかれて、勝手に、筆おろしをされた。あくまでも、すべてが、
「他力本願」
であり、自分の意思に逆らっているかのようであった。
だから、本当は、
「いつかさんと、もっと親密になりたかったな」
という思いがあっても、その自由は自分にはなかった。
あくまでも、
「儀式の中の登場人物として選ばれた女性」
ということだったのだ。
「確かに、いつかさんを好きになったという感じはしないが、今まで忘れてしまっていた何かを思い出させてくれるものがあったのだ」
ということであった。
それが、
「母親に対する思い」
であり、
「まるで、羊水に浸かっているかのような心地よさを与えてくれる」
と考えれば、そこで、
「心地よさ」
という言葉が、ターニングポイントになったということが分かるというものであった。
それを、会社なのか、坂下家の組織なのかが、坂下の気持ちを無視して、引き離したという感覚である。
もっとも、
「坂下の立場で、これから勉強をしなければいけないことがいっぱいあるのに、一人の女性に対して執着している暇などない」
ということである。
そんな感情をお持てば、これからずっとスケジュールされるであろう、
「帝王学」
というものが、まったく機能しなくなる」
ということになるのだろう。
そんな思いもあって、
「強引にいつも引き離される」
ということになるのだが、坂下としては、
「しょうがない」
と思うしか仕方がない。
ということになるのだろう。
坂下は、自分がいかなる立場にあるのかは、十分に分かっている。
「納得はしていないが、理解はしている」
ということであるが、それでも、自分は、
「納得しないといけない」
と思うようになった。
それだけ、
「長いものには巻かれる」
ということなのか、それを、
「素直なことだ」
と考えるようになったのだ。
それを思うと、坂下にとって、
「人に対して、何かの、喜怒哀楽のような感情を持ってしまうと、少なくとも、今の帝王学を学んでいる時は、自分が損をするだけになるのだ」
ということであった。
それを考えると、
「俺にとって、今後どのようにしていけばいいのか?」
ということを、
「筆おろし」
をした、その後から考えるようになった。
あの、
「儀式」
というのは、ただの儀式ではなく、
「本当に大人になったということであり、肉体的にも精神的にも、大人になるということになるのではないだろうか?」
と考えるようになったのだ。
だから、会うことはできないが、
「いつかさんには、感謝している」
と感じていたのだった。
ただ、大学生になった頃から、結構自由に行動できるようになった。
風俗に行きたければ、自分で好きに行ってもいいということであったが、その時に、一度、
「いつかさん」
のいた店をネットで見てみたが、
「もう在籍していない」
というようだった。
密かに、電話で、