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悪魔への不完全犯罪

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 ただ、何といっても浴室の壁に、真っ赤な血糊がべったりとついていて、その時の惨状が垣間見えるほどの光景に、さすがに管理人も、腰を抜かしてしまった。
 これもまた、どれくらいの時間が経ったのか、我に返った管理人は、
「とにかく警察」
 ということで、自分が持っているケイタイから、
「110番通報」
 をしたのだった。
 状況から、
「死んでいる」
 ということから、救急車の必要はないと思ったのと、宅配から考えると、死んだのは、昨日今日の問題ではないように思えたからだ。
 管理人は、とりあえず、その場を一刻も早く立ち去りたいということで、風呂場からは出て、部屋に戻ると警察が来るのを待つしかなかった。
 どれくらいの時間が経ったのか、エントランスのオートロックのところから、この部屋へ、インターホンが鳴った。
「警察が来た」
 ということであった。
 管理人は、早速、オートロックを解除し、警察が入ってくるのを待った。
 その時の心境としては、
「助かった」
 という心境が一番だったことだろう。
 それを考えると、さっきまで止まらなかった震えが、徐々に収まってくるのを感じた。
「自分も、ここだけではなく、今までいろいろなところで管理人をしてきたが、ここまで一人でいることが怖いと感じたことはなかったな」
 と思えた。
 もちろん、死体、いわゆる、殺害された死体を見るのは初めてだった。
 しかも、いきなり、一人で発見するという、
「第一発見者」
 ということになるのだろう。
 警察から尋問を受けるのは当たり前のことであろうが、正直、この場面を説明しようにも、それこそ、宅配業者が、
「何か変だ」
 といってきたことで、自分が、
「管理人としての、義務を果たしただけ」
 ということで、管理人としては、
「自分はまきこまれただけだ」
 ということだが、冷静に考えれば、
「これも管理人としての役目だ」
 というだけのことでしかないということであろう。
「とにかく、警察から聞かれたことに対して、答えるしかない」
 ということであった。
 どうせ、すぐに終わるのは分かっていた。
 管理人といっても、被害者のプライバシーを知ることもない。実際に、話をしたこともなかったからだ。部屋を借りる時も、交渉はすべて、不動産会社だったからであり、
「自分はあくまでも、ただの管理人」
 というだけのことだったのだ。
 だから、ただの管理人と、部屋の住人ということで、今の時代であれば、
「顔も覚えていない」
 あるいは、
「どんな人か分からない」
 などということは、普通に当たり前にことだった。
 そんな中で、殺されている被害者について、通報を受けてやってきた刑事が、管理人に話を聞いても分かるわけもなかった。
「住民によっては、毎日のように、頭を下げて、挨拶をしてくれる人もいますが、ほとんどが、いつ出かけたのか、いつ帰ってくるのか、まったく分からないような人ばかりですよ」
 ということであった。
 管理人といっても、雑用係という程度で、住民を監視などしているわけもなく、どんな人が住んでいるかを聞くのは、ある意味、
「酷だ」
 といってもいいだろう。
 ただ、警察としては、この殺人現場で、気になるところもあった。
 これに関しては、管理人もおかしいと思っていたようだが、
「どうして、カギがかかっていなかったのか?」
 ということである。
 これでは、まるで、
「早く見つけてくれ」
 といっているようなものだ。
 だからといって、その日であったり、翌日では困るということなのだろうか? それを考えると、確かに不思議だった。
 署に帰って、捜査本部ができていて、そこでも、このことが一番の問題となった。
 今回の捜査本部は、数日前の、
「正当防衛と思しき事件」
 とは違って、明らかに犯人は、その場からいなくなっていて、足取りも掴めない。
 これから、犯人の絞り込みをしようというところであるが、これが、今度は翌日になって分かったことによると、
「被害者は、部屋の住人ではない」
 ということであった。
 管理人に見せてもらった、契約書を見ると、マンションの部屋を借りた人間の名前は、何と、
「坂下銀二」
 となっている。
 つまりは、
「坂下財閥の息子」
 ということであったが、不動産屋が契約をした時、そのことは分かっていただろう。
 しかし、実際に部屋を借りて、管理人がいる状態のところでは、管理人が実際に契約をするわけではないので、
「ここの住人の中には、財閥の息子がいる」
 などということは知らなかったようだ。
 しかも、
「部屋で死んでいた男も、坂下という男も知らない」
 という。
 それは当たり前のことであり、管理人も後で聴いたら、ビックリするかも知れないと思えたのだ。
 ただ、マンションの契約者が、その部屋の住民である必要はない。
「男がおんなのために、借りてやり、時々そこを愛の巣として使っている」
 ということも、
「よくある話」
 というものだ。
 管理人の方も、きっと、
「そういう話であれば、分かります」
 と答えるのではないだろうか。
 だから、マンションの集合ポストに残っている郵便物には、宛名が、菅原になっているのがほとんどである。
 ただ、不動産関係においては、坂下宛のものがあり、きっと、菅原が、坂下に届いた郵便は、
「住所を書き換えて送り返す」
 なり、実際に、
「自分が直接持って行く」
 ということをしたのではないだろうか?
 それを考えると、
「この事件の特徴として、被害者が、契約者ではなかったということに何か意味があるのではないだろうか?」
 とも考えられた。
 ただ、そうなると、被害者の菅原という男と、坂下の関係が問題になってくる。警察が捜査をしてみると、
「うーん、どうもおかしいんですよ。このマンションの名義人である坂下と、実際に住んでいた菅原には、接点のようなものが見つかっているわけではないんですよ」
 ということであった。
「じゃあ、ただ、契約者がいて、そこを貸してやっていることで、何か契約的なことで結ばれているという関係だけだったのではないか? ということになるのかな?」
 と本部長がいうと、
「そうですね、一人仲介に入ることで、仲介者の利益になるということもあるかも知れないですね。ただ、その時、住人は、家賃を安くできるわけではないので、このマンションを仲介者名義にすることでどんな利益があるというんでしょうね」
 ということを考えた。
「あるとすれば、自分が直接、契約者として表に出ることができないということでしょうかね?」
 と一人の刑事がいう。
「それは、たとえば、高齢者で、マンションを借りるには、保証人が必要だけど、身寄りがいないことで、少し高くなってもいいので、仲介者を立てるという場合などがあるかも知れないですね。不動産側としても、家賃収入が増えるのであれば、仲介者が、半分保証人のような形になってくれることで、彼らにも得はあるはずですからね」
 というではないか。
作品名:悪魔への不完全犯罪 作家名:森本晃次