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悪魔への不完全犯罪

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 しかも、同じ管内で起こった殺人事件で、男が、マンションの自室で、ナイフによる刺殺現場が発見されたのだった。
 死体が発見された時は、すでに、死後3日ほど経っていたという。
 マンションというと、
「隣は誰ぞ知る人ぞ」
 とばかりに、今の世知辛い世の中では、
「隣に誰が住んでいるか?」
 あるいは、
「住んでいるかどうか?」
 つまりは、
「空室かどうか」
 ということすら、分からない世の中ではないか。
 だから、隣で3日も経って死体が発見されたといっても、誰もビックリはしないのだろう。
 発見したのは、マンションの管理人だった。
 被害者の集合ポストには、
「郵便物が溢れんばかりであった」
 ということと、留守宅の玄関前には、ネットスーパーによる宅配の荷物が数箱置かれているということも問題だった。
 しかも、前の日に比べて、もう一箱増えていたのである。宅配御者も、正直、
「おかしいな」
 と感じたことだろう。
 なぜなら、前に配達したものを取り込むこともなく、新たに注文したということになる。普通では考えられないことだ。
 何と言っても、発泡スチロールの箱が前からあった。それは生鮮食品ということで、すぐに冷蔵庫に入れるというものだからである。
 宅配のシステム的に、注文は可能であった。
 普通の注文手段としては、
「ネットによる、ホームページの注文ページからの注文」
 そして、
「電話応対システム」
 という形のもので、電話から聞こえるコンピュータ音声にしたがって、数字と記号ボタンを押すことで、注文していくというものであった。
 ただ、これらの注文は、会員番号以外に、暗証番号が必要で、
「勝手に本人以外が注文できないようになっている」
 ということである。
 しかし、実際には、
「口頭注文」
 という方法がある。
 これは、コールセンターに直接オペレーターを通して注文するというもので、オペレーターは、あくまでも、会員番号しか相手にきかないのだ。
 つまり、注文を受けた時点では、オペレータは、暗証番号を知らない。そして、電話番号と名前、そして、会員番号から、電話の主を会員照会という形で、照合し、
「間違いない」
 ということが分かれば、会員照会の画面から、暗証番号を検索し、そこで初めて、オペレータが、会員さんの代わりに、ネットから注文するということになるのだった。
 だから、注文を入力するのに、電話を掛けた人が本人かどうかは、オペレータには分からない。
 それが、一種の、
「口頭注文の盲点」
 ということであった。
 ただ、配送員は、そんな仕掛けがあることは分からない。
 だから、
「何か変だ」
 と思っても、その時は言わなかった。
 ただ、この配送員は、次第に気持ち悪くなったようで、その日の配達が終わって、帰りに、そのマンションに行ってみた。
 この宅配会社の配送員は、早朝出勤ということで、朝は早かった。だから、
「上がりの時間」
 というのも、他の事務員などに比べて早い。
 普通の時であれば、午後2時くらいには、仕事を終わることができるというわけだったのだ。
 だから、朝の配達として、このマンションを訪れたのは、ちょうど、午前10時前くらいだっただろうか。サラリーマンなどが、出社した後で、マンションには、あまり人が残っていないという時間帯だったかも知れない。
 宅配を使わない主婦が、買い物に出かける時間だったからだろう。
 そんなことを考えながら、配送員は、ちょうど自分の家への帰宅途中にこのマンションがあるというのも、
「立ち寄ってみよう」
 という考えにいたった経緯だったのだ。
「ちょうど、この時間であれば、まだ、このマンションの管理人はいるだろう」
 ということは、毎日このあたりの配達を受け持っているこの配送員には、分かっていることだったのだ。
 そこで、管理人室に、その危惧を話してみると、管理人も、
「そうですか。それも気になるところですね」
 と言われたので、管理人も、注意喚起を受けた以上、
「放っておくということもできないだろう」
 ということで、とりあえず、部屋を訪れてみることにした。
 これはあくまでも、
「管理人権限」
 ということでできることであり、何と言っても、
「中にいる人が、病気か何かで倒れているとすれば、放っておくというわけにはいかないだろう」
 ということであったのだ。
 それを考えると、管理人は、一応、マスターキーを持って、部屋を訪れてみることにした。
 部屋の住人は、菅原という男が、確か一人暮らしをしているということだと、管理人は認識していた。
 だから、余計に、気になったのだ。
 とりあえず、呼び鈴を押してみたが、応答がない。
 留守なのか?
 と思ったが、オートロックになっているから普通であれば開かないはずの扉が開いたのだ。よく見ると、扉の間の隙間に、何かスリッパのかかとのようなものが引っかかっていて、それがめちゃくちゃ薄いせいか、扉は閉まっているように見えるが、完全にロックが掛かるまで入っているわけではなかった。
「どういうことなんだ? これじゃあ、不用心じゃないか?」
 とも思ったが、そもそも、そんな偶然で、スリッパが引っかかるわけはない。
 ということになれば、
「この半分開いている扉の仕掛けは、最初から計画されたものだったんだ」
 ということに相違ないだろう。
 管理人は、扉を開けて、さらに声を掛けた。
 当然、返事があるわけもなく、気になったので、
「菅原さん」
 という声を数回掛けたが、やはり何も反応がない。
 部屋に入ってみたが、誰もいる感じはないのだが、シーンとなった部屋で、どこからか、何か違和感を感じさせる音が聞こえてきた。
 その音は、何となく分かってくると、風呂場の方から聞こえてくる。
「そうか、この音は、水を勢いよく流す音なんだ」
 ということに気付いた管理人は、今度は恐る恐る、風呂場に近づいた。
 管理人には、何となく見えてくるものが想像できたのだ。
 そう、そこに横たわっている死体である。
 管理人が、恐る恐る行動したのは、
「そのあたりに、犯人がまだ潜んでいないか?」
 ということが気になったからだったが、
「配送員のいうことをそのまま信用する」
 ということであれば、少なくとも、犯行から、数日が経っていることになる。
 そうなれば、犯人が潜んでいるということはないだろうと思うのだったが、だからといって、誰もいないとも限らない。その不気味な感覚で、まだ死体があると確定したわけでもないのに、管理人は完全にビビッてしまって、
「風呂場に着くまでに、かなりの時間がかかった」
 ということを感じさせるまでになっていたのだった。
 そして、風呂場に入った瞬間。管理人は、ゾッとしたものを感じた。
 浴槽には、被害者が、浸かったまま、完全に凍り付いてしまったかのような、土色の身体をしていて、あたかも、血が通っていない、
「まるで蝋人形のようだ」
 と思える姿に、
「もはや、生きているわけではない」
 ということは分かり切っているようだった。
 浴槽に勢いよく水が流れ込んでいるウ様子だったが、水はそれでも、少し赤く染まっている。
作品名:悪魔への不完全犯罪 作家名:森本晃次