悪魔への不完全犯罪
殺人事件
その殺人が起こったのは、
「最近、よく女性から誘われることが多くなったんだよ」
と言っていた頃のことで、その犯人というのは、
「すぐに捕まった」
ということであったが、その犯人というのは、
「河村」
だったのだ。
しかも、お互いに、顔見知りというわけではなく、何やら、
「相手はやくざ風の男だ」
ということであった。
といっても、やっていることは、チンピラのようなことなのか、主に仕事としては、
「借金取り」
のような仕事だという。
ちょうど、河村の隣に住んでいる女性が、借金をしていたようで、その男が借金取りに来た時、ギャーギャーうるさくしていたところ、河村が、勇敢にも、女性を助けようとして、
「おい、やめろ。警察を呼んだぞ」
と言って、表に出てきたようだ。
相手はさすがにチンピラでしかないので、
「これはヤバイ」
と思ったのか、少しひるんだ。そこを、河村が、彼女をこちらに引き寄せて、少しでも、「男から離そう」
と試みたのだが、相手の男は、それで、我に返ってしまったようだ。
「お前、何しやがる」
といって、河村の胸倉を抑えつけて、河村は必至になって、窒息しそうなのを堪えながら、相手を叩いていたようだ。
ちょうど、そこにあった、植木鉢が手に止まってしまったことで、反射的に、相手に振りかざすことになった。
植木鉢には、土がいっぱいに入っていて、相当な重たさであった。
それを円深緑のごとく、振り回して、しかも高等部を一閃したのだから、チンピラもひとたまりもなかったようだ。
それなりにガタイがいいのだが、後頭部を強打したのだから、身体を鍛えていようが、関係のないことであった。
それを思うと、本当にひとたまりもない。
チンピラは河村を離すと、その場に、揉んどりうって倒れたのだ。
一瞬、空気が凍り付いたが、我に返った河村は、救急車と警察に連絡を入れた。
我に返ってからの、河村の神津は素早かった。
しかし、救急車が到着した時には。すでに遅く、
「もうダメですね」
ということで、救急車は、空で戻っていった。
入れ替わりに警察がやってきて、須永飛び散り、植木鉢の破片が、あたりに、放射状に散らばっているのを見ると、
「おういう状況だったのか?」
ということは、結構早くに理解できたようだ。
さすがに、事件現場に関しては、日ごろから見ている連中で、冷静であった。
しかも、状況から考えて、さらに、話を聞いていくうちに、事件ではあるが、犯人が逃走していたり、立てこもって、籠城しているような、ややこしい事件ではなく、
「容疑者」
と思しき人間も、それを目撃した女性も、そこにいるわけなので、事件としては、慌てることのないものだった。
「事情を聴くだけで、大体のことは分かる」
ということであった。
そして、問題は、
「この事件が、正当防衛が成立する案件なのか?」
ということだと思うと、
「それぞれの事件に関わっている人たちの身辺操作から始めることになるだろう」
ということも分かり切っていることだった。
初動捜査に出てきた、
「桜井刑事」
という人が、とりあえず、この場の責任者のようだった。
ただ、事件はそんなに、難しいというわけではなさそうだが、少なくとも、
「殺人事件」
ということに変わりはない。
そんな殺人事件というものは、
「どんなに簡単に見えることでも、細心の注意が必要だ」
と言っていた人がいたのを、桜井刑事は思い出していた。
「確かに、人が死んでいるということに変わりはないんだからな」
と思うのだった。
そこにいるのは、
「チンピラ風の殺された男」
で、ガタイも大きく、日焼けもしていることから、頭を見ると、血が凝固していたので、「頭を殴られた」
ということは歴然であった。
しかも、その横に植木鉢が散乱していることで、
「植木鉢で頭を殴った」
ということも分かった。
そして、容疑者と思われる男に話を聞いてみると、声が枯れていて、しきりに喉を抑えているのが気になって、
「首をどうされました?」
と聞いたところ、
「いえ、この男に首を絞められて、もう少しで失神しそうになったんですよ」
というと、横にいた女性も、ブルブル震えながら、何とか頷いていた。
その様子をみると、刑事にも何となく事情が分かった気がした。
「この殺された男が、女性に何らかの危害を加えようとしているのを、この男が助けに入って、却って自分が攻撃され、抵抗したことが、こんな状況を招いたんだな」
ということをである。
この状況を見れば、刑事でなくとも、それくらいの想像は容易にできるかも知れない。
だが、あくまでも、目に見えた状況というだけのことで、この二人の関係がどういうことなのか、考えるのだった。
そして、桜井刑事は、とりあえず、二人が落ち着くのを待って、事情を聴くことにした。
男性の方を、もう一人の刑事に、そして、女性の方を、桜井刑事が受け持った。
別々に話を聞くのは、
「その状況に、辻褄が合っていれば、二人の証言が正しい」
ということになるからだった。
一緒に聴いてしまうと、どちらかに話を合わせようとしなくても、勝手にどっちかに話が寄ってしまい、正確な状況が分からなくなってしまうからだった。
さらに、それぞれに、因果関係であったり、損得関係があったとすれば、偽証にもなりかねない。
「口裏を合わせる」
ということになってしまうということであろう。
それを思うと、
「我々は、証人には、別々に聞くというのが鉄則だ」
ということも当たり前のことであった。
警察というところは、
「どうしても、融通か利かない」
というところはあるが、それでも、マニュアルのようなものはしっかりできている。
何と言っても、
「捜査においては、公務という形で、他の人の自由を奪うだけの権力を持っているからだ」
といえるだろう。
「公務執行妨害」
ということで、相手の自由を拘束し、
「別件」
という形で、逮捕というのも、
「昔の刑事ドラマなどでは、結構あったものだ」
といえるのではないだろうか?
それが、今ではなかなかそうもいかないもので、
「コンプライアンス」
というのは、警察内部でも、相当厳しいものであった。
桜井刑事は、その女性に話を聞いてみた。
彼女は、名前を、
「新宮ゆま」
という名前だった。
マンションの表札には名前はない。それは、河村も同じことで、それは、
「個人情報」
というものを晒すことになるということで、敢えて表札を付けていなかった。
それは、今では当たり前のことのようになっているので、警察もそこにこだわることはなかった。
「ゆまさんは、御職業じゃ?」
と聞かれ、
「昼間は、スーパーでパートをしていて、夜は3日ほど、知り合いのスナックで、仕事をしています」
というのだった。
「そうなんですね。それは大変ですね」
と桜井刑事はねぎらいの言葉を掛けたが、聴いているゆまの方は、
「ああ、どうせ社交辞令にしかすぎない」
ということはすぐに分かった。