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悪魔への不完全犯罪

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 というのも、二人が親密になった時、どちらかというと近づいていったのは、河村の方ではなく、ひめかの方だったのだ。
 そう聞けば。
「最初は、坂下に急接近していたくせに、今度は河村に乗り換えた」
 と言われればそれまでなのだが、ひめかも、そんな風に言われたとしても、
「別にかまわないさ」
 と考えていたようだ。
「私は、あの時から、生まれ変わったんだ」
 と感じているようだが、もし、その気持ちを誰かが知っていたとしても、彼女が考えている、
「あの時」
 というのが、
「一体どの時なのか?」
 ということを知っている人は誰もいないだろう。
「知っているとすれば、河村さんだけ」
 ということになるのだが、それは、
「私が話したから」
 と、ひめかは思っている。
 とにかく、ひめかは、河村と、
「気持ちを一つにしないといけない」
 と思っていた。
 それが、ひめか自身の自分なりの、
「覚悟」
 であり、もっと言えば、
「最初、坂下に近づいたのも、そのためだった」
 といえるのだ。
 その思いが加速したのは、河村が現れたからで、ひめかとすれば、
「私は、別に坂下を好きだったわけでも、河村に乗り換えたわけでもない」
 ということである。
 彼女からすれば、
「これは、私の計画の一環であり、そのことに対して、河村さんとは意気投合したのよ」
 ということになるのだった。
 だから、二人が結びついたのは、
「必然的」
 なことだといってもいいが、それは、あくまでも、
「恋愛感情」
 であったり、ましてや、
「身体の結びつきなどではない」
 といえるだろう。
「だったら、どういうこと?」
 と聞かれたとすれば、その答えは、
「覚悟だ」
 と答えることだろう。
 奇しくもというべきなのか、河村もひめかも、自分たちの中で、
「お互いの覚悟」
 というものがあり、それが、二人を結びつけるものだったのだ。
 あからこそ、その結びつきは、強いものであり、
「二人の行動には、それなりの意味がある」
 といっても過言ではないに違いない。
 そんな河村と、ひめかは、しばらくの間は、誰にも気浮かれないようにしていたが、ある時から、大っぴらに、
「付き合っている」
 ということを、まわりに宣伝し始めた。
 だから、知らない人は、
「あの時から、二人が付き合い始めた」
 と思うのだろうが、いろいろ間違いがある。
「二人が親密になったのは、もっと前からだ」
 ということと、
「そもそも、二人は恋人関係ではない」
 ということであった。
 一種の、
「共通の目的で結びついた二人」
 といっても過言ではないだろう。
「その思いは、どちらの方が強いか?」
 と言われる、
「思い」
 ということになれば、ひめかの方に違いない。
 しかし、それだけに、冷静沈着で、計画を細部にわたって建てられるのは、河村だっただろう。
 それぞれに、お互いの役割を分かっていて、計画は、静かに水面下で実行されていて、ある程度、
「計画通りに運んでいる」
 といっても過言ではない。
 その計画がうまく行っている証拠として、まだ、実際に敬意核のプロローグにまで入っていなかったが、それまでに、まわりから計画を知られるということは命取りになりかねないということであった、
 それが漏れずにうまく行ったのは、
「一緒にいるのが、ひめかだったから」
 ということなのかも知れない。
 覚悟を持っているとしても、ひめかという女性は、河村から見て。
「この計画に参画させるには、これ以上ないといえる性格ではないだろうか?」
 と感じていたのだ。
 そして、ひめかという女性が、
「男性にはたんぱくで、だからこそ、スナックの女の子という職業ができるんだ」
 と思っていた。
 だが、これが最終的に、命取りになるということを、まだ、河村は知らない。
 知っていたとしても、ここで計画をやめるつもりはなかった。
 それは、誰よりも、ひめかの方であり、
「ひめか自身、ひとりでもやろう」
 と最初から思っていたのだろう。
 だから、
「坂下に、最初から近づいた」
 ということであり、
「この計画は、実は、最初はひめかの中にあったもので、あまりにもずさんで、ひめかの中での計画は、計画というには、あまりにも」
 というものであった。
 だからこそ、河村の出現は、ひめかにとって、
「渡りに船だ」
 といってもいいだろう。
「ひめかという女性。結構するどいところがあるんだな」
 と、河村は感じたのだが、それは、
「最初の計画があまりにもずさんであったわりには、河村が建てようとしていた計画に、ピッタリ嵌り、埋まらないパーツをことごとく、ひめかの最初に立てた計画が嵌っていくということを感じてくる」
 ということであった。
 だから、ひめかは、自分の計画が、形になっていくことに、感動もしたし、それを完成させようとする、河村を、一種の、
「尊敬の念」
 で見つめていたのだ。
 そう、ひめかが、河村と急接近したのは、
「覚悟」
 と言う名の計画を、
「組みたててくれる男」
 ということだけではなく、その時に感じた感情としての、
「尊敬の念」
 というものがあるからだっただろう。
 河村はそのことも分かっていた。
 ひめかという女性は、実際には。
「わかりやすい性格」
 をしている女性だった。
 彼女には、その中において、
「必ず成功する」
 という気持ちが、確信に変わったのが、
「河村と一つになったからだろう」
 ただ、それは、
「覚悟を確かめ合った」
 ということで、ひめかには、あくまでも、恋愛感情などなかった。
 少なくとも、この件が終わらないと、
「私は誰かを好きになるということはないんだ」
 と考えている。
 むしろ、
「好きになってはいけない」
 という何かしらの、
「呪縛」
 のようなものが、ひめかの中にあって、元々あった感情を、さらに強くしたのが、河村の出現なのかも知れない。
 河村は、そういう意味で、
「ひめかを素直にさせた」
 といえるだろう。
「ひめかは分かりやすい女だ」
 と感じたのは、実は、
「そうさせたのが、自分なんだ」
 ということを、河村は自覚まではできていなかった。
 それを思えば。
「二人は、出会うべくして出会う星の下に生まれていた」
 といってもいいだろう。
 そんな時、坂下を誘う女性が増えてきていた。誘われると言っても、別に肉体関係というわけではなく、食事であったり、飲みに行ったりということであったが、中には、身体を重ねて、小遣いをねだるという女性もいたようだ。
 そんな女性は最初から、そんなオーラを醸し出していて、坂下の方も、本当はそんな女に興味があるわけではなかった。
 さすがに、
「据え膳食わぬは男の恥」
 ということわざにもあるように、
「いただいていた」
 が、それでも、
「俺の方が、抱いてやったんだ」
 という感覚で、相手に恩着せがましい気分になっていた。
 こんな時にマウントを取るのは、坂下であっても、あまり気分のいいものではなかった。
 だから、逆に、食事だけだったり、飲みだけの女性を新鮮に感じ、
「いずれは、モノにしたい」
作品名:悪魔への不完全犯罪 作家名:森本晃次