石ころによる家畜の改造
だからこそ、まわりが、どんなにカオスになろうとも、自分の世界に没頭していることで、それほど気にならなかった。
そんなことも、最初から分かり切っているということで、この行動も、最初から、
「計算通り」
ということである。
バスは、ほとんどカオスのまま、中には疲れ果てて、いや、酔いつぶれて寝ている人がほとんどの状態になって、出発から、約4時間かけて、温泉宿に到着した。
そもそもの待ち合わせが、正午だったので、いわゆる、
「チェックイン」
にちょうどいいというところであった。
宿は、まぁまぁのところで、宿の前には、細長い板看板で、ゆいかの会社名の下に、
「ご一行」
と書かれ、他にも数組、似たような団体があるというのは、正直、ゆいかをビックリさせた。
「他にも団体さんがあるんですね?」
と女将さんに聴くと、
「ええ、おかげさまで、パンデミックがある程度収まってきたからか、お客さんが増えてまいられたのは、幸いです」
というのだった。
女将さんは、まだ。
「若女将」
といってもいいくらいの優しそうな面持ちの人で、
「まわりの人がきっとしっかりしているんだろうな」
ということを、想像させたのだった。
まわりの人というのは、どういう人なのかということを考えたのは、その友達が、今年度から、部署替えになって、同じ部ではなくなったので、その部の事情がよく分からなかったからだ。
今回の慰安旅行では、
「ゆいかの部署だけでは、人数が少ないから」
ということで、友達が移動した部署との、
「合同慰安旅行」
ということになったのだ。
そもそも、昔の、
「バブル期」
のように、人がたくさんいるわけではないので、他の部署も、複数の部署が一緒になることでの、
「合同慰安旅行」
というところが多かった。
管理部門は、そこまではないが、営業部ともなると、横の確執があるようで、
「なるべく、あの部とは一緒になりたくない」
と思っていると、相手も同じことを思っているということで、ある意味、同じ考えだということで、事なきを得ていた。
そんなことを考えていると、意外と合同で開催する相手は、とんとん拍子に決まっていたようだった。
そして、
「部署で、あまりかたまらないように」
ということで、最初に決めた部署とは、違うところに行くように、通達があったが、そんなことは、最初からそれぞれの部署でも分かり切っていると言わんばかりに、皆適当に場所を決めていたのだ。
もちろん、幹事をする人間の個性にもよるだろう。
若い連中にやらせた部署は、
「全国でも有名な都心のテーマパーク」
に決まったようだ。
後から、
「あいつら、あんなところに決めやがって」
とばかりに、年配の人が言っても後の祭りだ。
そもそも、
「若い連中にやらせて、自分たちは楽をしよう」
などと感じた自分たちが悪いのだ。
だからかどうか、他の部署では、ある程度の年配で、慰安旅行というのを、ギリギリ知らない世代が決めると、
「観光よりも、落ち着いた温泉宿」
ということになり、観光は二の次ということになる。
それでも、自由行動は作っているので、
「観光したい人」
あるいは、
「ショッピングに勤しみたい人」
はそれぞれ、その時にすればいい。
ということで決まったのであった。
そういうのが一番いいのかもしれない。
「ただ、温泉だけ」
という、ゆいかの部署は、物足りない人もいるだろう。
だが、意外と、反対意見が出るわけでもなく、案外スムーズに決まったのは、
「あんまり、自分たちの意見を主張するのを普段から抑えている部署である、管理部だったからではないか」
といえるのではないだろうか。
それを思うと、
「温泉を楽しむ」
というのは、
「以前から、若い子が、温泉ブームといって楽しんでいるんだから、温泉だけということであっても、別に問題ない」
と思っていたのだ。
しかも、他の部署みたいに、
「自由行動の時間を作る」
といっても、それまでにエネルギーを使い果たして、それどころではなくなるということも十分にありえた。
実際に、他の部署は、同じように、何もできなくなっていて、話を聞いてみると、
「初めての、慰安旅行というもので、時間配分などの勝手がわからず、どうしていいのか分からない」
ということだったようだ。
そんな状態を考えてみると、
「やっぱり、これが正解だったのではないか?」
と言えたのであろう。
温泉に来てみると、ちょうど、時間的に、道も混んでいなかったこともあって、予定y理も少しだけ早く到着したが、それでも、チャックインの時間は過ぎていたので、
「ちょうどいい時間だった」
といってもよかっただろう。
他の団体はまだ来ていないようで、その団体は、
「きっと、いろいろな観光地を回っているんだろうな」
ということを考えていたが、やはりそのようだ。
女将さんがいうには、
「このあたりには、少し離れますけど、観光地としての名所旧跡であったり、城址も残っていて、その向こうには、テーマパークのようなものもあって、団体さんでは、それぞれ、年齢によって、テーマパークにするか、名所旧跡にするかということで、それぞれを楽しまれた後、合流してこちらに来られるというのが多いようですね」
ということであった。
さらに、
「お若い方だけではなく、お年を召した方も、こちらに到着された時は、かなりお疲れのご様子ですが、宴会になる頃にはすっかり、元気になっておられます。こちらの温泉は、急いで疲れを癒す効果もあるんだといって、お客さんもお喜びだったというのが、いつも印象的ですね」
と言って、一種の、
「宣伝」
というのをしているようだった。
それを聴くと、
「そうです、それじゃあ、我々も、その効能がある温泉とやらを、所望させていただこうかな?」
と、男性陣はすっかりその気になっていたようである。
もちろん、女性陣は口にこそ出さないが、
「美肌にいい」
ということをリサーチ済みで、ここは、美肌や健康には、全国的にも有名だということをきいていたので、密かに楽しみにしていたのだ。
だから、
「この宿には、女性の一人旅も多いと聞いていたので、きっと、お風呂では、そういう人と出会うことができるんだろうな」
と思っていたのだ。
部署こそ変わったが親友であるその友達と、
「今回の温泉では、他の女性客と友達になれるといいね」
とも話していた。
もちろん、美肌効果などの話に花が咲けば、
「きっと仲良くなれるというのは、必至なんだろうな」
と感じるのだった。
「温泉は、掃除の時間が、午前中に一度、一時間ほどあるだけで、それ以外は、基本的に入れますので、何度でもお入りになられるのもいいと思いますよ」
お女将がいうと、
「温泉って、何度も入ると、想像以上に疲れると聞いたことがあるんですが?」
と友達が聴いた。
「ここは、そんなことはないですよ。実際に、お客さんの中には、一日に3、4度お入りになる人も多いですし、食事と睡眠以外、たまに散歩に出るくらいで、後はお風呂という人も多いです」
という。
作品名:石ころによる家畜の改造 作家名:森本晃次