可能を不可能にする犯罪
「きっと話をしているうちに自分がら言うだろう」
と思ったのだ
二人の関係は、聞き込みの刑事の方が先輩なので、遠慮があることで、
「最初は、黙っているのだろう」
と思った
だが、その思いは、中途半端なものなので、すぐに、考えをいいたくて仕方がないと思えたのだ。
捜査本部
殺された神崎には、殺害されるという動機が見当たらない。だから、犯人が見えてこない。
最初は三角関係のもつれのように思えたが、どうもそうではないようだ。
それを考えてみると、何ともいえない状態になり、この時、筆記の刑事も、最初は言葉を濁していたが、言いたいことがあるようで、探りを入れながら、言葉を発するタイミングを見計らっていると、
「どうも、ああいう神崎というような男は、僕は嫌いなんですよ」
と言い始めた。
まるで、
「虫唾が走る」
とでもいいたいかのような感じであった。
「虫唾が走るとは?」
というと、
「口で勧善懲悪と言っていたり、言わないまでも、そんな状態になる精神状態の人間を、まともに信用すると、騙されることになると思うんですよね」
というのだ。
「どういうことなんだい?」
と聞くと、
「これは、僕が、まだ中学生の頃なんですが、友達とよく推理小説を読んでは、その話に花が咲いていたんです。僕らは、ネタバレはそんなに気にしていなかったので、読んでいない小説のトリックなどを聞かされても、別に何とも思わなかった、なぜならm小説を読むのは、謎解きを楽しむというよりも、最初に聞いたことが、文章でどのように描かれているかということに興味をもつからですね」
というのだ。
「それで?」
と聞くと、
「それをいいことに、わざと謎解きをネタバレになるけどといちいち断って話すやつがいたんですが、それも悪いこおとではないでしょう、だけど、あまりにもあざといと、今度はうっとおしくなってくる。それを相手は分かっているんでしょうね、言いたいことを言ってくるんですよ。それは挑発のように言われるんだけど、それでも、こっちが我慢していると、さらに、煽ってくる」
黙って聴いていたが、
「それは、お前も悪いのではないか?」
と言いたいのを堪えていた。
「そっか、今の彼の感情は、それを言いたいのか?」
と思うと、彼のいう、
「あざとい」
という言葉の意味が分かってきた。
「決して相手の態度が嫌なわけではなく、完全に、相手のペースにさせられているが、ネタバレは大丈夫といっている以上、ここで苛立ちを見せると、負けを認めることになるというのだろう」
と考えているに違いない。
それを思うと、
「困ったものだ」
と言えるのだが、それに文句が言えないのは、
「自分を否定していることになる」
ということを分かっていて、相手もそれを攻撃してくることからの、
「あざとさ」
なのではないだろうか?
「相手のあざとさが動機になる?」
ということを、考えていたのだ。
そして、その動機というのは、誰もが持っているというもので、人の残虐性というものを引き出すことができるのであれば、何も自分が行動することはない、
そんな風に考えるやつもいて、それが、この時に聞き込みをした、
「自称、友達」
ということになるのかも知れない、
そんなことを考えていると、
「俺は、動機を知っているんだぞ」
ということで、警察に、協力するというよりも、
「どこで警察が分かるか?」
ということを楽しんでいるように思えた。
「あいつは、警察を舐めている」
という感情を、この刑事は持ったのだろう。
そう、
「彼も、勧善懲悪」
という意味では誰にも負けない警察官ではないだろうか。
ただ、警察官において、
「勧善懲悪」
というのが、どこまで正しいのかというのは難しい。
犯罪捜査において、
「刑事の仕事」
というのは、実に難しいものである。
それは、あくまでも、
「感情を入れてはいけない」
ということであり、
「必要以上に、感情を入れてしまうと、前が見えなくなる」
とうことだ。
一ついえることは、
「警察の仕事は、事実から、犯人を導き出すことで、それは、真相であり、真実である必要はない」
ということだ。
つまりは、
「真実と事実」
ということの比較ということなのだろうが、
「事実」
というのは、動かしがたいというものであり、
「真相」
というものは、その事実をつなぎ合わせたものだ。
つまり、
「事実は点であり、それをつなげ手線となれば、それは、真相ということになるのであろう」
ということなのだ。
これが、真実ということになると、そこには、心理や感情が含まれてくるが、それは、事実に裏付けられるものではない、逆に、
「真実があって、そこから派生したものの結果として事実がある」
というもので、
「真相」
というものは、警察が深く掘り下げるものなのかどうか微妙である。
刑事が逮捕し、事実を立件できるだけの証拠として検察側に提出すると、そこから先は、起訴するかどうかで、裁判にいたるかどうかが決まってくる。
だから、警察の仕事はここまでで、後は、裁判における、検事や弁護側の証人として出廷することがあるだろうというくらいのことであった。
そこでは、当然、真実が明らかになり、事実との関係が分かってくる。
そこまですることで、被告の、
「罪状認否が行われ、判決にいたる」
ということになる。
その判決を言い渡すためには、
「真相と事実」
そして、裁判で明らかになった、
「真実」
それらが、一つになって、判決という結果を出すのだろう。
この二人の刑事であるが、聞き込みをした刑事を、門倉刑事といい、冷静沈着で有名で、
「すぐに出世するだろう」
と言われている。
ただ、キャリア組ではないので、どうしても、出世のスピードは遅いだろうが、部下は、皆、
「あの人の下でなら、働ける」
と考えているのであった。
そして、もう一人の刑事、書記をしていた刑事であるが、彼は名前を三浦という。前述のとおりの、勧善懲悪な性格で、それがゆえに、奇抜な発想を持っているので、門倉刑事は、相棒として、結構期待していたりするのだった。
二人は、事件に対して、お互いに違う視点から見ているようだったが、
「結局は同じところに行きつくのではないか?」
とお互いに考えている。
門倉刑事の方は、考え方としては、
「加算法」
という考え方であった。
何もないところから、情報を集めていって。そこから、ピースを埋めていく。そして、見えている-ものと組みあわせて、
「限りなく満点に近く」
していこうという考え方であった。
この考え方は、最初から真剣にやっていないと、最後のピースに辻褄が合わない時は、見つける答えが難しい。
というのは、
「双六において、残りのマスとまったく同じ数字の賽の目が出ないと、オーバーした分だけ、後戻りをするという場合に、意外と難しかったりする」
ということを考えたり、
「簿記の帳票を作る時、左右で数字が合わない時、それを合わせようとする場合、数字が大きいほど、何とかなる」
作品名:可能を不可能にする犯罪 作家名:森本晃次