可能を不可能にする犯罪
「ということは、神崎さんは、まわりが自分を見ている時は、神対応ができるけど、ちょっとでも、興味が離れると、それまでのストレスが爆発するということになるんですか?」
と刑事が聴くと、
「ええ、そういうことなんだろうと思います。ただ、実際には時間も経っているわけで、すでに頭の中では、冷めてきているように思えるので、それで、ストレスが爆発するとしても、爆発させるには、それだけの何かがあるといってもいいでしょうね、わざと起こって見せているということになるかも知れないですね」
というと、
「じゃあ、何かあざとい計算でもあるかのように聞こえますが?」
と刑事がいうと、
「そうなのかも知れません。そういう意味で、心底、相談になってくれるような親友は、彼にはいかなったのではないかと思うんですよ」
と友達がいった。
「なるほど、人間関係が薄っぺらい感じに見えたという感じですか?」
と刑事がいうと、
「そういえるかも知れないですね。でも、彼は性格的には、勧善懲悪のところがあったような気がするんですよ。でも、だからといって、人に対して、恨みを抱くということは少なかったような気はするんですけどね」
というのだった。
「まるほど、勧善懲悪というのであれば、人を、完全に善悪の基準で判断し、その感情の優先順位は、悪か善かということが最優先だということになるんでしょうね。普通なら、許されないことの方が多いのかも知れないですけどね」
と刑事がいうと、
「そうですね、彼は特に、世の中の仕組みなどにずっと憤りを感じていて、政府だったり警察などをよく批判していましたよ」
という。
「それは耳が痛いですね」
と刑事が苦笑いをすると、
「勧善懲悪ということを、自分でも、よく口にしていましたからね。それで、悪の権化は、警察であり、政府だといっていましたね」
というので、
「それは、具体的には?」
と刑事が聴くと、
「まあ、これは、神崎に限らず皆思っていて、口には出さないだけのことなんでしょうが、そこにも、神崎は不満があるようで、何も言わないんだったら、賛同したのと同じじゃないかってよく言っていましたね」
「というと?」
「ほら、子供の頃の苛めと一緒ですよ。誰かが苛められているとすれば、それを見て見ぬふりをするでしょう? 自分がかかわりになることを基本的に皆嫌うからですね。それは、当たり前のことで、苛めている方が、その相手に飽きれば、今度は自分が狙われるというのを、分かっているからですよ」
という。
さらに続ける。
「それも、自分がいうことで、自分から狙われるように仕向けてしまったようで、自業自得ということから、そんな自分が嫌になるでしょうね」
というと、苦み走った顔になり、それを見た刑事は、
「この男の、実体験からの話ではないか?」
と感じたのだった。
そういう意味で、
「本当は警察や、政府が嫌だというのか、彼も同じなのかも知れない、だからこそ、神崎の気持ちも分かることから、彼の証言には、信憑性が感じられるのかも知れない。そう、彼は、神崎の言葉を代弁しているかのようではないか?」
と感じるからだった。
「世の中には、同じような考えの人はたくさんいるだろうが、身近にここまで近い考えの人がいるというのも珍しいのかも知れない」
しかし、逆を考えれば、
「類は友を呼ぶ」
という言葉があるが、まさにその通りで、
「出会うべくして出会った相手だ」
といえるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、彼と、神崎は、
「一心同体」
といってもいいかも知れない。
だとすると、
「どっちが、どっちを引き寄せたのだろう?」
ということになるが、
「お互いがお互いを引き寄せたのかも知れない」
ともいえる。
だとすると、
「神崎と、細川の関係というのも、お互いに引き寄せ合わないと成立していないのかも知れないな」
ということであった。
「神崎さんのことなんだけど、彼は、親友と呼べる人は多かったんですかね? 見た目の友達は少なかったんでしょう?」
と彼に聞くと、
「そうですね。最初の頃は友達も多かったと思っていたんですが、気が付けば孤立寸前に見えたんですが、彼にそんな雰囲気は見当たりませんでした。それは、彼が、友達の断捨離をしたからではないかと思っているんですが、実際に、親友と呼べる人が多かったからではないかと思うと、その理屈も分かる気がするんです」
という。
「なるほど、だとすれば、神崎という人のまわりにいるのは、親友といっても過言ではないといえる人ばかりなんでしょうか?」
と刑事が聴くので、
「それは、そうかも知れないですね。もちろん、断言はできませんが」
という。
「じゃあ、ですね。今回の事件に関して、あなたはどう思われますか?」
と聞かれて、友達は、
「勧善懲悪というのは、聞こえはいいですが、この自分に都合のいいことばかりを優先させようとする人間が多い中では、疎まれることも多いでしょう、だから、恨みを買うこともあるとは思うんだけど、神崎に関しては、恨みを買うといっても、少なくとも、相手が自己嫌悪に陥るようなことが多いですからね」
という。
「だったら、逆ギレしそうな人から見れば、神崎を殺したくなるという異常なやつもいるんじゃないですかね?」
というので、彼は、少し考えて、
「それはないとは限らないですが、確率からいうと、少ない気がするんです。そもそも神崎は、そんな変なやつとかかわりに遭うことは絶対にしませんからね。でないと、友ダッチの断捨離などという感情になるとは思えませんからね」
というではないか。
「なるほど、それはいえるかも知れませんね」
と刑事がいうと、
「とにかく、神崎は分かりやすい性格なので、こっちも話がしやすいんですよ。もっとも、そんな彼なので、人によっては、利用しようと考える人もいるでしょう、でもその方法としては、あくまでも自分の都合に合わせようとするんだけど、そこが、神崎の天邪鬼なとことで、相手に的を絞らせない。まるで嘲笑うように、相手の計略をすり抜ける感じになるんでしょうね」
というのだった。
「じゃあ、何をどうすればいいのか? というのが相手には分からなくなって、結局離れて行くというわけですかね?」
と刑事が聴くと、
「そういうことです。それが、彼の意識的なのか無意識なのか、自己防衛本能が形になったものではないでしょうか?」
というのだった。
刑事も、大体のことは聴けたということで、
「じゃあ、今日はありがとうございました。またご協力を願うことがあるかも知れませんが、その時は何卒よろしくお願いします」
といって、友達との聞き込みを終了した。
聞き込みは二人の刑事が言っていて、基本は一人が聴いて一人が筆記するものであったが、話を聞いた刑事が、筆記の刑事に話しかけた。
「君はどう思う?」
と聞かれた刑事は、
「どうにもこうにも、何とも言えませんね」
といって、筆記の刑事は、少し苛立っているかのように見えた。
それを、聞き込みの刑事は分かっているようで、
「どうして、そんなにイライラするんだ?」
ということを聞きたいのは、山々だが、
作品名:可能を不可能にする犯罪 作家名:森本晃次