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三つ巴の恐怖症

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 ここに入ってくると、風は病んでいた。しかし、風がなくてもひんやりとしていて、水面にある波紋は、まるで、指紋のように、短い周波を描いていた。まさに、
「破門」
 という言葉がふさわしく、
「風を感じないのに、波紋だけはしっかりとできているんだ」
 ということで、水面に顔を映しても、決してキレイに写らないということが分かった気がした。
 そして、その波紋を感じた時、今まで、
「風がない」
 と思っていたのがウソのように、そよいでくるような風を感じた。
「これほど、ここちよい感じはしない」
 と思わせるのだった。
 その心地よさの理由が、
「水の冷たさにある」
 ということを感じるまでに、そんなに時間はかからないだろう。
 そのことが分かってくると、
「どうして、この街が、冬が暖かいのに、夏は、まるで避暑地と言ってもいいくらいに涼しいのか?」
 ということが分かった気がした。
 それが、この池の正体なのだろう。
「きっと冬になると、この水温は高いのではないだろうか?」
 と感じたのだ。
 そんな魔法のような場所が存在しているのだろうか?
 実際にそんな自然環境を感じたことはなかった。
 もし、原因があるとすれば、
「ここのように、綺麗にまわりを森に囲まれているからであろうか?」
 ということを感じる。
 もちろん、科学的な証明がなされているわけではなく、まるで、
「都市伝説」
 のような感覚であることが、この街を、
「天然の避暑地」
 というものを形成しているのかも知れない。
 そういう意味で、この場所を、
「療養所」
 として選んだのは、病院側のヒットだったといってもいいだろう。
 避暑地というものを、街の人はそれほど詳しくは知らないだけに、逆に、
「この街がこれほど素晴らしいところだ」
 ということを知っていたわけではなかった。
 当たり前のことのように感じているだけで、だから、
「ここに病院を建てたい」
 と病院側が言ってきた時、
「どうぞ」
 といって、簡単だったわけだ。
 しかも、病院側の話としては、
「この病院の存在を、大っぴらには明かしたくない」
 ということであったのだが、その理由が、
「精神疾患がある人が多いので、あまり、世間と触れさせたくない」
 ということだったのを聞いた街の方も、
「そういうことでしたら、この場所はちょうどいいかも知れませんね」
 ということになったのだった。
「ここは、まわりを大きな森に囲まれていて、自然環境も、ある意味、一年中快適に過ごせる場所なので、ここで病気を治そうというのは、いいことだと思います。逆に我々もあの場所を、あまり、不特定多数に教えたくはないんですよ。そういう意味では、利害が一致したといってもいいかも知れませんね」
 と街の長がそういうのだった。
 病院側も納得し、さっそく、建築に向けての準備がなされたのだった。
 実際に建て始めると、結構早かった。
 半年もしないうちに、湖畔にあたる場所に建物が建てられ、その佇まいは、
「まるでリゾートホテルのようだ」
 と思えるところであった。
「街の人も、あの場所であれば、アルバイトかパートとして、雇っていただければありがたいと思っていますよ」
 と街の代表がいうと、
「それは願ったりかなったりです。何と言っても、他からの通いは結構きついですし、秘密主義を考えると、街の人たちに賄ってもらえる方がありがたいということになるんですよね」
 と病院側も、二つ返事で、了解してくれた。
「それは、嬉しいです。さっそく、街の広報で、こちらの募集を掛けるようにしましょう」
 ということになり、とんとん拍子に、病院の稼働に対して、話が成立していくのであった。
 実際に、街が、この病院の存在に気付くようになって、食料を差し入れたり、街でできたものを食品以外にも使ってもらおうと、街の人は、結構届けていた。
「この街にとっては、初めての公共施設への協力ということだから、我々もまるで子供のようにうきうきした気分になっているんだよ」
 と、食料を持ってきた老人がいうのだった。
「この街は、どうしても、若い人が少なくなってきているという、中途半端なところにありがちな問題を抱えていますからね。本当は、もっともっと、他の街や、都会と接点を持つようにすればいいんでしょうが、これまでの伝統を考えるとそうもいかないんですよね」
 というのだった。
「伝統があるんですか?」
 と病院側の人が聞くと、
「ええ、そうなんですよ。昔から、他の村と共存しようとすると、うちの村が騙される結果になって、しばらく立ち直れず、どんどん、他から隔絶された存在になっていったというんです。だけど、途中から、こっちの方が隔絶しているということになり、まわりを受け入れなくなったということなんですがね」
 と街の長は話している。
 そんな街であるが、実は病院をこの街に移そうとしたのは、ある医者の話がきっかけだった。
「最近、精神疾患の人が増えてきているので、どこか、まわりから隔絶された形で、療養できるところがあれば、そこに移したいんだけどな」
 という話があったことで、その人がこの街を推挙したからだった。
 最近、どうしても精神疾患の人が多いというのは、どうしても、社会の変革というのがあるからではないだろうか?
 実際に、
「今の世の中が病んでいる」
 といってもいいくらいの社会環境であった。
 だからこそ、十年以上前くらいから、
「コンプライアンス」
 などということが叫ばれて、
「各種ハラスメント」
 というものを考え直さなければいけない時代になったのだ。
 基本的には、会社などで言われることが多いが、それは、どの社会環境にも言えることで、学校や家庭、さらには、サークル活動でもあることだ。
 要するに、
「人が集まるところ」
 そこに、
「コンプライアンス違反」
 というものが潜んでいてもおかしくないということになるのだろう。
「人を、確固たる立場にて、相手を追い込んで、逃げられなくしておいて、これでもかとばかりに殴りつける」
 というものが、
「パワハラ」
 と呼ばれるものであった。
「男女という観点から、昔の男尊女卑のような考えで、男だから女よりも上だという、考えをもち、追い詰めることでプレッシャーをかけ続ける」
 というのが、
「セクハラ」
 と言われるものだった。
 このセクハラというものは、結構大変なもので、
「確かに、よく考えれば、ハラスメントに値するのかも知れないが、それが、相手のことを分からない時に最初の掴みとしての会話すら、ハラスメントと言われるのは、男としては、やってられない」
 ということであろう。
 そこに、
「パワハラ」
 と言われてしまうと、
「責任をもって、社員に仕事をさせて、仕事を成功させなければならない」
 という立場の人とすれば、これ以上やりにくいことはないだろう。
「仕事を成功させなければいけない」
 ということで、部下にプレッシャーをかける上司というのも、
「パワハラに値する」
 と言えるかも知れない。
 しかし、そのハラスメントを今度は、上司が、その上司から受けるのだ。そして、その上司がさらに……。
作品名:三つ巴の恐怖症 作家名:森本晃次