後味の悪い事件(別事件)
しかし、彼女の身辺をいろいろ捜査してみると、大学時代に入っていたサークルの先輩が、死んでいたのだ。
その先輩というのと、彼女は、
「そんなに親密だった」
という関係でもないということだった。
それは、大学時代の人の話でもあったし、実際にその男性が殺されたという可能性もあったの、一応捜査が行われた。
しかし、その人が死んだことで、誰かが得をするということはないということであったり、その男子学生の友好関係に、怪しいところもなかったことで、遺書もあったことから、
「自殺」
として片付けられた。
自殺の方法としては、
「リストカット」
だったのだ。
風呂場に湯をためて、そこで手首を切った。かなりの思い切ったことをしたようで、もっとも、彼には精神疾患があったようで、まわりから、
「いつ、自殺をするか分からない」
と言われるほどだったという。
ただ、今回捜査をする中で、彼の友人を再度訊ねると、
「どうして、また、数年も経って、彼は自殺だと決まったことをいまさら聞いてくるんですか」
と相手は当然聞くだろう。
「自殺だ」
という結論で、葬儀も行われ、まわる皆が納得したのだから、彼の言い分も当然のことだった。
しかも、その時とはまったく違った所轄の刑事ではないか。
「いやいや、今回は、別の事件の捜査なんですけどね」
といって、娘の死を話すのだった。
すると、それを聞いた当時の同級生は、少し考え込んでいたようだが、
「あの時は、根拠も何もなかったので、言わなかったんですが、自殺したとされる彼には、影で付き合っている女性がいるというようなウワサはあったんです。その一番手が、彼女だったんですが、あくまでもウワサだったので、あの時は、彼に死なれて得をするわけでもないでもないと思ったので、根拠もないことをいうと、自分が誹謗中傷したとかいって、彼女に嫌われないとも限らないですから」
というのだった。
「我々には守秘義務というものがあって、捜査上の秘密だったり、個人のプライバシーに関することは、口外しないようになっているんですが?」
と刑事がいうと、
「建前上ね? だけど刑事がいろいろ嗅ぎまわっていて、その中で、彼女がもし、まったく関係ないのに、自分のまわりを警察が嗅ぎまわっていると思えば、俺たちにその疑いが掛かるじゃないですか? 警察はそんなことまで考えてくれないでしょう?」
と男は、怒りをぶちまけていた。
「彼女は、僕たち以上に警察が嫌いだったんですよ。その理由までは聴いたことないですけどね。大学に入学した頃に、警察の話になった時、人が変わったように、警察の悪口を言ってました。それを聞いた時、ドキッとしたくらいですよ」
というのだった。
同じ話を他の人に聞いた時、
「ああ、彼女は、子供の頃、警察に何かを疑われ、家族は信じてくれたのに、警察は信じてくれなかったといっていました。中学時代、万引きを疑われたらしいんですが、やっていないということを正直に話しても警察は信じてくれないだけじゃなく、家にも学校にもばらしたということで、何か処分を受けたらしいんです。それから、彼女は、大の刑さts嫌いになって、その時から、殻にこもってしまったんですよ」
ということであった。
「なるほど」
と刑事は考えていたが、
「どうやら、彼女は、心許せる人には何でも話すが、それ以外には、徹底的な秘密主義だったようだ」
と刑事は感じた。
誰も彼女のことを知っている人は確かにいなかった。
彼との関係について、親友であるその人は、
「あの時は、俺もさすがに警察に彼女が、自殺した先輩と付き合っていたということを、言えなかったですよ。俺のことを信頼してくれている彼女を裏切ることになるんですからね」
という。
それを聞いた刑事は、
「彼が死んで、彼女の徳になることはあったんですか?」
と聞かれて、
「いえ、それはなかったと思います。ただ、彼女は僕にすら、何かを隠していたようなんです。彼女は秘密主義なのえ、普通の人だったら、秘密にされているということに気付かないようなテクニックを持っているんでしょうが、僕には通じません。何かを隠そうとしているのであれば、それはすぐに分かってしまうんですよ」
というのだ。
「彼女は何を隠していたんですかね?」
「さあ、僕にも分かりません。さすがに、この僕にさえ隠しているくらいなので、僕も聖人君子というわけではない。それならそれで、こcっちも知らないと思ったのも事実ですからね」
というのだった。
刑事が今の彼女の立場について話すと、
「ああ、なるほど、最近彼女がまた連絡を取ってきたんですよ。自分の店に、天真爛漫な女の子が入ってきて、彼女と仲良くしているってね。でも、何か自分のことを探られているような気がするのが気持ち悪いといってました。そして、その彼女には彼氏がいるようで、その彼氏が、どうも、自分のことを知っている人のようだというんですよ」
というので、今回の事件の二人の話をすると、
「ああ、清川君ですね?」
と親友が言った。
「清川君を知っているんですか?」
と聞かれたので、
「ええ、清川君というのは、自分たちの中でも一番頭のいいやつだったんですよ。ただ
精神疾患を持っていて、その分、自殺した先輩とよく一緒にいたということなんですね。もちろん、清川も疑われて取り調べられたようだけど、決定的な何かがあったわけではない。清川君には、別に彼女がいるという話だったんですが、その子は天真爛漫だったということを聞いていたので、それが、その新宮さんだったということであれば、理屈が分かる気がする」
というのであった、
「でも、おかしなこともあったんです。ちょうど、その時、一人の男性が行方不明になって、捜索願を出していたんですが、その人が、清川君と友達だったんです。そして清川君に、その人と、一人の女の子を巡って、三角関係になっているというウワサが流れたんですが、それが、新宮という女性であれば、何となく分かる気がする。
先輩は、失恋からの自殺だったんだということで、急転直下の自殺ということでケリがついたんでしょうね。
いろいろと捜査をしていくうちに分かってきたこともあった。
その三角関係で行方不明になった人は、どうやら、事故死に見せかけて、殺されたのだという。
その事故死というのは、アナフィラキシーショックによるもので、事故死として、他のところで判明し、大学には密かに知らされ、
「行方不明者の事故死」
ということで肩がついたようだ。
しかし、これが、殺人であったということが少しでも分かれば、先輩の自殺が、もう少し違った目で見られていたのではないかということえあった。
実際にそのことは、大学内では、一部の人間しか知らない。
三角関係ということも、彼が知っているだけで、
「その人が事故死をした」
ということも知らなかったのだ。
話が、いつもどこかで途切れているから、話が続かない。
それが、今回の事件の特徴でもあった。
「つまり、今回の事件はどう考えればいいのか?」
ということであるが、
作品名:後味の悪い事件(別事件) 作家名:森本晃次