後味の悪い事件(別事件)
「少なくとも、今回の事件を取り巻く環境で、かつて二人の人間が死んでいたことが分かった。ここで娘が死ぬことで初めて分かったことであるが、その二つは彼女の大学時代が関係していた。しかも、その二人は、一人は自殺で、一人は事故死、それぞれが単独であるので、当然、捜査すらほとんどされなかったのだ」
ということであった。
事故の方はなおさら、疑いようがない。
しかし、事故死した人が、一度昔、ハチに刺されたことがあると分かっていれば、あとは、
「もう一度刺されるだけだ」
ということである。
そういう意味で、この事件は、
「一度目が前哨戦のようなもので。二度目が、本当のショックを引き起こす」
というのが、もし今回の事件でもいえるのだとすれば、
今回の当事者の3人。つまり、
「新宮かすみ」
「清川三郎」
そして、
「被害者の娘」
それぞれに、前哨戦に関わっている。
といえるであろう。
そして、それぞれに、決定的なところで、線が切れていて、一筋縄の捜査では、真相に行き着かないようになっている。
ということではないかと思えるのだ。
ただ、一つ言えるのは、今回の事件、
「本当は誰が死ぬべきだったのか?」
ということが、アナフィラキシーショックの中で、
「死因は、ハチの毒ではなく、自分の中にできた抗体だ」
ということを示しているのかも知れない。
「俺が今回死ぬという時、その問題となるのは、彼女が持っている先端恐怖症というものだった。彼女がそうなったのは、先輩が自殺をした時、その場にいたのが彼女だった」
ということではないだろうか?
ただ、彼女は以前から、注射には人よりもさらに恐怖心を持っていたので、先端恐怖症は以前からあったと思われていたことだろう。
それを思うと、
「今回、やはり三人の中で、本当は誰が殺されるはずだったのか?」
ということが問題になるのではないだろうか?
いろいろ調べてみると、どうやら、その時、
「清川は狂ったように暴れ出すことがある」
という証言が取れたが、その時もそんな発作があったというのは、間違いない。だから、彼は、
「全然、その時のことは憶えていない」
といって。刑事から、執拗に取り調べを受けていたのだが、それは間違いではないようだった。
「モスキート音」
というのを、彼が、ボソッと呟いた。
「何か急にその音を聞くと、まわりが自分を襲ってくるような幻覚や幻聴に陥るんですよ」
というのだ。
「モスキート音というのは、高齢になると聞こえなくなるというもので、君はまだ若いじゃないか」
と言われ、
「そうじゃないんです。若いからこそ、狂暴になるというのもあるらしく、自分はそれらしいんです」
というのだった。
実際に主治医に聞くとその通りであり、どうやら、
「犯人として扱われるのは、この男で間違いない」
ということであった。
では、本当に殺されるべきは誰だったのか?
それは、ハッキリとは分からない。
刺した本人は分かっていないのだし、天真爛漫だと思っていた彼女は、すっかり憔悴してしまい、彼女は自殺を図った。その内容は、
「スズランの毒を使ってのもので、死因は、コンパラトキシンが全身に回ったことだ」
という。
「ここでも、最後はアレルギーか?」
と、事件はこれにて、終焉を迎えたのだ。
あまりにも分からないことが多いままの事件であり、
「これほど後味の悪い事件はない」
ということであったのだ。
( 完 )
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作品名:後味の悪い事件(別事件) 作家名:森本晃次