後味の悪い事件(別事件)
セレブが、商店街を支えてくれたということになるのだろうが、そんな商店街があったおかげで、この喫茶店も、持っているのだ。
そもそも、商店街の店長の一致した意見として、
「この店は、できるだけ、昔の喫茶店のままであってほしい」
という要望から、今もこの佇まいだったのだ。
マスターは、昔のレコードのコレクターであり、今また、昔のレコードが少しずつ人気を博してきたこともあって、それぞれの店の店主たちも、密かに、昔のレコードの収集をしていたりしたのだ。
この店では、プレイヤーも充実していることから、クラシックなどが、主流だった。もちろん、CDによる再生も可能で、ロックなどは、CDで普通に聞けるようになっているし、有線も繋いでいるので、そちらを流す時間帯もあったりした。
そう、このお店は、時間帯によって、明らかに客層が違っている。昔であれば、それが当足り前で、今も実はそうなのだが、今それを感じさせないのは、どんな客層であっても、店でしていることに、そんなに変わりがないように見えるからであろう。
昔であれば、朝は通勤前のサラリーマン、特に、サラリーマンといえば、ほとんどが男性だったこともあって、スーツ姿のサラリーマンがほとんどだった。
今であれば、客がいても、女性が多かったり、男性でも、スーツ姿は珍しくなり、夏などは、
「クールビズ」
などと言って、ラフな服装が多くなってきたのも、その特徴なのかも知れない。
さらに、ランチタイムというと、結構客が多かったのが、喫茶店であったが、今は、ランチタイムと言っても、軽い食事が多いことで、あまり、食事をしにくる人もいない。
だからと言って、
「アフターコーヒーを飲みに」
という客もおらず、
「ランチタイムだから、稼ぎ時」
というには、比較的客が少ないように見受けられる。
それよりも、今の時代は、スマホをいじっていたりする客が多いので、店内に、電源であったり、wihiという機能が充実しているところが多いのだった。
さらに、
「ノマドワーカー」
と呼ばれる、人たちが増えてきた。
「ノマド」
というのは、
「遊牧民」
ということのようで、いわゆる、
「会社に出社することもなく、つまり事務所に所属しているわけではない、一種の個人事業主」
という形の働き方が、最近増えてきている。
そういう人が、喫茶店のようなところで、パソコンを広げて、仕事をしているという人が多くなってきたのだった。
特に、数年前からの、
「世界的なパンデミック」
というものが流行ったせいで、
「会社に出社せずに、家からリモートで、仕事をしたり、会議を行ったり」
ということが増えてきている。
そもそも、それ以前から、都心部に、わざわざ事務所を構えて、家賃を取られるようなことを失くそうとしている会社も増えてきた。
当然、家賃は、都心部に行けば行くほど高くなってくる。
「確かに都心部であれば、通勤には便利でいいのだろうが、あの満員電車に乗って通勤しなければいけないという、昭和時代までのようなのが、本当に必要か?」
ということである。
大都会になればなるほど、家を持ったりすると、
「通勤に、2時間以上かかるのは、普通だ」
ということになるだろう、
一日の会社の拘束時間が8時間として、片道通勤に2時間。つまりは、往復4時間という、会社の拘束時間の半分くらいが、拘束時間にプラスになって、半日が、会社関係ということになる、
これは、
「残業をしない」
ということを前提にである。
すると、睡眠時間を、もし、8時間とすれば、残りの4時間だけが、プライベイトな時間ということになる。
家庭もちであれば、その4時間もほとんど、家族のためということになると、自分の時間はまったくなくなってしまう。
そうなってくると、
「ストレス解消ができる時間などなく、本当の、働きバチになってしまう」
ということにしかならないだろう。
これは、本当に地獄である。
今でこそ、
「コンプライアンス重視」
という言葉が叫ばれ、会社でも、
「ハラスメント違反」
というものを重要視するようになったが、まだまだ、今でも、
「ブラック企業」
ということで、ハラスメントなどは、まったく無視したかのようなところも散見されるであろう。
しかし、以前はそんなことはまったくなく、バブルの時代のような、
「働け働け」
というような時期があったかと思えば、バブルがはじけたことで、人件費の問題が大きくクローズアップされ、そのため、
「派遣社員」
あるいは、
「嘱託社員」
などというものが増えてきて、いわゆる、
「非正規雇用者」
というものが増えてきた。
時間から時間で、彼らに仕事をさせておいて、社員をその分減らすというのだが、社員に対しても、
「残業をするな」
と言っていても、安い給料で働く派遣社員に、正社員と同じ仕事を望むのは酷なことであり、結局、残った仕事は正社員がしなければならなくなる。
自分の仕事だってあるのに、それをさらに残った仕事もこなさなければならないとなると、正社員もストレスが溜まるというものだ。
そんな時代が今や当たり前となってしまった以上、今度は、
「サービス残業」
という形で、いくら残業をしても、
「手当が出るわけでもない」
つまりは、
「世の中というものは、どれだけ理不尽なものか?」
ということを思い知るに至るのだった。
そんな状況をまずいということでの、
「コンプライアンス」
の問題なのかどうかは分からないが、少なくとも、
「社会的問題」
ということになっているのは事実のようで、
「それだけ、会社から受けたハラスメントによって、病んでいる人が多く鳴った」
ということなのであろう。
実際に、
「会社で、パワハラを受けて、今社会復帰を目指している」
という人がかなりいる。
彼らは、失業者であるが、
「それは、仕事に不適合だから、会社を辞めた」
というわけではなく、
「会社から受けた、ハラスメントによって、精神を病んでしまったことで、働けなくなってしまった」
という人が多いのだろう。
そういう意味で、ノマドワーカーという人が増えてきたのも分かる気がする。
「会社に属さず、自分の実力だけでやっていく」
というのは結構大変なことであろう。
それはもちろんのことであり、
「仕事というものが、どれほど大変か?」
ということを分かっていないと、なかなかノマドワーカーは務まらない。
そう、
「誰にでもできる」
というものではないのだ。
ただ、今は、
「事務所に出社することもなく、自宅で仕事ができる」
ということで、それだけ、通勤時間が自分の時間に使えるというだけで、ありがたいことであった。
そういう意味で、
「世界的なパンデミック」
というのは、
「百害あって一利なし」
であるが、その中でかすかにあったこととしては、
「リモートワークが進んだ」
ということであろう。
しかし、何かの変革が起これば、
「いい面もあれば、悪い面もある」
ということが叫ばれるというのも当たり前のことである。
悪い面というのは、
作品名:後味の悪い事件(別事件) 作家名:森本晃次