生きてはいけない存在
「人間の歴史というのは、そこから始まっているといっても過言ではない」
といってもいいかも知れない。
「人間の歴史は、地球の歴史から見れば、実に短いものだ」
と言えるだろう。
まずは、
「地球はすべてが海だった」
というところから、生命が始まり、次第に陸が出てくると、
「足や手を持った、歩行をするという動物が出現してくることになる」
ということから、恐竜を中心とした、
「巨大生物の時代」
に入ってくる。
といってもいいだろう。
その頃には、人類の祖先も姿を現し、
「進化を繰り返す」
ということで出てきたのが、人類というわけだ。
人類というものが、どのようなものなのかというと、まずは、
「道具を使う」
ということであった。
その次には、
「火を使う」
ということであり、他の動物は、火を嫌うのは、人間との比較のために、本能から、
「動物は火が苦手だ」
ということになるのだろう。
人間を誰が作ったのかは、正直分からないが、人間を作った時、本能をわざと発達させないようにしたのだとすると、それでも、生き延びている人間は、
「素晴らしい高等動物だ」
ということが言えるだろう。
「火」
というものを考えた時、一番最初にうかんでくるのは、ギリシャ神話における、
「パンドラの匣」
という話であろう。
そして、同じ宗教ということで、火というものが、大切となっているのも分かるというものだ。
「ゾロアスター教が、火の宗教だ」
と言われるように、
「火を神様」
として祀り上げるのは、人類にとっては当たり前のことだった。
神様が存在しているかどうかは、別の話である。
竹下巡査ともう一人の巡査とは、いつも、ペアであった。竹下巡査は年齢的にも、巡査部長を拝領していた。
自分でも、
「このまま、現場でずっと働いていく」
という思いがあったので、
「このまま、街のおまわりさん」
でいようと思っていたのだった。
もう一人の巡査は、まだまだ警察に入って間がないくらいの若い男で、気持ちとしては血気盛んだということであった。
口癖のように、
「早く偉くなって、経験本部で、刑事として働くんだ」
と言っていた。
だが、彼は、最初が交番勤務ということから分かるように、キャリア組ではない。
ということになると、刑事になってどこかの警察署の刑事課で働くようになったとしても、そこから這い上がるというのはなかなか難しいことであろう。
まだまだ、警察組織というものをわかっているわけではないだろうから、
「きっとこれからどんどん苦しむことだろうな」
ということは、竹下巡査にも分かっていることであった。
彼の名前は、
「大橋」
と言った。
大橋巡査の運転するパトカーが、その踏切に差し掛かったのが、時間として、午後二時半くらいだっただろうか。大橋巡査も、ほぼ毎日の警らで、
「そろそろ上り方面の電車が来る頃だな」
ということを感じていた。
踏切には、数台の車が踏切に差しかかろうとしていた。この時間帯は、電車の本数もまばらではあるが、なぜか交通量は少なくない。しかも、パトカーが近くにいると思うと、必要以上に気にしてか、踏切の一旦停車も、
「これでもか?」
というほどに、長いこと止まるものなので、
「それが本当なんだ」
と思いながらも、実際には、面倒臭いと感じているのだった。
特にまだ若くて、血気盛んな大橋巡査には、イライラが募るようだ。
昔のギャグマンガに、
「バイクのハンドルと握ると、人間が変わる」
という極端な景観がいたが、まさにその男のようだった。
普段は、気が弱いくせに、ハンドルを握ると、明らかに恐ろしい性格になる。
ただ、運転テクニックは、完璧に近かった。
「こいつ、警察なんかに来なくても、レーサーにでもなればよかったのに」
と思う程であったが、あくまでも、
「完璧に近い」
というだけで完璧というわけではない。
ただ、それは、他の誰にも言えることであって、逆にいえば、
「どんなに安全運転していようが、事故をする時は事故を起こすものなのだ」
ということである。
誰だって、事故を起こしたくて起こすわけではない。
逆に、大橋巡査のようなテクニックが抜群の人間が、無謀な運転に見える時に、事故は起こすものではない。
どちらかというと、
「事故が起きそうにない、気分的に余裕のある時ほど、ちょっとした事故を起こしたりする」
というものだ。
「停車中の車に、少しこすってしまったり」
あるいは。
「交差点で信号待ちをしていて、信号機が青になった時、相手が進んでくれないのに気づかずに、おかまを掘ってしまった時」
などというような、
「普段のあの運転から、こんな初歩的なミスが起こるなんて」
ということが、往々にしてあったりするのだ。
「交通事故なんて、そんなもんだよな」
と、交通課の刑事は、結構、そう思っていたりする。
大橋巡査は、
「将来は刑事に」
と思っているが、
「刑事課だけでなくてもいい」 と思っている。
考えているのは、
「交通課でもいいな」
と感じているのであって、
「交通課で、仕事をしている自分を頭に思い浮かべえたりもしていたのだ」
というのは、彼は、高校時代に、県主催の祭りの中で、パレードがあったのだが、そこで見た、警察のいわゆる、
「白バイ隊」
というものの、
「一糸乱れる統率さ」
というものに憧れていたのだ。
高校時代から、自分でも、血気盛んだということは思っていた。
「もし、グレていたら、間違いなく、暴走族になっていただろうな」
と思っていた。
幸いなことに、グレる要素がなかったことで、真面目な高校生活を送ってきた。
祭りのパレードで、
「白バイ隊」
というのを見かけるまでは、
「将来何になろう?」
ということを考えることもなかった。
しかし、
「白バイ隊を見たのは、俺の運命なんだ」
と思った。
それによって、その時に、将来の道が、確定したのだった。
それから、勉強して、何とか地方公務員試験に合格し、地元の警察署である、
「K警察」
に配属されたということだった。
実は、大橋巡査は、自分で考えているほど、頭がよくないというわけではなかった。警察内部でも、彼の頭の良さに一目置いている人もいるくらいで、竹下巡査も、
「大橋君だったら、近い将来、K警察署で、刑事課でも、交通課でも、好きなところに行かせてもらえるだろうな」
と思っていたのだ。
そんな大橋巡査の運転するパトカーが、後三台くらいで踏切を渡れるというところまで来ているのであった。
踏切事故
竹下巡査は、前ばかり見ているわけではなく。何の気なしに、踏切から、少し目を逸らし、線路の方に眼を向けていた。
このあたりは、基本的にこの時間、日は全然高いところにあるので、
「何かが起こる」
などという時間帯でもなかった。
しかし、線路の方を見ていたところで、急に背筋がピンと伸びたのだった。
作品名:生きてはいけない存在 作家名:森本晃次