生きてはいけない存在
ということであれば、本当は、そのことを包み隠さずに話さなければいけないが、どうしても、弁護士というものを勘違いしていると、言えなくなってしまう。
もし、弁護士が知らないことを、検察側から指摘でもされると、
「弁護士としてのメンツも丸つぶれ」
ということになり、
「そんなに私が信用でいないのであれば、もうあなたの弁護などできないですよ」
といって、法廷が終わると、面会でそういうかも知れない。
そうなると、最悪の場合、
「裁判の途中で弁護士が変わる」
ということもありえなくもない。
被告がm、それを選ぶことができるからだ、
だから、ここでいうウソというのは、
「何も、ウソをついたことだけが、ウソではない」
つまりは、
「言わなければいけないことを言わなかったとしても、それはウソの類になるというわけだ」
ということになる。
被告が、
「正直に話してくれない」
ということであれば、
「私には弁護はできない」
ということで、引き下がることもあるだろう。
もちろん、それが、被告の意見で会った場合であろうがである。
そんなことを考えていると、今のところは、
「事故の可能性が、限りなく高くなってきたようだ」
と言える。
証人としては、武下巡査が見た光景だけであり、それ以外に、事件を臭わせるものはないのだった。
しかし、気になるのは、
「被害者を介護していた」
という介護人の行方であった。
会社には、
「休みがほしい」
といって、何の疑いも持たれる、休暇に入っていたが、実際に、住んでいるマンションに行ってみると、そこにいる気配はなかった。
だからといって、
「行方不明」
と決めつけるのは、早急であったが、一つ、会社の方で気になることを言っていたのだが、その内容というのが、
「彼は休暇に入った時、前は毎日のように、定時連絡をくれなくなったんです。もっとも、その頃から、よく旅行に出かけることが多きなったからいうのが理由でした」
と言っている。
「でも、よく旅行に行っていたと分かりましたね?」
と聞くと、
「それはそうですよ、お土産とか買ってきてくれていたので、疑う余地はありません。何といっても、休暇なんだから、その時間を本人がどのように使おうが、会社には関知する権利はありませんからね」
というのだった。
それは、当たり前のことであり、そこまで会社が介入するというのは、今の時代においては、
「コンプライアンス違反」
といってもいいだろう。
何といっても、会社は、個人を縛り付けることはできない。
これが拘束外の時間なのだから当たり前だが、拘束時間であっても、縛り付けることはできない。
それをすれば、
「パワハラ」
であったり、
「モラハラ」
という風に言われてしまうだろう。
それを考えると、会社側が、社員のプライバシーに踏み込めない以上。
「何かあっても、それは会社とは関係のないところだ」
と言って、
「逃げる」
ということもできるのではないか?
と言えるのだった。
精神疾患
ここで、今回亡くなった女性について書いておこう。
名前は、前述のように、
「横山惟子」
という。
年齢は、思ったよりも若く、まだ20代だということだ。来ている服装が、ワンピースの地味な感じに見えたので、武下巡査は、
「結構、年齢がいっているのではないか?」
と思っていた。
そういう話を竹下巡査から聞いていた大橋巡査だったので、被害者の名前を捜査員が話しているのを聞いた時、ビックリしたのも、無理はなかったということである。
大橋巡査も、それほど、彼女のことを知っているわけではない、
「足が不自由で、精神疾患があるということだったので、仕事にもつけず、介護が必要な状況だ」
ということまでは知っていたが、
「どこに住んでいるのか、どうやって生活しているのか?」
あるいは、
「交際関係は?」
というところまで、聞くわけにもいかなかったのだ。
大橋巡査は、
「被害者のことを少しでも知っている」
ということ、そして、竹下巡査は、
「被害者の最後を見た目撃者」
ということで、特別に、オブザーバー的に、捜査に参加することになったのだ。
といっても、日ごろの業務もこなしながらなので、あくまでも、補佐的にということである。
今だ、
「事件なのか、事故なのか分かっていない状態なので、二人の証言は、それなりに貴重である」
ということになったのだ。
横山惟子は、大学を卒業して、5年前に、証券会社に就職したという。
彼女は、
「男受け」
がする顔立ちだったこともあって、先輩男性社員には人気があった。
その代わり、先輩女性社員からは、妬まれることになるのは、必然で、そのせいからか、
「女性の醜い争い」
が勃発した。
それまでちやほやしてくれた男性社員も、この状態を見て、
「お局様を敵に回すと、仕事が滞る」
ということは分かっているので、そのせいもあってか、惟子に対しては、無視するしかなかったのだ。
それまで、ちやほやされていただけに、この態度は、
「嫌われた」
と思い込んだ惟子は、次第に落ち込むようになった。
それを好機と見たのか、お局様集団の攻撃は、激しくなった。
「中学生の頃の嫌がらせ」
のようなこともあり、惟子は完全に、
「孤立無援」
となってしまった。
それを感じたまわりも、何もできなかったのだ。
男性社員も、見て見ぬふり、これは、惟子にとって、苛めを受けているよりも、辛かったかも知れない。
「男性社員は、絶対に味方になってくれない」
と思い込むと、
「後ろの支えがまったくない」
ということに気付き、そうなると、断崖絶壁で、命綱も何もなく、
「一気に谷底に落とされるだけだ」
としか思えないのであった。
そうなってしまうと、
「前だけではなく、後ろも抑えがないと分かると、結果というものは、目に見えてくるのではないか?」
ということが考えられるのであった。
そんな状態を、
「四面楚歌」
というのだということを、惟子は初めて知った気がした。
学生時代までは、そんなに目立つ女の子ではなく、誰からも相手にされていないということで、後から思うと、
「却ってそっちの方がよかった」
と思うのだった。
大学時代もそうだったが、
「普段から、目立つことはなるべくしなかった」
それが自分の本分のように思っていたからだ。
だが、会社に入って、化粧を施すようになると、惟子は、実に綺麗になったのだ。
会社の男子が放っておくわけがないほどの綺麗な感じになったので、男性陣の中で、自分のことがウワサになっていると知ると、惟子は、少し有頂天になっていたのだ。
高校時代までは、自分の友達が、そんな風にちやほやされているのを見て、
「私には関係ない」
と思うことで、
「それが、自分なんだ」
と思った。
モテないことを言い訳するくらいなら、言い訳しないでもいいほど、まったく何も言われない方が、却ってよかった。
そういう意味で、自分の近しい人がちやほやされるのを、冷めた目で見ていたのだ。
作品名:生きてはいけない存在 作家名:森本晃次