一触即発の謎解き
「回答に近づいた」
というわけでもなんでもない。
それでも、一つが消えたことで、そのあたりの発想をしていた人の回答も、
「すべて違っている」
ということになるのだろうということであろう。
そんな中において、
「このウミガメのスープというクイズは、やればやるほど、その本質が分かってくる」
ということになるだろう。
問題を出す方も、イエスかノーかであっても、それを言うたびに、
「だいぶ離れましたね」
などと、道しるべになるようなことを言わなければならない
そういうことを考えている人もいて、そういう人ほど、
「この問題の出題者にふさわしい」
ということになるであろう。
回答する方も、
「相手に回答しやすい質問」
という意味で、ある程度の頭がないと務まらないだろう。
諸刃の剣
「確か、死体を隠すにはどこが一番いいのか? という話だったよな?」
と、飯塚がまるで今思い出したかのように言ったが、実際には、絶えず頭の中では考えていた。
しかし、その答えを出すことができない間に、いろいろな話が出てきたり、頭の中で、予備知識として、合わせ鏡の話があったりと、頭を巡っていた。
「合わせ鏡の話」
というのは、元々、川崎が、今までに何度も同じ話をしていたことで、まるで、
「耳にタコができる」
というくらいに聞かされた話が、頭の中を巡っていた。
そう、
「まるで、堂々巡りを繰り返す」
かのようにであった。
飯塚の中で、川崎という男は、
「いつでも、同じことを繰り返していう」
という、どこか、老人のようなところがある人だ。
と思っていた。
しかし、実際には、理路整然とした話をしていて、実に頭がいい。だから同じ話を何度も聞かされているにも関わらず、嫌だという気持ちは微塵もないのであった。
そんなことを、飯塚が考えているということを、川崎は知ってか知らずか、川崎の方でも、飯塚のことを、
「何度も何度も、確認するように聞いてくる。分かっているのか分かっていないのか、最初はわかっていなかったが、どうも、分かっていて聞き返しているようだ」
と思っていたのだ。
今回、
「ウミガメのスープ」
という話をしたのは、そんな、何度も繰り返して聞いてくる飯塚のような人間であればこその、クイズというか、なぞなぞとして、
「ウミガメのスープ」
という帰納法的なクイズには、もってこいだと思ったのだ。
そういう意味で、今回のこの、
「死体を隠すのに、一番どこがいいのか?」
ということを言い出したのだった。
ここで、川崎は、思い出したかのように、一つ別の話を始めた。
「実は。ここでなんだけど、この話に際して、一つの予備知識として聞いてほしい話があるんだが」
と言い出した。
「どういうことだい?」
と案の定、飯塚は聴いてきた。
「すまない。これを意識させておかないと、探偵小説の中では、ルール違反になってしまうところだったんだ」
という言い方をした。
もちろん、それについては、飯塚もいちかもよくわかっていなかったので、少し首をかしげていた。
「いや、探偵小説というものには、やってはいけないと言われている、戒律のようなものがあるんだよ」
「ほう。そうなんだ」
と飯塚が興味深げに、前のめりに聞いてきた。
「そう、いろいろ種類があるようなんだけど、一番有名なのが、「ノックスの十戒」と言われているもので、例えば、「犯人を最後まで隠しておく」というものであったり。「犯人は実は事件を捜査している探偵だったり」などということだよね。または、「密室トリックにおいて、秘密の出入り口が、複数あった」などという話なんだよね」
と川崎が説明した。
「確かに言われてみれば、それは読者を騙しているようなものだからね。ペテン師と言われても仕方ないレベルになるのかな?」
と飯塚がいうと、
「そうなんだよね、でも、実をいうと、探偵小説の中には、叙述トリックと呼ばれるものがあって、それは、作家の口述であったり、話術によって、ルール違反ギリギリのところで、読者を騙すという、一種の、ブービートラップのようなものもあるんだ。だから、探偵小説の中には、話の中に、「ノックスの十戒」を敢えて、犯している人もいて、それはそれで、評価を受けているんだ」
というではないか?
それを聞いた、いちかは、
「そんな小説もあるんですね。そういえば、私も以前読んだ、著名な作家の人が書いた小説で、犯人が探偵だったという話を見たことがあったわ」
というではないか。
言われてみれば、確かにそうだった。ただ、川崎としては
「そんなことは分かっている」
という意味を込めて、今回の、
「ノックスの十戒」
という意味のことを口にしたのだった。
「ところで、その予備知識というのは、どういうものなんだ?」
と、さすがにいつも、最初に話を混乱させることの多い飯塚であったが、話題としての中で、話が、
「ノックスの十戒」
の方に移行していくのが、少し厄介に感じていたのだった。
さて、そんな中で、さすがに、川崎も話を引っ張るには限界があると感じたのか、
「実はだ。この話には、前提の中に、続編があるのだけど、それというのは、合わせ鏡を見た子孫が、行方不明になっているという話をしたと思うんだが、その男が、一年後くらいに死体で発見されたんだが、それが、少し不思議な死体だったんだ」
という。
「それはどういうことなんですか?」
というのを、今度はいちかが聞いてきた。
「というのが、発見された死体なんだけど、ある程度見た目はキレイなんだけど、どうも、発見された死体を見た刑事の一人が、「何かおかしい」ということで、司法解剖に回されたというんだ」
と川崎がいう。
それを聞いた飯塚が、すかさず、
「変死体なんだから、司法解剖は当たり前では?」
と言った。
「そうそう、そうなんだけど、死んだのは、行方不明になってから、半年後だということなんだけど、それにしては。死体がきれいすぎるというんだ。どうやら、どこかに埋められていたのではないか?」
ということになると川崎は言った。
それを聞いたいちかが、今度は、
「それはおかしいわよね」
と言い出した。
「どういうことだい?」
と、またしても、飯塚が言い出したのだ。
「だって、失踪してから一年、そして死亡してから、半年というんでしょう? 表に出ていた死体が半年も発見されないなんて、普通はあるのかしら?
というのであった。
「そう、そうなんだよね」
といって、川崎が微笑むと、
「ああ、なるほど、ここで、最初の質問に戻ってくるわけか?」
と飯塚が言い出した。
「そういうことなのね」
といちかも納得している。
それを見て、満面の笑みを浮かべる川崎であったが、これというのも、さっきまでの話としての、
「ウミガメのスープ」
の話に結びついてくるのではないか?
と思うことで、二人は、完全に、そう思い込んでいるのだった。
そうなれば、いろいろ思い浮んでくることを口にしていけばいいのであって、二人は、ここから、
「考えるが先か、質問が先か?」