一触即発の謎解き
「ちょっと顔がいいと思って、その実は正反対じゃないか」
と、勝手に、
「可愛かったり、綺麗な女性は、気持ちもスッキリしていて、必要以上にその気にさせるほどの厚い対応ではなくとも、少なくとも、塩対応されるようなことはないに違いないだろう」
と考えるのは、お門違いだというものであろう。
だが、いちかは、今でも、
「お店のマスコット的存在」
それは、自他ともに認めることであり、最初は引っ込み思案だった、いちかも、
「結構、その気になってくる」
というものだった。
そんな、いちかに対して、いい加減な客も多かったりする。
それこそ、
「ただの酔っ払い」
といってもいいだろう。
女の子を口説くのに、
「酒が入っていないとできない」
というようなやつも、中にはいるだろうが、この、
スナック「カトレア」
という場所で、いちかという女の子を口説こうというのであれば、あまりにも暗色すぎて、相手にもされないというのは、当たり前のことだった。
もちろん、川崎も、飯塚も、二人とも、いちかを口説こうという意識はないようだった。
「ただ、店に来て、言いたいことを言っていればそれでいい」
それが、この店を、
「オアシスのような場所だ」
という気分にさせたのだろう。
川崎の飯塚も、二人とも、結構物知りであった。
そういう意味では、こういうお店で話す内容の引き出しは、結構持っているのだった。
政治の話から、オカルトのような話まで、その内容は多岐にわたっているといってもいいだろう。
話を聴いてもらう方とすれば、まわりから、
「すごいわ。よく知っているわね」
と言われたい一心でもあった。
口に出さなければいけないことは、口に出してくれると嬉しいが、言わなくても、相手の気持ちくらいはわかるものだ。
それこそが、本当に口に出さないだけで、
「心の友」
というように、お互いに思っているのは、滑稽な感じがしたのだった、
この日の話は、少し怖い話であった。
内容もさることながら、最初からテーマが恐ろしかった。
「いやよ、気持ち悪いわ」
と口ではそういいながらも、嬉しそうにしているいちかだった。
「いちかは怖がっているわけじゃない。むしろ、喜んでいるんだ」
と感じているのは、二人ともに同じだったのだ。
二人は、嫌でも何でもないくせに、嫌がっている素振りをしているいちかを見ていて、
「可愛らしい」
と思うのだった。
だから、そんな態度が見たくて、わざわざ、
「怖いタイトルでのお話」
という形で始めることも、往々にしてあったのだ。
この日のタイトルは、
「死体を隠すには?」
という話だった。
二人とも、別に警察の人間でも、法医学関係の人間でもない。
もっとも、二人の正体がどういう人なのかということも、この店では誰も知らなかった。
川崎の方は、この店以外にも数軒の馴染みの店を持っていたが、飯塚は、他に馴染みはなく、やっとできたのが、この、
スナック「カトレア」
だったのだ。
飯塚としても、
「馴染みの店を作りたい」
という気持ちが強かった。
実際に、馴染みになれそうな店だと思うと、数回通ってみるのだが、いつも、
「何かが違う」
ということを感じるのだった。
何が違うのかということになると、正直分からない。
いつも、何かと比較しているわけではないのに、
「何かが違う」
と思うのだ。
「馴染みになれそうでなれない」
という一種のストレスを感じるようになると、その思いは人にも伝わるもので、普通の人であれば、
「最初から違う」
と思うようなことでも、
「すぐに結論を出す」
というのは、辛いものだ。
ということで、自分なりに結論めいたことは、どんどん先延ばしのようにしてしまうのだった。
さて、今回の話の中での、
「死体の隠し場所」
ということであったが、最初に言い出したのは、川崎の方だった。
それを聞いた飯塚は、
「相変わらず、川ちゃんは、恐ろしい話として、鋭利な凶器なのか、爆弾のようなものを降らせてくるよな」
というのだった。
「最近、よく昔の探偵小説を読むようになったので、そういうトリックだったり、猟奇的殺人のようなものに興味があるというのかな?」
と川崎がいうと、
「そんなものかな?」
と、歯切れが悪そうな、ぎこちない笑いをした飯塚だった。
「ところで、つかちゃんは、本格派探偵小説というのと、変格派探偵小説というのがあるという話を聴いたことがあったかい?」
と聞くではないか、すると、
「いいや、何だいその話は?
と飯塚が訊ねると、
「トリックや謎解き、頭脳明晰の探偵が出てきて、歯切れよく事件を解決するということに特化しているものを、本格派探偵小説と呼び、それ以外の話を、変格派探偵小説と呼ぶんだけどね。君はどっちが好きだい?」
と言われた飯塚は、
「そうだなぁ、僕は、やっぱり本格派かな?」
という。
「なるほど、確かに本格派探偵小説の方が、目立つし、こっちの方が、探偵小説、ミステリーという意味では、花形と言ってもいいだろう」
ということであった。
「俺は実際に、あまりミステリーのようなものは読む方ではないんだが、しいていえば、本格派だと思う。猟奇殺人とか言われると、ホラーだったり、オカルトっぽくなるだろう? 話が怖いじゃないか」
と飯塚はいうのだ。
「そうそう、その通りなんだよ。変格派というのは、どうしても、ホラー色があるので、純粋に、探偵小説が好きだという人には、変格派というのは、嫌われるかも知れない。どうしても、目立たないということになってしまうんだよな」
と、川崎は言った。
「怖い話は、俺は苦手だもんな」
と飯塚がいうので、
「怖い話と言っても、サイコホラーのような話はそんなにないからな」
と川崎がいったが、途中で言葉が止まって、少し考えているようだった。
「いや、これは、ちょっとした理論ということで、この話を思い出したのだけど、その話を一緒にした人が、ものすごい怖がりだったんだ。そんなやつが口にできるくらいなので、そんなにびくつくことはない。だけど、この話は、怖くはないが、別の方向から見ると、怖いと感じるに違いないような気がするな」
と川崎がいった。
その話を聴いて、飯塚はわかりかねていた。
「怖い話なのか? そうでもないのかい?」
とばかりに、ちょっと苛立った様子でいうのだった。
「何も、そんなにがっつくことはない。ゆっくりとしたいつもの気分でいればいいだけなんだよ」
と諭すと、
「俺は何をそんなに苛立っているんだろう」
とばかりに、バツの悪そうな態度として、視線をどこにやっていいのかということを考えさせられているかのようだった。
「うん、ゆっくりと話をしてもらおうかな?」
と言葉尻も落ち着いていて、
「元々、この男は、冷静沈着なところがあって、そんな性格だから、俺も好きになったんじゃないのか?」
ということを思い出させたのだった。
それにしても、
「死体の隠し場所」
というのは、穏やかではないだろう。
「それは、焼いたりしない場合のことだよな?」
と、飯塚が言ったが、