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表裏の「違法性阻却」

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「ありがとうございます」
 と軽く流しているようにも思えた。
 紳士的というのは、確かに皮肉であり、なぜなら、この店の客層は、お世辞にもいい人ばかりだとは言えないほどだった。
 酒癖が悪いわけではないか、なぜか失恋などをしてこの店に来る客が多く、男女ともに、管を撒いている人は多いようだ。
「たまたま失恋した人が多いのか?」
 それとも、失恋した人が来るような雰囲気の店なのか分からない。この店に来てから、失恋はしたことがなく、自分では、
「この店に来るようになったから、失恋しなくなったのでは?」
 と勝手に思うようになったのだった。
 とは言っても、この店にはいろいろな人がくる。失恋したという人も来ることだろう。
 しかし、実際には、失恋した人の話をこの店では聴いたことがない。他にもバーという種類の店は聴いたことがあったが、この店とは、違っている。
 店の雰囲気は、似たり寄ったりなのだが、何が違うといえば、、正直客層が違う。きっと、それはマスターの性格によるものではないだろうか?
 マスターも、そんなに違うように見えないが、それはあくまでも、あのバーテンの服や髪型、そして、口元にちょっと生やしたちょび髭などが、
「いかにも、バーのマスター」
 を思わせる。
 しかも、シェイカーで、カクテルを作る姿を見てしまうと、
「どの店のマスターなのか、見分けがつかない」
 と思うのは、串木野くらいだろうか?
 だが、バーのマスターというもの、
「自分の店を持ちたい」
 というくらいの気概を持っているのだから、
「人と同じではいけない」
 という気持ちを結構持っているものではないだろうか?
 そんなことを考えていると、このお店でも、なるほど、マスターだけを見ていると、まったく他の店とは違うこともなかってくるし、店を見ていると、
「マスターの性格が出てるんだな」
 ということも分かってくるものだと感じた。
 しかし、それも、
「意識して見ていれば分かる」
 ということであり、そうも細かく見ることもないだろう。
 そもそも、癒しを求めてやってきているのだから、そんな細かいところまで見ようとは思わない。
「しかも、そんなことを感じたりすれば、失礼ではないか?」
 と感じてしまう。
「こういう店では、他人のプライバシーには、自分から関わるということをしないものだ。もちろん、相手が晒してくるのであれば、その限りではないが、もしそうであったとしても、なるべく、人のプライバシーと関わるようなことはしたくない」
 と思うのだった。
 確かに、人のプライバシーに踏み込んでしまうと、今までもそうだったが、ロクなことはないではないか。
 そのことを思い出していると、
「あまり、話をする必要のないバーによくくるようになった」
 というのも、分かり切ったことであった。
「だが、いつもいつも酒を飲むのに、一人で行くというのも、何か寂しい。それに、バーの料理はおいしいし、リーズナブルでもあるが、たまに、日本人なのだから、ビールや日本酒に焼き鳥などというのが落ち着くと思うこともある」
 ということであった。
「それも、きっと、この俺が、のんべぇだからではないだろうか?」
 基本的に、酒は日本酒が好きだった。
 熱燗でチビチビやりながら、焼き鳥を食べるというのが、自分の、
「お酒のスタイルだ」
 と思っていたくらいだった。
 確かに、ワインやカクテルもたまにはいいが、
「やはり日本人なら、ビールに日本酒」
 しかし、
「仕事の後の一杯として。ビールほどいいものはない」
 というのも事実で、しかし、串木野は、どちらかというと、炭酸系は苦手だった。
 しかも、おいしいのは、最初の一杯だけ。そう思うと、ビールを半分くらい飲んで、もったいないと思うかも知れないが、おいしく飲みたいので、ここから先は、日本酒にまわるのだ。
 日本酒であれば、少々はいけると思っていた。
 しかし、実際には、もっともっと飲める人がいるので、自分には、まったく歯が立たない。完全に、
「井の中の蛙 大海を知らず」
 ということであろう。
 そんな酒好きの串木野が、このバーに来るようになったのは、あくまでも偶然のはずだった。
 偶然というのは都合のいい言葉で、自分の中で、
「偶然だ」
 と思えば、偶然になるのだ。
 まわりが、どう思おうとも、偶然は成立し、それが最近の、
「プライバシー保護」
 というものと結びついて、発想が深くなってくることもある、
 だから、串木野という男は、
「必然という言葉は、偶然というものの中にも含まれる」
 と感じるようになり、
「偶然の中に潜んでいる必然というものを、いかに見抜くか?」
 ということを、無意識に考えていたりしているものだった。
 今回の、同僚との出会いも、
「今まで、ずっと会っていなかったというのは、本当に偶然なんだ」
 とも思えるが、逆に、
「ここまでくれば、偶然という言葉で片付けられるものではないに違いない」
 と言えるのではないだろうか?
 それを考えていると、実際に、そのことを最初から分かっていた。つまりは、
「二人とも、この店の常連ではあるが、同僚だとは思っていなかったマスターも、この偶然と必然と考える方ではないだろうか?」
 と思っていた。
 しかし、同僚に関してはどうだろう?
「彼は性格的に、偶然としてしか思っていないような気がするな」
 と思っていた。
 偶然というものと、必然を見分けるのが難しいのは、
「言わずと知れた、必然というものが、偶然の中に含まれる」
 ということが頭の中にあるからだ。
 しかし、同僚は、そんな発想はまったくないような気がする。
 それは、
「表に出ている分かりやすいことだけを、正しいと思い込む」
 ということからではない。
 串木野は、自分のことを、
「人と同じでは嫌だ」
 と思っているから、裏も表も見えているので、その感覚から、
「表裏というものが、まったく正反対というものではない」
 ということが分かっていた。
 いったん、裏にひっくり返しておいて、再度表に戻すと、戻ってきた表は、最初の表であるとは限らない。
 そのことを、
「おかしなことだ」
 という発想にならないのだ。
 それが、裏と表をどちらも見ているという発想で、人によっては、
「表裏は一体でしかない」
 という、一見、当たり前に見えることを、それ以外の何物でもないという、凝り固まったというか、物事を素直にしか見ない人もいるのだ。
 そう、小学生低学年で最初に算数で習う、
「一足す一は二」
 という、
「当たり前のこと」
 として、覚えこまされたあの公式を、素直に受け入れられるかどうかの違いだといってもいいだろう。
「きっと、同僚は簡単に受け入れた口なんだろうな」
 と感じ、実際に、串木野は、
「俺は、きっと最後の方まで、なぜなのか?」
 ということで、抗ってきたんだろう。
 それを思い出していたのだった。
 串木野は、同僚と、このバーで会ってから、意気投合した。このバーでは、基本一人でいることが多いので、話をするのも、他の店でが多かった。彼は、どうやらスナックが好きなようで、いつもその店に行っている。
作品名:表裏の「違法性阻却」 作家名:森本晃次