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交換幇助

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 ということであるがら、
「批評というものは、真面目に返さないといけない」
 ということになるのだ。
 つまりは、
「批評くらいは、真面目に聞いてもいいのではないいか?」
 と思い、営業の人から連絡が合っても、そこは、
「大人の対応」
 をしていたのだった。
 しかし、相手もさすがに、痺れを切らすようで、
「見積もりは見ていただきましたか?」
 といつものように、自分担当の編集者から言われたが、
「ええ、見ましたよ」
 というと、相手は、
「それで……」
 と、毎回のことに、嫌気を差しているということが、目に見えて分かると、その声のトーンも次第に、震えているように感じた。
「そろそろキレてくるかな?」
 と思っていると案の定で、
「これまでは、私の一存で、あなたの作品を、編集会議に図っていましたが、これも、もう最後となります」
 というではないか。
「そらきた」
 と思い、
「それは、どういうことですか?」
 と聞いてみると、
「これまでは私の一存で、あなたの作品を編集会議に掛けてやっていたんです」
 と、完全に上から目線だ。
「そもそも、僕の作品がよかったから、編集会議にかかったんじゃないのか? 確か最初はそういう話だったはずだが」
 と口には出さずに、そう感じていたると、
「編集会議って、編集者の一存なんですか?」
 と、せめて、それくらいのことは言ってみた。
「ええ、そうですよ。でも、もうこれであなたの作品は編集会議にかかることはないので、これが本を出すためのラストチャンスです」
 と言い出したのだ。
「これでは、完全に脅迫ではないか」
 と思った。
「いやいや、僕はそれでも、送り続けますよ」
 と半分苛立った中で、そういった。
 相手がそれに対してどういうことをいうか、密かに楽しみであった。
 もう相手のことを、
「詐欺師」
 としてしか見ていないからだ。
「こんなに近くに、そして電話ができるくらいのところに、明らかな詐欺師がいるなんて」
 と思うと、おかしくなってきたのだ。
 そんな会話をしていると、今度は、普通であれば、
「ありえない」
 というようなことを、相手が言い出したのだ。
「何を言い出すのか、楽しみだ」
 と思っていただけに、なるべく、怒りをあらわにしないようにと、身構えて聞いたのだった。
「本当にあなたの作品は、もう誰も本にしようとは言い出しませんよ」
 というので、こちらは、あくまでも、
「それでもいいから送り続けます」
 という。
 相手は、こちらが、
「詐欺だ」
 ということを見破っているのかどうか分からないが、どんどんキレていっているのが分かってくる。
「どうして、そんなに送り続けるんですか?」
 というので、こちらが、
「決まっているじゃないですか。企画出版をしたいからですよ」
 というと、
「企画出版なんか、ありえないことを考えるよりも、共同出版でもいいから本を出して、少しでも、誰かに見られた方が、作家になるなら、近道だと思いますが」
 とまだ、一応の理性は持っているような言い方をしている。
「それでも、企画出版を目指します。俺は、別にプロの作家になろうなんて思ってもいませんからね」
 と、半分は本音である言葉を吐いた。
 そうすると、相手は、今度はさすがに切れたのだろう。
「企画出版なんて、百パーセントあり得ません」
 と言ってはならないことをいうのだ。
 こいつが言った言葉は、
「3つの出版方法があって、それを、出版社が判断する」
 といっているのに、その一つを完全に否定する言葉なので、矛盾しているといえる。
「それはおかしいじゃないか」
 とこちらも少しトーンを挙げていうと、相手もその誘いに乗ってきて、完全に頭に来ているようだ。
 そんな状態で話をしていると、相手が何を言いたいのかということが、すべて分かるというものだ。
 相手の頭から、湯気が出てくるのが分かるくらい、相手は電話口で、鼻息を荒くしている。
「とにかく、企画出版というのは、あなたたちのような、ずぶの素人では無理なんだよ。もしできるとすれば、名前の売れている人ということになる。それは、芸能人か、犯罪者しかいないんだ」
 といって、完全に、いきり立っているのだった。
 すでに上から目線でもない。相手がこちらのいうことを聞いてくれないから、意地になってすねているだけの、
「大人の姿をした、大きな子供」
 というところであった。
 明らかに、この言葉は言ってはいけないことだ。
 自分たちが、無能だから、詐欺行為をしてでも、金をむしり取るということだというのを、自分で宣言しているのと同じである。
 さすがにこれを聞いたおじさんは、
「ここは、利用する価値もない」
 ということで、その場で電話を一方的に切り、
「他の出版社を利用することにしよう」
 と考えるのだ。
 似たような出版社は、大小合わせて、すでに、十社くらいはあったという。そのうち、大きいと思えるところが三社ほどあり、その中でも、一番古くからあった、
「最大手」
 と言われるところがそんなのだから、
「この業界も知れてるな」
 と感じたのだった。
 それはおじさんだけでなく、話を聴いている高杉も同じだった。
「おじさんも、よく我慢しましたね?」
 と聞くと、
「最初から詐欺だと決めつけて聞いていたからね。もしそうでなければ、ショックを受けていたんじゃないかな?」
 とおじさんは、怒りに感じるよりも、
「ショックを受ける」
 というほうだったようだ。
「おじさんは、結局、小説を書くのをやめたんですか?」
 と聞くと、
「いや、やめたりはしないさ。却って、このまま書き続けて行こうと思ったくらいさ。あんなやつらにバカにされたまま終わりたくなかったからね」
 という。
「ショックを受けたというわりには、おじさんは、それなりに、反骨精神もあって、結構頑張っていこう」
 と考えているようだった。
 それを聞いて安心した。
「じゃあ、その後、あんな裁判沙汰になって、大手は皆潰れていったんですね?」
 というので、
「ああ、そうだよ。あの出版社も、結構最後まであったけど、さすがに最後は、巨額の負債を抱えて、倒産したということだよ。いい気味だね」
 といって。おじさんは笑った。
 その笑顔は、明らかに余裕のある笑顔であり、
「おじさんは、今はプロになりたいと思っているんですか?」
 と聞くと、
「いいや。確かにあの出版社に言われた時は意地になって、プロになりたいとは思っていないと言ったけど、あれは強がりさ。それから少しの間は、まだプロになりたいと思ったものさ」
 というではないか。
「年齢的なもの」
 と、おじさんがいうには、
「プロになると、自分が書きたいものが書けない」
 というところからだということであった。
 実際に、プロになった人の話など、そういう本があり、読んでみると、実際に、
「書きたいものと、出版社の意向が違う」
 ということが多かったりした。
 このあたりはドラマなどでも取り扱われることであるが、それ以外にも、似たような話があったりする。
 それというのが、
「新人賞を取ってからが大変だ」
 ということである。
作品名:交換幇助 作家名:森本晃次