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交換幇助

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 そして、実際に刑事はまた話を聴きにきた。それは、
「事故に遭った友達」
 のことについて、証言者ということではなく、今度は、
「殺人事件の参考人の一人」
 としてであろう。
 もちろん、重要参考人ということではなく、ただの友達ということであるので、
「警察へのご足労」
 というものでもなく、普通に聞いていっただけだった。
 ただ、警察が一つ気にしていたのは、
「首を絞められて殺されていたのですが、最初は、ピアノ線のようなもので殺されたのでしょうが、なぜか、その後から手ぬぐいのようなもので殺されているんです」
 というではないか。
「それは妙ですね。逆であれば分かるんですが」
 というと、
「そうなんですよね。このままだと、犯人複数説が出てくるんですよ。ただ、それは、お互いが協力してというよりも、最初の犯行を幇助しているというのか、それとも、前の犯罪を知らずに、その人はその人で単独に殺したいと思ったのかですね?」
 ということであった。
「えも、そうだとすれば、彼女を殺したいと思っている人が複数いるということになるのか、それとも、彼女は関係なく、犯人を助けたい一心で、最初の犯行をごまかせるとでも思ったのか、ごまかせないまでも、犯行をカモフラージュでもしようと思ったのかではないでしょうか?」
 と、高杉がいうと、
「それはそうなんだけどね。でも、警察の科学捜査は、かなり進んでいるので、どちらが致命傷になったのか、あるいは、どちらが先にできた後なのかということも分かるわけで、しかも、死亡推定時刻もハッキリしているので、アリバイもある程度確かめられるというもの、犯人は、そんな簡単なことに気付かなかったんだろうか?」
 と刑事が言って、
「そうなんでしょうが、カモフラージュだとすると、彼がそこで何かを行うことで、犯人にとって、都合のいいことがあるとすれば、逆に正確な警察の科学捜査を利用しようと考える人もいるでしょう」
 と高杉はいった。
「でも、もしそれがその通りだとすると、幇助者とでもいうか、タオルで首を絞めた人は、冷静だったということにある。まるで、犯人が犯行を犯すのをわかっていて、そのつもりで対応方法もある程度考えていたのかも知れないですね。もっとも、殺人が分かっていたとしても、犯人が、どんな方法で殺害するかなど、前もって分かっていないでしょうけどね」
 と刑事がいうと、
「それは関係ないのかも、犯人がどんな手で殺そうとも、手ぬぐいで幇助しようと考えていたのかもですよ?」
 というと、
「まさか、犯人が殺人を犯すのは今回が初めてではなく、前にも同じことがあって、その時もピアノ線のようなものだったのかも知れないですね」
 と刑事が言った。
 その話はまったくのでたらめでもなかった。
 警察のその後の捜査で、つかさが、以前、一緒に旅行した相手がいたのだが、その女性が、実は、死んでいるというのだ。
「その女性が死んだというのは?」
 と聞くと、
「ええ、自殺だったというのです」
 という。
 それを聞いて、高杉は、何となく嫌な予感があった。
「その女性というのは?」
 と聞くと、
「松岡いちかという人なんですが、二人は親友だったようですね?」
 と聞いて、思わず、
「親友なんですか? そんなバカな」
 と声に出して、言いそうになるのをグッと堪えた。
 高杉は、松岡という人物を知っている。そして、その妹である、いちかも知っている。つまり、いちかが自殺をしたということは知っていたことになる。二人とは、結構な仲で、兄の松岡とは親友のような間柄だった。だが、
「まさかいちかが自殺をするなど信じられない」
 と兄の松岡も言っていたし、高杉も信じられないと思っていた。
 だから、二人は自殺の原因を分からないまま、悶々とした気持ちになっていたのだが、兄としては、何も知らないということが許せないと思ったのだろう。密かに調べているということを聞いたことがあった。
 しかし、それを松岡に確認することはできなかった。彼は、まるで人が変わったみたいになっていたのだ。
 じゃあ、昨日のは、松岡だったんだろうか?
 と、今朝、実は一度、いちかを探しに早朝表に出たのだが、慌てるように一人の男が、慌てたように車に向かっていって、急いで車を発進させて逃げているところだった。
 後姿が似ていたと思ったが、その時は何も発見される前だったので、よくわからなかったのだ。
 刑事がふと口を滑らせたのは、
「その松岡いちかという女性が自殺した原因というのが、どうも、暴行されたことが原因らしいんですよ」
 ということであった。
 それを聞いて、高杉は、震えだした。ただ、それは、高杉が初めて聞いたことで、驚愕の事実に怒りによって震えが止まらないのではなく、警察がそこまで知っているということにビックリしたのだった。
「なるほど、じゃあ、松岡が、それ以上のことを知っていたとしても、不思議ではない。じゃあ、あの行動は?」
 と考える。
 実は、高杉も、
「それくらいのことは知っているさ。俺はいちかを、それだけ好きだったんだ」
 ということであった。
 その時の高杉の顔は、狂気の沙汰であった。
 実際に、高杉は、一人の男を殺している。その時、いちかを暴行した男だった。その時にもバレないようにということで、松岡が、高杉の犯行をカモフラージュしてくれた。そして、高杉は、松岡の犯行を、今度はカモフラージュしたのだ。
 まるで、
「幇助の交換殺人」
 というべきか?
 しかし、今回の事件で一番許せないのは、つかさだった。
 実は最初に暴行を受けていたのは、つかさで、それを助けようとしたのが、いちかだったのだ。男二人に襲い掛かられて、いちかは、無残にも暴行され、そのまま、つかさは逃げ出して、助けてもくれない。
 つかさとしても、ショックではあっただろうが、保身のために、助けを呼ぶことをしあかったのだ。だから、高杉としては、
「つかさが、一番許せない」
 と思ったのだ。
 高杉は、つかさに近づき、部に紛れ込む。そして、偶然を装って、一緒に部活で幹事となった。
 幹事になってから、高杉は、つかさと男女の関係になった。それは、別に愛があったわけではない、復讐段階の第一歩だった。
 しかも、つかさは何と抗うどころか、高杉を受け入れた、受け入れてしまうと、高杉の言いなりだった。
 しかし、高杉としては、つかさが、自分を受け入れたことが信じられない。
「暴行を受けたことがまるでウソのようだ」
 と思うと、まさかと感じたが、
「つかさは、いちかをわざと暴行させたのではないか?」
 と思った。
 いちかの何かに嫉妬して、いちかを葬ろうとしたのかも知れない。
 女性の嫉妬というのは、どういうことから起こるのか分からない。ただ、そうなると、つかさという女が一番の悪だということになり、この、
「制裁」
 というのは、これまでの男に対しての行為をさらに正当化させる自分にとっての、犯罪の集大成だと思ったのだ。
 だから、今回のことは。松岡には教えていない。さすがに彼を巻き込むことはいけないと思ったのだ。
作品名:交換幇助 作家名:森本晃次