交換幇助
付き合ったということがどういうことなのかということが分からない。自分では付き合っていたと思っていても、相手がどう思っていたのか分からない。
正直、肉体関係で結ばれた女性はいなかった。だからといって、童貞ではないのだが、その理由は、お察しください。
それでも、よかった。何も、好きになあった相手と身体を重ねることだけがmセックスではないと思っていたからだ。
それも、
「彼女ができない言い訳なんじゃないか」
とも思ったが、本当にそうなのか、自分でもよくわかっていなかった。
元々、風俗というものを毛嫌いしているわけではなく、毛嫌いしているような人を毛嫌いしていた。
「そっか、俺って、他の人と同じでは嫌だという性格だったんだ」
と思うと、つかさに対して、
「俺と同じところがあるような気がする」
と思っていたが、それが、彼女との共通点で、共通点があることで、結びついたと思っていたことを、どこか自分の中で打ち消そうと思っていたのは、
「恋愛感情だ」
と感じることに、恥ずかしさのようなものがあったからではないだろうか?
そんなことを考えていたとすれば、敢えて、つかさのことを考えないようにしようと思ったのは、それだけ、つかさを意識しすぎていたからなのかも知れない。
と思っていたのだ。
そんなことを考えながら、気が付けば、ペンションの人と一緒に、皆で打ち上げられたといっている場所までやってきた。
先に、発見者は、
「警察や、救急車が来ていたらいけないから」
ということで、戻っていたという意識はあったのだが、さすがに入り江に座り込んで倒れている女性を見守っている様子は痛々しく思えたのだ。
部員の一人が覗き込んで、
「高橋さんです」
と、悲痛な声を挙げた。
「どうして、こんなことに?」
といって、つかさを覗き込んでいた部員が、彼女から目を逸らしたと思うと、一様にその視線が、今度は高杉に向けられる。
「一緒に幹事をしていたのだから、この状況で、一番、この状況に追い込んだ相手がいるとすれば、怪しいのは、この俺なんだ」
ということを、いまさらながらに思い込まされた。
しかし、あくまでも、
「自分たちは、ただの幹事というだけの間柄なんだ」
と言いたかったが、この状況でそれを口にするのは、時期尚早だ。
少なくとも、警察や救急車が到着し、事情が進展しなければ、先に進むことはないということになるだろう。
それを思うと、高杉も考え込んでしまいそうになるが、
「考えたって、仕方が合い」
とも思える。
実際に、考えるだけ無駄だといっておいいだろう。
救急車がやってくると、今まで、静まり返っていた湖畔が、急に慌ただしくなった。
それもそのはず、それだけ一触即発に近かった雰囲気に。救急車のサイレンの音が、
「これ以上ない」
というくらいの音を立てていたのだ。
そもそも、聴きたくない音という意味では、ナンバーワンといってもいいこの音が、静寂を破って乾いた空気を突き進むように響くのだから、実際には、たまったものではない。
とりあえず、救急車に乗せられ、病院に向かった。
他の部員は数人が、ペンションのマイクロバスにて、ペンションの人の運転で、病院に向かった。
幹事として、事情聴取を受けることになるであろう高杉は、第一発見者と一緒にその場に残ることになった。
「どうして、こんなことになったのだろう? 彼女が好きだといっていた相手に会ったから、こんなことになったのだろうか? だとすると、これは事故ではなく、何かが起こったと見るのが、正しいのかも知れない」
と、勝手な想像をしていたが、問題はそこではなかった。
これから警察から質問されることを考えてみたが、
「俺の立場って、微妙だよな」
と高橋は考えた。
同じ幹事というだけであれば、意識をしないでもいいのだが、彼女が言っていた、
「好きな相手に告白」
ということまでいう必要があるかということである。
これが、もし彼女が死ぬことになって、それが殺人事件ということであれば、黙っておくわけにはいかない。
しかも、黙っておくということは、
「彼女に対しての尊厳の意味がある」
ということであったが、死んでしまえば、しかも、それが殺人事件ということであれば、黙っておくわけにもいかない。
下手をすると、黙っていたことで、何かの罪を形成することはないと思うが、警察の疑いの目は、こちらにも来るかも知れないということだ。
「黙っているということは、それだけ、相手の男性に嫉妬心を抱いているということで、警察から疑われるというのも、無理もないことではないだろうか?」
ということであった。
警察というところは、
「事件になるまでは何もしてくれないくせに、こと事件ということになると、人の立場や気持ちというよりも、これは殺人事件だからということを盾にして、その国家権力というようなものを、とたんにひけらかしてくるのだった」
そんなことを考えていると、警察がやってきた。
大団円
状況を、愛一発見者が話している。さっきまでは、慌ただしかったこともあって、ハッキリと聞いていなかった状況を、男は、思い出しながら、興奮はしているが、淡々と話しているようだった。
「ご通報、ありがとうございます。また何かありましたら、お伺いいたしますので、今日はありがとうございました」
といって、奥で、もう一人の刑事が、どうやら、男の連絡先を聞いているようだった。
高橋は、今尋問していた刑事に声を掛けられた。
「そこのペンションに、合宿にきていた、大学の文芸サークルの方ですね?」
と言われたので、軽く会釈をしながら、上目遣いになっていたことを、警察は気づいたであろうか。
「はい、そうです。一緒に幹事をしていた高杉と言います」
というと、
「そこで倒れていた彼女は?」
と聞かれ、
「彼女は、私と一緒に今回の幹事をしてくれていた、高橋つかささんという方です」
というと、
「なるほど、こちらに来られたのはいつだったんですか?」
と聞くので、
「昨日の夕方には入りました。ここまでは、チャーターしたバスで来たんですが、そのバスには、また帰りの時に来てもらうということになっています」
と高杉は答えた。
そんな話をしていると、刑事の元に、連絡が入っていた。
何やら、深刻な表情に変わったかと思うと、
「高杉さん、今病院に行っている他の刑事から連絡があって、実は彼女ですが、病院でたった今亡くなったそうです。ご愁傷様です。それでですね。その彼女なんですが、死因に不審な点があるということで、解剖に回されるということです。今回は、これくらいにしておきますが、またお伺いすることになろうかと思いますので、その時はまたよろしくお願いします」
ということであった。
刑事は、それまでに、自分たちのこと、どうしてここに来たのか? そして昨日の宴会のことと、高杉が話のできる範囲では、話をしたのだった。あから、もし、警察が来るとすれば、それは、今度は、
「殺人事件として捜査をする時だ」
ということになるのだろう。