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バタフライの三すくみ

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 というのは、まだまだその程度なのだ。
 ただ、独立リーグを、
「地元球団」
 ということで贔屓にしていたファンは、
「霧島コーチ」
 というと、元プロの選手から、二軍コーチをしていた、あの霧島さんだよな」
 ということで、認知をしているだろう。
 チームの編成が決定した時、あるいは、シーズン前の必勝祈願などをおこなっていた、
「新チームのお披露目」
 あるいは、
「シーズン前の壮行会」
 などで、
「まるで内閣発足時の写真撮影」
 とでも言わんばかりの、必勝祈願をこめた写真は、それなりに力強さがあり、その中でも、
「元プロ」
 ということで、他のコーチ、監督に比べても、そこに写ったオーラというものは、ハンパではなかったのだろう。
 そんな霧島という男を引っ張ることができたのは、宮崎にとって、正解だったといえるに違いない。

                 大団円

 霧島が、宮崎の、
「ベンチャー企業」
 と言ってもいいほどの、こじんまりとした事務所だということは分かっていたが、実際に事務所にいると、一抹の寂しさがこみあげてくるのが分かる気がした。
 事務所の中には、
「10人もいないが、営業が出払うと、後は4人だけが事務所に残っていることになる」
 というのは、
「社長の宮崎」
「新入社員で、参謀候補の霧島」
 そして、あとは、庶務や経理と言った。事務職全体を取り仕切る女性が一人だけだった。
「最初は、仕事を覚えるという意味で、事務の仕事をおこなっている、彼女にいろいろ教えてもらうといい」
 ということで。いわゆる、他の会社の
「試用期間」
 というものを、過ごしていたのだ。
 霧島は、結構、物覚えがよかった。
 これは、何といっても、プロ野球界で身に着いた、才能であり、自分にとって、気付いていないといってもいいくらいのものであった。
 事務員も舌を巻くだけの、記憶と理解力は、
「さすがだわ」
 と思っていたのだった。
 最初、事務員としては、
「今新しい人を入れるというのは、ちょっと」
 として、事務員なら、当たり前の発想だったのだが、その考えが違っていることを思わせ、
「私の見込み違いだったのか?」
 と思ったが、それも、
「嬉しい悲鳴」
 といえばよかったようで、
「少なくとも、私をすぐに追い抜くんでしょうね」
 ということを感じさせられた。 
 しかし、霧島というのは、あくまで
「経営陣としての、社長の参謀」
 ということで、今は、その研修中というだけのことだった。
 仕事をすれば、
「これ以上のすばらしさ」
 というものが芽生えてくると思った彼女は、次第に、霧島に惹かれていくのを感じた。
 彼女は、実に地味で、それが
「いかにもという事務員だっただけに、今まで人を好きになったことがなく、なったのかも知れないが、気付かなかったのか、わざと気づかないふりをしていたのか?」
 と、そのあたりが自分でもよくわかっていない。
 彼女は、今年で35歳、他の会社でも、とっくに
「お局様」
 と言われ、
「こんなものなのかも知れないな」
 ということで、結婚以外でも、ほとんど諦めの境地になっていた。
 そう、彼女の今の年齢が、誤差はあるかも知れないが、
「ちょうど、俺が、現役引退しようとしていた、そんな時期だった」
 のである。
 そんな彼女の名前は。
「神山はづき」
 と言った。
 はづきは、実は、霧島がいたチームのファンであり、ひそかに、霧島選手のことも注目していた。
 それは、社長の宮崎に、
「プロ野球も面白いぞ」
 と言われたからであり、教えた宮崎も、
「彼女がここまでプロ野球に飲めりこむとは」
 ということだったのだ。
 はづきは、
「熱しやすく冷めやすいタイプだったといえる」
 のだろう。
 そんな会社に、
「元プロ野球選手」
 という、霧島が入ってくるのだから、はづきの興奮も冷めやらない。
 はづきが、今までに、
「男性と付き合ったということはあるだろうが、結婚しようとまで考えたことはないだろう」
 ということは、ウスウス宮崎にも気が付いた。
 さらに、霧島が独身で、結婚を考えたことがないというのも分かっている。何しろ、それどことではない人生だったからだ。
「話くらいはあっただろうが、霧島の性格からすれば、きっと断ってきたに違いない」
 ということくらい、宮崎にも分かるというものだ。
 これは、はづきに対しての思いよりも、霧島に対しての、思いの方が、強いというのは、ハッキリと分かるというものだった。
 霧島と、はづきをくっつけようと感じるのは、宮崎が、おせっかいなとことがあるのと、
「二人が一緒になってくれれば、仕事でもいいパートナーになってくれる」
 という思いもあるのだろうが、一歩間違えると、
「少しプライベートでギクシャクすると、それが直接仕事にも影響を与える」
 ともいえなくもないだろう。
 それを思うと、宮崎も、一抹の不安を抱えていたが、それ以上に、二人への信頼も厚いのだろう。
 実際に、これは後で分かったことだが、霧島という男は、会社ではカチットしているが、家庭では結構自由なようだ。それでも、家事を手伝ったりはしているので、嫁さんの方としても、そこで文句が出るわけもない。
 それが二人がうまく行っている秘訣だった。お察しの通り、実際に、二人は、その後、2年後に結婚した。宮崎がうまく引き合わせる格好で、仲良くなってから、2年での結婚は、宮崎にとっても、本人である二人にとっても、
「願ったり叶ったり」
 という交際期間だっただろう。
「短すぎるのではないか?」
 という人もいるかも知れないが、実際に、そんなこともない。
 二人とも、初婚としては、年を取りすぎている。お互いに、
「子供は無理だろうな」
 と言っていた。
 何と言っても、奥さんが、高齢出産になるのは、必至だからである。
 そもそも、霧島にも、はづきにも、
「どうしても、子供がほしい」
 ということがあるわけではない。
 そんなことを考えなくてもいいほど、年相応に、落ち着いている二人だといってもいいだろう。
 結婚してから、これも、2年間は、新婚気分だった。
 交際期間が2年と短かったことで、結婚してから、2年は、お互いに、甘い気分を味わっていたかったのだ。
 二人とも、今までが気を張って生きてきたこともあって、
「人に気を許す」
 ということもなかっただろう。
 それが功を奏して、お互いに、頼れる人がそばにいてくれるということが、嬉しかったに違いない。
 ただ、新婚気分の2年が過ぎて少しすると、お互いにぎこちなさが感じられるようになった。
 最初は宮崎も気付かなかった。
 というより、当の本人たちも分かっていないのだから、当たり前のことである。
 そして、宮崎がいよいよ怪しいと思って、
「君たち、どうしたんだい?」
 と霧島に聞いてみる。
 霧島は、仕事においては、申し分のない仕事をしてくれた。
「きっとこの仕事に才能があるのだろう」
 と思うと、
「さすがに本人には言えないが、野球界にいかずに、最初からこっちに来ていれば、俺とライバルになっていたかも知れないくらいだ」
 と感じた、
作品名:バタフライの三すくみ 作家名:森本晃次