バタフライの三すくみ
そういう意味では、
「やつを参謀として引っ張ったのは、俺にとっては、サヨナラホームランに値するくらいだ」
と思い、そのたとえが無意識であったが、野球だったことに、笑いがこみあげてきたのだ。
だが、不思議なこととして、二人の結婚生活は、いきなりの破局を迎えた。
しかし、それは確かに、
「お互いがぎこちなくなった」
ということもさることながら、それ以上に、
「お互いがお互いを分かっている」
ということにも、繋がっているのであった。
一つには、
「彼が、野球を辞めてから、仕事を始めた時は、何事も真剣にことに当たっていたという感じだったんだけど、それ以上に、今まわりを見ていると、急に自由になったような気がするんです」
と、はづきが、宮崎に話した。
宮崎とすれば、
「彼には、そういうところがあるというのは、俺には分かっていたような気がする。それだけ、真面目に考えすぎるんだろうな。しかも、それと融通が利かないところがあるので、余計に、考えていることが態度に出やすい。しかも、分かりやすいということで、パターンが決まっているというべきか、それだけに、まわりに対しての影響力が、ハンパではないと思うんだよ」
と、宮崎がいうと、
「ああ、そうなのよ。私は、これをバタフライ効果だと思っているの」
と、はづきがいうではないか。
「バタフライ効果?」
と宮崎が効きなおすと、
「ええ、バタフライ・エフェクトともいうんですけどね。ちょっとした微々たる変化が、遠くの場所で、大きな変化となって現れるという、何か気象に関してのことを言っているらしいの」
と、はづきは言った・。
「そっか、それはあるかも知れないな」
と、宮崎がいうと、
「ええ、そして、その元々の原因が、野球にあるんじゃないかって思ったんだけど、どうなんでしょうね?」
というと、
「それはあると僕も思っている。彼は、実際には、もっと現役を続けたかったと思うんだよね。コーチを経験して、それなりの満足感は得られたようなんだけど、本当は、あくまでも現役だと思っていたので、心の底では、現役を続けている選手が羨ましかったのかも知れない。中には。自分よりもまだまだ若い選手だっていたんだからね」
というと、
「ええ? そうなんですか?」
と、この話にはさすがの、はづきの方も、寝耳に水だったようで、
「それは、本人から聞いた話なんですか?」
と聞き返すと、
「ああ、そうだよ。彼は、結構俺には本音を言ってくれるのさ。だから、俺も本心から答えるんだけどね」
というと、
「やっぱりそうだったんだ?」
と言われ、
「ええ、そういう素振りでもあったのか?」
と聞かれた、はづきは、
「今のバタフライ効果ということを思い出して、宮崎さんと話をしていると、どこか、辻褄の合わなかったことが合った気がしたんですよ。まるで、マイナスのマイナスがプラスになる効果のようにですね」
というではないか。
「それは、俺も思っていたんだよ」
と、宮崎がいうと、ここで、三人のことを考えている、宮崎とはづきは、ここにはいないが、霧島も同じことを考えていて、お互いに、
「三すくみ」
というものを思い返し、そこに、
「バタフライ効果」
が絡んだことで、離婚に対して、三人ともが納得しているのは、この
「三すくみ」
という関係が影響していると感じたのだった。
( 完 )
92
作品名:バタフライの三すくみ 作家名:森本晃次