バタフライの三すくみ
さすがに、スカウトも、
「戦力外通告を受けそうな選手」
というのを、計算していないので、注意して見ていない。
トレードで撮れそうな選手という目で見るには、さすがに戦力外の選手は、厳しいだろう。
だから、ある意味。
「最後のチャンス」
ということで、それぞれの選手は、トライアウトに望むのだ。
「これでダメなら、選手を引退する」
という覚悟であろう。
もちろん、
「一年浪人して、来年再度トライアウトを受ける」
という人もいるだろうが、なかなか厳しいのも現実だ。
そういう意味で、他の道に舵を取る人も多いだろう。
「早ければ早い方がいい」
という意味でもである。
ただ、野球選手で、プロに入るような人の多くは、ほとんど、他の世界を知らない。
学生時代から、野球だけをやっていて、
例えば、前述の、
「スポーツ推薦」
などというと、
とりあえず、
「授業に出ていればいい」
というくらいで、後は野球で結果を出せばいい。
だからこそ、
「授業料無料」
という特待生扱いなのだ。
逆にいえば、
「選手としてできなくなる。それはケガにおいても同じだが、野球選手で致命的な状態になると、学校は、血も涙もない」
特退は解かれてしまい、成績が悪ければ、容赦ない状態である。
学校を退学せざるをえなくなり、それでも、誰も助けてくれない。
昔から、
「お決まりの転落人生」
ということだったのだ。
そういう意味で、
「スポーツ推薦」
というのは、
「天国と地獄が、背中合わせ」
ということになり、
「本当に紙一重」
ということになるのだ。
それが、学生スポーツの正体。それを分かっているのかどうなのか。学校側は、
「生徒はすべて分かって入ってきているんだから、こうなったのは、自業自得だ」
としか言わないだろう。
煽てるだけ煽てておいて、使えなくなると、まるでゴミくずのように、ポイ捨てである。
それを思うと、
「人間なんて、なんてひどい動物なのか?」
ということである。
「人間ほど、恐ろしい動物はいない。本能で動いているだけではないからだ」
といえるだろう。
それこそが、人間臭いと言われるところなのだろう。
だから、下手をすれば、プロ野球にまで入って辞めていく人よりも、学生時代に、
「スポーツ推薦からの転落」
という方が、ひどいのかも知れない。
学生時代にそんな目に遭えば、
「そりゃあ、人間不信になるというものだ」
と言えるだろう。
何といっても、学生時代という、
「人間形成の時期」
にである、
「大人たちの勝手な都合で翻弄される」
というわけなので、
「これ以上の残酷なこともない」
と言えるだろう。
中には、自殺を図った生徒もいるかも知れない。
人生を踏み外すことは、必至だとしても、
「命を断つ」
ということを選択する場合もある。
「何もしななくても」
という輩もいるだろうが、そんなやつは、
「人の痛みをまったく分からない」
いや、
「分からないのは、分かろうとする努力すらする気がないやつ」
であり、そんな連中は、
「分かろうとしないから、分からないんだ」
という最低限の理屈すら分かっていないという連中なのだろう。
そんな大人が、
「子供をダメにする」
そんなことすら分からない連中が、教育の現場にいるというだけで、胸糞悪いといってもいいだろう。
もっとも、
「皆が皆、そんなわけではない」
一部のおかしな連中がいるせいで、
「俺たちまで白い目で見られるのはたまったものではない」
と思う先生もいるだろう。
しかし、結局、そんなやつらも、何か、そんな状況に一石を投じようとはしないのだから、ある意味、
「同罪」
である。
いや、それこそ、
「目の前で起こっている苛めを見て見ぬふりをしている」
というバカな連中と同じで、下手をすると、
「生徒苛めている生徒よりも、悪質だ」
といえるだろう。
黙って見ている先生や大人たちが、結局、事態を悪化させるのであって、生徒にとっては、それら傍観者による、
「二次災害」
によって、死に至らしめられるといってもいいだろう。
そう、まさしく、
「アナフィラキシーショック」
といってもいいだろう。
苛めというのは、
「苛めっ子と、いじめられっ子」
だけという単純な構図ではない。
そこに、
「関係しているのに、何もしないという一種の、傍観者という、連中が存在しているのだ」
つまり、その連中は、数からいえば、圧倒的に多いのだ。
それらの連中が、引き起こすもの。
それが、
「二次災害」
であり、
「アナフィラキシーショック」
なのだ。
アナフィラキシーショックというのは、一種のアレルギー中毒のことである。
分かりやすい例とすると、
「スズメバチに二度刺されると死ぬ」
ということである。
「スズメバチは、人間を殺傷する恐ろしいハチだ」
と言われていることから、
「ハチの毒が、人間を殺傷する」
と思われているが、そうではない。
というのも、
「一度刺されただけでは死なないからだ」
ということである。
何も、
「最初が、致死量の半分だから」
というわけではない。
ハチの毒などは、時間が経てば、他の毒と同じで、どんどん消えていくものだから、ある程度の時間が経てば、人間の身体からは血の毒は消えているはずだ。
それなのに、
「死ぬ」
と確実に言えるのは、死に至らしめるものは、
「ハチの毒ではない」
ということになるのだろう。
とすれば、
「何が、人間を殺傷するというのか?」
ということであるが、
それが、アナフィラキシーショック」
と呼ばれる、毒ではない、
「アレルギーによるショック状態だ」
と言えるのだ。
普通、人間の身体の中に、毒素を含んだものが入り込むと、毒が、身体に回らないような、自浄効果と言われる、
「抗体」
と呼ばれるものができあがる。
つまり、次にその毒素が体内に入ると、
「その抗体が反応し、毒素と戦ってくれる」
というわけだ。
つまり、2度目に刺されると、抗体の働きで、ハチの毒と戦うことになるのだが、その時、抗体が、ショック状態を引き起こし、それが、人間の身体を死に至らしめるということになる
つまり、抗体ができてしまったことで、却って逆効果になるというわけである。
そのショック状態は、アレルギー反応としてのショックなので、
「アレルギーによるショック状態」
といってもいいだろう。
つまり、
「ハチの毒」
によって、人間は死ぬわけではない。
このショック状態によって死んでしまうのである。
「それなら、抗体をつくらなければいい」
ということになるのだろうが、そうなると、他の軽いと思われている毒を人間は、何とか無意識のうちに取り除いているが、中には、本当に死んでしまうものもあるかも知れない。
と考えると、
「アナフィラキシーショックが起こることは仕方のないことだ」
と言えるのではないだろうか?
そうなると、一度ハチにさされた人は、二度目に刺されないように、気を付けるしかないということになるのだろう。
作品名:バタフライの三すくみ 作家名:森本晃次