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マトリョシカの犯罪

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 ということであった。
 すると、また、隣の扉が開いた音がした。
 そこには、これも、真新しいスーツに身を包んだ一人の若者が立っていた。
 まぁ、若者といっても、森山も十分に若いのだが、このフレッシュさは、
「新入社員だろう」
 と思っていると、その考えに間違いはないようだった。
「松下と言います。本日付けで、システム部配属を言われましたので、参りました。よろしくお願いします」
 といって、頭を下げると、宮本部長から。
「どうぞ、座ってください」
 と言われ、座ったが、その時、こちらをチラッと見て、どうにも、釈然としない表情をしていたのだ。
「きっと、新入社員だとすると、その中で自分の顔を見たことがないのに」
 とでも、思ったのだろう。
 新入社員であれば、それも当然のこと。ただ、隣にいる森山が、
「どこの誰なのか分からない」
 ということであろう。
 それを下手に勘ぐって、
「この青年は、俺に挑発的だ」
 と最初から、挑戦的に思ってしまうと、そこから先、話ができなくなる恐れがある。
 もし相手は新入社員だったとすれば、こちらが、
「大人の余裕」
 というものを、醸し出して、優位に立てるくらいのことを考えればいいだろう。
 ただ、こちらも、入社が早いといっても、この部署では同じ、
「新人」
 である。
 しかも、相手は、
「最初からこの部署だ」
 ということであれば、そういう学校を出た、専門家なのかも知れない。
 それを思うと、
「あっちが優位に立つことも十分にありえる」
 と感じたのだ。
 部長は、軽く話をしたうえで、
「今日は、二人に今から、コンピュータ基礎の勉強会に行ってもらいたい」
 というではないか。
 松下を見ると
「はい」
 といって立ち上がった。
「この松下という男。素直ないい青年なのかも知れないな」
 と思い、早速、本社から、歩いて10分くらいのビルにある講習会に行くことになったのだ。
 場所に関しては、森山の方が分かっていた。
「じゃあ、俺が連れていきますね」
 ということで、森山が先導する形で、セミナーへと向かった。
 正直、何を言っているのか、サッパリ分からない。
「松下君は分かったかい?」
 と聞いてみると、
「あのくらいのことは、学校で習いましたからね」
 ということであった。
「学校というと?」
 と聞くと、
「僕は、コンピュータの専門学校を出ているんです」
 というではないか。
 当時はまだ、専門学校卒というと、どうしても、四年生の大学生に比べると、
「レベルが落ちる」
 と言われていた時代だった。
 専門学校というと、まだまだ卒業生も少なく、
「医療関係」
「服飾関係」
 さらに、彼のような、
「コンピュータ関係」
 であろうか、
 いままだったら、保育士だったり、介護だったりというところ、さらには、国際問題や語学の学校も多いのではないだろうか?
 時代が今から、二十数年前のことなので、時代もかなり違っているといってもいいだろう。
 その日は、コンピュータ基礎を習ったが、まったく分からない。
「こんなものを、今は学校で教えるのか? しかも、これが、基本中の基本だなんて」
 と思った。
 実際に、松下にきいてみると、
「ええ、あれくらいだったら、高校で教える時代ですよ」
 というではないか。
 確かに、自分は文系から、法学部だったので、理数系であればあったようなものがなかったのであった。
 考えてみれば、その頃は、エクセル、ワードというものも、そこまで普及していなかったので、
「ソフトの使い方」
 というのも、さらに、後になってからのことだったであろう。
 それから、数日、なるほど、
「システム部の先輩の得意分野」
 というものを教えてもらっていた。
 ただ、なかなか業務話になると、実際に数年支店にいた森山の方では、何とかついていけたのだが、松下の方は、
「業務経験がゼロ」
 のため、
「何を言っているのか、まるで外国語であるかのように思っている」
 と感じていたのだ。
 確かに、軽く横目を向けると、話を聴いていても、どこか上の空という雰囲気が感じられるように思えたのだった。
 それでも、約一か月くらいになると、二人の差は、それほどなくなっていた。
 ある程度の業務内容と、自分たちが作ったプログラムによって、いかに業務が回っていくかということも聞いていると、森山としては、
「大いに興味をそそられる」
 と感じるものだった。
 その頃には、実際に簡単なプログラムを作って、どのようなものができるのかということを実際に検証できるくらいまでになっていた。
「テスト環境」
 と呼ばれるものの中で、課題をこなしながら、業務についても、肌で感じていく」
 ということになるのだった。
 最初は、
「俺は何をやっているんだろう?」
 と正直思っていた。
「こんなものが作れるようになったからと言って、何が楽しいのだろう」
 とも思った。
「実際に、支店に赴いて、これを作ったのが自分だとでもいって、マウントでも取りたいというのか。そんなことをすれば、それこそ、情けないというものに、なるであろう」
 だが、この時、森山が思ったのは、
「意外と、作り上げることって、楽しいじゃないか?」
 と思って、自分が作ったものを他人が使ってくれると思っただけでも、ワクワクしてきた。
 しかし、その反面、
「これは俺が作ったんだ」
 と、
「声を大にしていいたい」
 と思っているのだが、それがかなわないともなると、
「自分の中で、むじゅんした気持ちになってくる」
 ということが感じられるようになったのだった。
 だが、それを松下にいうと、
「いやぁ、システムというのは、縁の下の力持ちということで、自分が目立つものではないですからね。自己満足で、いれば平和でいいんじゃないですか?」
 というのだった。
 松下という男、ほとんど人とトラブルを起こすこともなく、人から勘違いされる雰囲気でもないので、
「結構人から慕われるのはないか?」
 と感じるのだった。
 そういう意味では、誰かとトラブルを起こしやすいといえば、森山の方だった。
 特に、森山という男は、
「勧善懲悪」
 というものを特に自分の中に感じていたのだ。
「会社で仕事をしていると、きれいごとだけで済まされない」
 ということが、かなりの確率であったりする。
 しかし、その、
「きれいごと」
 というのを、自分の中の、
「正義」
 として考えているというのだ。
「勧善懲悪」
 というと、
「正義を助け、悪をくじく」
 という考えがあった。
 その頃になってからだろうか、その、
「勧善懲悪」
 という考え方に、さらに付け加えることとして、
「創作意欲」
 というものが、何となく結びついている木がしてきたのだ。
 プログラムというのは、確かに、会社側で、新しい業務の計画が立てられ、さらに、そこから、
「どういうものが必要か? 例えば、入力画面であったり、出力帳票のような運用に必要なもの。または、マスターなどという、それらの運用を行うための、システムとしての必要なものの項目定義などが話し合われ、そこから詳細設計という形になるだろう」
作品名:マトリョシカの犯罪 作家名:森本晃次