小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マトリョシカの犯罪

INDEX|7ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

 ということであった。
 というのも、
「まったく、こっちの都合を相手のバイヤーは聞いてくれないし、どうかすれば、営業の品定めで、取引をするかしないかを決める輩もいるので、徹底的に、奴隷になるくらいの気持ちがないと、やっていけない」
 ということであった。
 もっとも、今の時代のように、コンプライアンスに厳しい時代であれば、
「取引先の営業を顎で使う」
 などというのは、
「何とかハラスメントに引っかかる」
 ということで、社会問題になるレベルであろう。
 そんなことを考えていると、
「俺は、営業には向かないよな」
 と思っているところ、バブルが弾けた問題で、
「子会社の倒産」
 あるいは、
「取引先の吸収合併」
 などという問題で、
「営業への研修」
 などというものができなくなり、それよりも、
「会社側の、駒」
 として使われることが多くなったのだ。
 だから、入社して、2年くらいは、
「鳴かず飛ばず」
 であった。
 最初から、
「営業になる」
 ということで、支店勤務から、そのまま営業ということだったのに、その間は、まるで、
「便利屋」
 とでもいうような使われ方をしていたので、それこそ、
「鳴かず飛ばず」
 という状況であった。
 そんな状態なので、
「下手をすれば、リストラかな?」
 と思うようになっていた。
 それまで聞いたことのなかった、
「リストラ」
 という言葉が出てきて、
「バブルが弾けた時の、代表的な言葉」
 ということで言われているが、元々、この
「リストラ」
 という言葉、
「人員整理」
 というネガティブな言葉ではなかったのだ。
「業務改善」
 などということで、
「効率のいい仕事のやり方」
 などということを模索するという、もっとポジティブな言葉だったはずなのだ。
 しかし、
「業務改善」
 という言葉の中には、まるで、
「断捨離」
 という意味合いの言葉もあったのだろう。
 そういう意味での、
「人員削減」
 というのは、十分にありで、それは、
「経費節減」
 というものを、直接の目的とするものではなく、
「やる気のない人間を整理」
 などということをしたり、
「適材適所」
 ということで、部署替えということもあるだろう。
 特に、大会社などでは、
「優秀な社員を海外勤務させ、それが、
「エリートコースの道だ」
 ということを言っている企業もいる。
「2、3年、海外で頑張ってきて、もどってくればそこから先は、エリートコースだ」
 という社員だっているのだ。
 もちろん、大企業における、ごく一部の人間なのだろうが、そういう人が将来。大企業の経営陣に参加し、会社の取締役などに就任するのだろう。
 そんなことを考えていると、森山という人間は、
「時代が悪かった」
 といってもいいかも知れないが、出世コースからは、完全に外れていた。
 確かに、
「時代が悪い」
 といっても、会社にとって、本当に必要だと思われている人材は、
「最初から英才教育」
 ということで、支店での研修ではなく、本部で、
「帝王学」
 のようなものを学んでいて、入社後、5年もすれば、その差は歴然となっていることだろう。
 実際に、相手は、本部で帝王学を学んでいた。
 そこには、バブルが弾けようが関係なく、世間や会社がこれだけ大混乱している状態でも、
「お前は気にすることはない」
 といって、相変わらずの、
「英才教育:
 を受けていたのだ。
 森山は、そんな状態の同期がいるということは知っていたが、当時は自分のことで精一杯、人のことを気にする時間も、余裕もなかった。
 それだけに、
「大丈夫さ」
 と自分に言い聞かせていたが、そういうのも、感覚がマヒしているような気がしていたのだ。
「このままいけば、お役御免の時期が来るんだろうな」
 と森山は感じていた。
 だが、
「捨てる神あれば、拾う神あり」
 というところであろうか?
 急に、部署替えの話が舞い降りてきたのだ。
 支店長から、いきなり呼び出しがかかった。
「えっ? まさかもうクビなのか?」
 とビックリして、
「もし、このままクビなら、俺は何のためにこの会社に入社したんだ?」
 ということであった。
「確かに最初は、研修期間が、半年として、その間に、独り立ちできるだけのスキルを身に着ける」
 ということであったが、最初の2カ月ほどは、確かに研修らしき感じだったが、取引先の一社が倒産したことで、事態は一転してしまった。
「会社が一つ義父さんしただけで、ここまで大きな影響があるなんて」
 と正直ビックリさせられた。
 それまで研修をしていたはずなのに、いつの間にか、便利屋だった。
 倉庫で品出しをすることもあれば、トラックでの配達もある。
 事務所が混乱していれば、
「伝票入力」
 であったり、下手をすれば、コールセンターでの、苦情係を担うことにもなったりしたのだ。
 そんな状態が、1年以上続いた。
 完全に、皆、森山が営業見習いだったことを忘れているかのようだった。
 いや、忘れていないのかも知れないが、とにかく、それどころではない。
 目の前のことを裁かなければ、何もできないという状態だ。
 一つ一つ裁いていっても、残るものは残る。
 その感覚は、
「借金があって、いくら返しても、利子分にしかならず、借金が完済するどころか、元本がずっと、そのまま残っているということで。下手をすれば、まだまだ増えていく」
 という可能性もあるということで、そんな状態が、どうしようもなくなっているという状態だったりするのだ。
 支店長から、
「本部への転勤だ」
 と言われた。
「本部?」
 正直言って、
「本部はない」
 と思っていた。
 そもそも、営業として支店に配属された時、
「各営業所で成果を上げて、本部には、エリート営業マンとして、凱旋する」
 というくらいに考えていたのだった。
 しかし、支店長が、
「本部」
 という言葉をいうのは、設定としては、約10年早かった。
 少なくとも、支店を、
「2、3くらい経験して」
 ということだったので、ビックリしている。
 しかも、営業らしい仕事は何もしていないのだ。
「一体、俺に何をさせるというのだ?」
 と感じたので、まず聞いたのが、
「本部のどの部署なんですか?」
 と聞くと、
「情報システム部だ」
 というではないか。
「なるほど、支店長が、転勤と言わずに、部署替えと言ったのは、そういうことか?」
 ということであった。
 同じ営業であれば、
「部署変え」
 という言葉ではない。
 だから、意識的にか無意識にか、その瞬間の頭の中を思い出すのは困難であるが、最初から分かっていて聞いたような気がしてならないのだ。
「その部署って、具体的に何をするところなんですか?」
 と支店長に聞くと、
「さあ、詳しくは知らないが、辞令は出ているんだから、従うしかないだろう」
 という。
「そんなことは分かり切っている」
 と思った森山だが、そうやって、あからさまに言われると、
「この人、面相臭そうに話しているだけではないか?」
 と感じると、
「こんな人が支店長だったなんて」
 と思うと悲しくなってきた。
作品名:マトリョシカの犯罪 作家名:森本晃次