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マトリョシカの犯罪

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「その友達と、一人の女の子を奪い合うなどというのは、実に嫌なことだった」
 好きな女の子を、友達と奪い合うこと自体が嫌だというよりも。
「俺は、どうしても、譲っちゃうところがあるんだよな」
 と考えるところであった。
 しかし、それは、
「友達に悪い」
 というところからではない。
「好きな女の子であれば、相手が友達だとしても、強引に奪いたい」
 と考えるのは当たり前のことである。
 それは、森山としても、同じことであり、そのことを友達にいうと、
「だったら、自分で奪い取ればいいじゃんか。相手だって、その気で向かってくるんだろう?」
 と言われる。
「それはそうなんだが、確かにその通りではあるのだが、俺にはできないんだ」
 という。
「そんなに、友達に遠慮するというのか?」
 と言われると、
「そういうわけではないんだが」
 と、煮え切らない様子でいうと、
「何だよ一体。友達だって、そんな奴を相手にしたいとは思わないよ」
 というではないか。
「そうだと思うんだけど、遠慮というわけではない、むしろ、自分は、最初から、そいつにはかなわないと思うところがあって、そう思うと、自分から、身を引くという風に思うんだよ」
 というではないか。
「だとしたら、お前は、諦めるのか?」
 と聞かれると、
「うん、諦めちゃうかも知れないな」
 と言った。
「ということは、お前は、その友達には、彼女以外のことでも、絶対に敵わないと思うということか?」
 と聞かれると、
「そうではないんだ。だけど、その友達に適う何かが、自分に分からないということになると、何もないと思い込んでしまい、何もない自分が、ハッキリと自分よりも優れているということが見えるその人に敵わないと、思い込むんだよな」
 というのであった。
「それって、逃げてるだけじゃないのか?」
 と聞かれたが、自分でも、心境がどういうことなのか分からない。
「そうなのかも知れないな。確かに逃げていると言われればそれまでだし」
 というと。友達は、業を煮やして、
「そんな中途半端だと、友達が皆離れていくぞ。俺だって、いつまでお前のそばにいるとは限らない」
 というと、
「逃げるというのは、言い方は悪かったが、最初から逃げている素振りを、女の子に見せると、女の子は、お前から離れていくぞ」
 と言われたので、森山は、ハッとした。
 それを見た友達は、少しため息を吐きながら、
「ああ、そういうことか」
 というではないか。
「どういうことなんだ?」
 と、森山は、少し身構えたのだ。
 何を言われるか、想像がついたということである。
 その言葉は、
「同情を誘おうということなのか?」
 というのであった。
 森山はそれを聞いて、指が痺れた気がした。
「見透かされていたんだ」
 という思いが、溢れてきた。
 汗が額から滲んできて、
「こんなにも簡単に見透かされていただなんて」
 という思いであり、
「お前、まさか、そんな逃げの態度を取ることで、女の子が同情して、自分の方に来てくれるんじゃないか? なんて思うわけないよな」
 と言われ、またしても、額から流れる汗を拭くわけにもいかなかった。
 額の汗を拭くということは、
「お前の意見は正しい」
 と認めたことになるのであった。
 確かに意見というものを考えると、
「お前が同情を買おうとしている」
 ということを、自分から認める。
 ということになってしまうのだろうが、それよりも、何が怖いといって、
「自分の意見を見透かすやつが、自分の近くにいるということが、分かったということであった」
 そんなことを考えると、自分にとって何が怖いのかというと、
「自分の気持ちを見透かされている」
 ということであって。そうなると、
「迂闊に人に相談を持ち掛けられない」
 と考えることだった。
 そんな状態になると、
「人に見透かされないようにするには、どうすればいいか?」
 と考えても、
「結局、その結論は、出ることなどない」
 という結論にいたるのだった。
 それが、一番、女の子から、
「逃げているんじゃないか?」
 と思われることだった。
 森山は、
「自分の耳が悪いのではないか?」
 と感じることがあった。
 その音を聞いて、
「以前は聞こえていたはずなのにな」
 という思いがあり、その音が自分の意識の中で、薄れていくのを感じた時、ちょうど、知り合いから、面白い話を聞かされたのだ。
 その話というのは、
「モスキート音」
 というもので、その音を踏む形で、
「モスキートーン」
 ともいわれているようだ。
 そもそも、この、
「モスキート」
 というものは、
「蚊の鳴く音」
 という意味で、超高周波と呼ばれる、
「苦痛を伴う音」
 ということであり、その特徴というのは、
「若者には聞こえるが、ある一定の年齢から上は聞こえない」
 というものだったりするらしい。
 それらの特徴を生かして、製品も開発され、用途もそれぞれにあるようだ。
 例えば、
「害虫駆除、変な虫が寄ってこないようにする」
 という時に使ったり、
「公園やコンビニなどの近くで、たむろしている面倒臭い若者たちを駆除する、寄ってこないようにするために使用する」
 などという方法が使われたりするのである。
 だから、最近、森山が、
「今まで聞こえていたはずなのに」
 と感じている音は、ひょっとすると、それは、
「モスキート音」
 などではないか?
 と考えるのであった。
 ただ、今までもそんなに、
「耳について離れない」
 というほどの、不快な音を聞いたという意識もなく、ましてや、苦痛を伴うものもなかった。
 ということは、考えられるとすれば、
「年を取ってきたのかな?」
 という意識であった。
 確かに、最近は、少し年齢的に、老けてきたという意識があった。
 といっても、
「老け込むには、まだ早い」
 といってもいいのではないだろうか?
 森山は年齢的には、40代後半くらいであり、中年から少し、初老に近いくらいといってもいいだろう。
 モスキート音がm
「いくつから?」
 というのはあまりハッキリは知らないが、
「これくらいの年齢であれば、あっても不思議はないのではないだろうか?」
 と感じるのだった。
 森山は、元々がプログラマーであった。
 若い頃、入社当時は、
「システム関係の仕事をするなど、思ってもみなかった」
 という感じだった。
 大学では、法学部に所属していて、地元企業に就職できたので、
「このまま営業の仕事をすることになるんだろうな?」
 と漠然と感じていた。
 若い頃は、
「とにかく、まわりに流される」
 というタイプであり、ある意味、山田よりも、いい加減なところがある人間だったのだ。
 当時は、バブルが弾けたりして、いろいろ大変な時代であったが、正直、
「俺に営業なんかできるんだろうか?」
 という思いが強かった。
 しかし、
「法学部を出ているなら、大体は営業職だろうな」
 ということを言われていた。
 最初は、
「営業でもいいか?」
 と思っていたが、先輩などにいろいろ聞いてみると、
「営業という職種は、理不尽なことが多い」
作品名:マトリョシカの犯罪 作家名:森本晃次