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マトリョシカの犯罪

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 と思われていることだろう。
 実際に、ずっと一緒にやってきた人からは、
「融通が利かない」
 と言われるようになり、そのせいで、仕事もほとんど、任されないようになっていた。
 そもそも、それほど仕事があったわけではない。夜のシステム監視というと、基本的には、三十分に一度くらい、メールを見て、正常かどうかを確認するだけで、それが分かれば、後は、
「ほとんど、気にすることはない」
 という程度なので、昼間からの仕事の依頼でもなければ、正直、時間を持て余すことになったのだ。
 山田の場合は、何かをするというわけではなく、依頼があれば、それをこなすという程度で、実際には、依頼の仕事もほとんどなく、あったとしても、すぐに終わるような仕事で、昼間の仕事での、システム開発において、システムテストを行った結果が出たので、それの検証を頼み、表にまとめるというような、一種の、
「単純作業」
 が多かったのだ。
 その日も、すぐに終わるような仕事を、休憩を交えながら、ゆっくりとこなしていた山田だったが、実際にやってみると、
「時間的には、結構なものになりそうだ」
 と感じたので、その日は、
「ちょうど、よかったわ」
 という程度に感じていた。
 単純な検証作業なので、その日は、軽く音楽を聴いていた。
 ちなみに、夜間監視や、日中の業務監視の時は、基本的に業務は一人である。複数でやる時は、一人が、業務の入れ替えの、
「本番立ち合い」
 という形になるので、仕事内容はまったく違うものである。
 つまり、その時は、真剣な本番立ち合いをよそ眼に、
「自分は自分の業務をこなす」
 というくらいのことであった。
 仕事の内容は、大したことではないので、本番立ち合いの人も、緊張はするが、何もなければ、あらかじめ決めてあった確認事項を、自分で、黙々と確認するだけである。
 厄介な入れ替えであれば、もう一人出勤するか、あるいは、家からリモート監視をするかのどちらかであろう。
 どちらにしても、問題さえなければ、立ち合いの人も楽だったのだ。
 最近では、それほど、大きなトラブルもなく、入れ替えも、
「一人でいい」
 というくらいの時は、それぞれに気楽なものだった。
 だが、一応、人がいる以上、音楽を掛けるというのは憚られる。中には、自分で音楽を聴きながらの立ち合いという人もいるので、そんな人の時は、小さな音で音楽を掛けたりしている。
 相手は、事務所の自分の机なのだが、監視の人間には、自分の机というものはなく、監視用の、
「監視室」
 なるものがあり、そこで、確認を行うだけだった。
 そこでは、パラスのパーティションのようなもので事務所と仕切られているので、少しくらいの音は、表に漏れることはない。
 しかし、静かな状況で、音を立てると、少しは響くので、静かにすることが、慣例となっていたのだ。
 もちろん、その日の日曜日は、完全に山田だけだったのだ。
 仕事が昼過ぎくらいに一段落するくらいのペースでやっていた。残り3時間くらいはゆっくりとしているつもりで、
「掃除でもするか」
 と考えていたほどだった。
 当然急いでやれば、午前中っで余裕で終わるくらいの仕事だったが、あまり早く終わってしまうと、
「中途半端だな」
 と思ってしまう。
 そこで、仕事を小出しにしながら、こなしていたのだった。
 だから、音楽を聴いてやるくらいがちょうどいい。それも、賑やかな曲ではなく、バラードやクラシックなどになるのだが。一応仕事をしながらなので、賑やかな曲というわけではなく、歌詞のない、
「クラシック」
 あるいは、
「ジャズ」
 のような、その中でも軽めの曲にすることにした。
 スマホの音楽でクラシックの中のピアノ曲をセレクトして、それを流すことにした。
 ただ、これは夜中にはきつい。なぜなら、ピアノ曲などの軽音楽は、睡魔を誘うからだ。
「曲を聴きながら作業をする時は、日中に限る」
 ということである。
 そうなると、日曜日しかないだろう:
 ということになるのだった。
「まぁ、こんな感じの日中の過ごし方もいいな」
 と、山田は思ったのだろう。
「どうせ、派遣なんだ」
 という気持ちがあるのは、無理もないことだった。
 そんなある日、いきなり、警報が鳴り響いたのだ。
 それまでは、気付かなかった音だったが、
「こんなにも大きな音」
 と山田もビックリした。
 普段から、
「適当にやっていればいい」
 という思いでずっときたので、さすがにこの音にはビックリさせられた。
「大丈夫なのか?」
 と自分でも感じていたが、警備会社に連絡をすると、結構落ち着いている。
 とにかくすぐに来るということなので、その言葉を信じるしかないだろう。
 ただ、それにしても、音がすごすぎる。上から見ると、警報機に気づいてか、通行人が、何人も、このビルお振り返っている。そもそも、音にビックリしなければ、
「警報機としての意味はない」
 ということであろう。
 だが、警備員が到着するまで、何もできないのは分かっている。
 実際に、警備員がこっちに向かっているというが、本当なのかどうか、なかなか現れない。
 彼らがカギを持っていることは分かっている。なぜなら、基本的にこのビルに人がいる可能性があるのは、
「平日の、午前九時くらいから、午後六時くらいまで」
 であろう。
 それ以外の時間は、基本的な会社の業務時間ではない。その時間に何かがあったら困るので、警備が掛かっているのだ。
 いや、そうではない。実際に、ビルの中に人がいる方が問題だ。
 逃げ遅れてしまった場合のことを考えると、これほど危険なことはない。
「誰が責任を取るのか?」
 ということであるが、それ以前に、
「死んでしまったら、その人は帰ってこない」
 ということであり、
「取り返しがつかない」
 というのは、このことである。
 それを思うと、
「本当の火事の時は、大丈夫なのだろうか?」
 ということである。
 実際に、警備員がやってきて、警報を止めたのは、最初に通報してから、30分後だった。
 警備の事務所がどこにあるのか分からないが、
「本当にそんなことで、もし何かあった場合は大丈夫なのだろうか?」
 と、山田は考えたが、
「まあ、いいや、どうせ俺のモノじゃないんだからな」
 と、ビルや、派遣先の会社のモノがどうなっても、自分さえ助かればそれでいいと思っていた。
 それは、確かにそうである。
 たとえば、
「コンビニ強盗」
 などというものがあるが、基本従業員マニュアルとしては、
「まずは、自分の身を守ること」
 ということが最初に大前提としてある。
 お金を取られたとしても、
「従業員に何かがあった場合」
 と比較しても、ちょっと考えただけで、
「従業員の方が大切だ」
 ということは分かり切っていることだ。
 まず、今の時代、そんなにコンビニには、お金が置いていない。置いてあるとしても、
「数万円」
 というところがいいところだろう。
 お客さんが出す、万札や、5000円札にお釣りを出すくらいだからである。
 それに、最近では、
「キャッシュレス」
 などというものがあるので、余計にお金がないのだ。
作品名:マトリョシカの犯罪 作家名:森本晃次