マトリョシカの犯罪
「自分で気に入っている」
ということなので、自己満足というよりも、
「癒しの気持ちを持ちたい」
ということで見ていたのだ。
それだけ、
「勧善懲悪な性格」
というものは、それほど、苛立ちの性格が残っているということであろう。
確かに、勧善懲悪は、他の人よりも、かなり疲れるというものであった。
その日も家に帰って自分の絵を見ていると、少しずつ落ち着いてきたのだった。
いつものように、
「キレイな光景だ」
と思っていると、今回は結構早く睡魔に襲われた。
そのまま、一気に眠ってしまうと、目が覚めるのは、昼頃だった。
目が覚めてからしばらくすると、昨日のことを思い出し、
「日勤者に確認してみようか?」
と思ったが、
「どうせ、出勤したら会うんだ」
と思うと、別に今しなくてもいいと思うようになったのだった。
それだけ、森山も、
「誤報でしかない」
と思っていた証拠だろう。
この場の関係者は少なくとも、
「誤報以外の何者でもない」
ということを分かっているに違いない。
だから、何も気にせずに、そのまま会社に行くと、案の定、普通にしているではないか。
とりあえずの引継ぎの中に、
「警報機についての話がなかったではないか」
ということであるが、この時の怒りは、まず、山田に向けられた。
だから、
「引継ぎはそれだけか?」
と強めにいったが、
「ええ、それだけです」
というので、さすがにビックリしたというよりも、憤りを通り過ぎて、呆れるしかなかったのだ。
山田はそんな森山を見て、
「何なんだ、この人」
と言わんばかりの表情をしていたことだろう。
「ああ、いや、警備会社から、何らかの報告はなかった?」
と聞くと、
「警報機がまた鳴ったんですか?」
と、さすがに察しのいい山田のことなので、この勘の鋭さは、今に始まったことではなかったのだ。
「そういうこと」
というと、山田は呆れたかのような雰囲気で、
「いいえ、何も言われませんでした」
と答えた。
さらに山田は、
「本当にどうなってるんですかね?」
という言葉を発した山田に苛立ちを感じた。
「おいおい、俺たちは、当事者なんだぞ、他人事ではなく、もっと自分のことだという意識をもってほしいものだ」
ということであった。
ただ、実際に報告がなかった以上、これ以上山田を攻めるというのは、お門違い。
「厄介なやつだ」
ということは分かっているので、
「とりあえず、しょうがないか?」
ということを考えたのだ。
憤りを感じながら、
「今回のことは、どうせ、これ以上なにもないんだろうな?」
ということになるのであった。
それを考えていると、さらに、
「もう、どうでもいいわ」
と感じる自分がいた。
「勧善懲悪の自分」
から考えれば、これ以上の苛立ちはないというものであった。
そんなことを考えていると、自分のこの、
「冷めやすい」
という性格が、自分を楽にしてくれると思っていたが、実際には、
「他人事のように考えて、結局、どうしようもない自分に導いている」
という結論にいたるのであった。
大団円
そんなことを考えていると、
「二度あることは三度ある」
ということで、
「近い将来、また誤報がなるに違いない」
という感覚が生まれてくる。
ということが、次第に強くなってくるのであった。
実際にあったのは、それから、まるで判で押したかのような、またしても、2週間が経った頃だった。
今回は、勤務を初めてから、少ししてのことだった。
その日は休日だったので、日勤の開発社員はいなかった。
当番の人も、定時に帰ってしまったので、一人になってから、ちょうど一時間が経った頃だった。
ルーティンの業務がちょうど終わった頃だった。
どこかから、うるさい音が聞こえた。
最初は、それがまさか警報とは思わず、
「どこがあんな迷惑な音を立てているんだ?」
ということを考えたのだが、
「次第に、どこかで聞いた音だ」
というのを思い出すと、2週間前のあの苛立ちを思い出したのだった。
「ああ、何度原因不明で片付ければいいんだ?」
ということと、
「あれだけ言っておいたのに、連絡なしとはどういうことだ?」
ということであった。
正直、どちらも重要なことだが、後者の方が、苛立ちという意味では大きかった。
というのも、
「誰にだってできることをしないのだから、これほど罪深いことはない」
という思いであった。
これくらいのことができないで、何が警備会社だと思うのだった。
本当は、森山が、こんなにも苛立つ必要などないのだろうが、そこは、
「勧善懲悪」
と言える性格が、災いをもたらしているといっても過言ではないだろう。
だが、今回は、相手が、
「飛んで火にいる夏の虫」
神様が、
「もう一度文句を言わせてくれる機会を与えてくれたのだ」
ということを感じたのであった。
いつものように、警備会社に連絡を入れると、
「今向かっています」
という。
それを聞いて、森山は、
「そら来た」
と思ったが、だからといって、そういわれたからといって、イラっとはこなかった。
「どこか冷めているような気がするな」
というのを、溜飲が下がってきているので、それはそれでいいと思うようになった。しかし警備員が来て、面と向かうと、そうもいかないようで、
「どういうことなんだ?」
と聞いてみると、
「今回も誤報のようです」
というではないか。
「いやいや、そういうことを言っているわけはなくて、俺は言ったよな。2週間前の時、調査してみて、それで分かった原因を日勤者に話せって、俺だってここに一人で勤務しているんだから、情報共有しないといけないんだよ。それを、原因不明なのかどうか知らないが、無視するとはどういうことだ? あの時、お前は、分かりましたって言ったよな? そもそも、約束したことを反故にするなんて、ありえんだろう?」
というと、相手は黙っていた。
さらに追い打ちをかけるように
「俺が怖いのは、オオカミ少年になることなんだよ。こんなに誤報だらけだったら、誰も何も信用しなくなるぞ、それでもいいのか?」
というと、さらに、何も言えなくなってしまったかのようで、警備の人は、完全に固まってしまっていたようだ。
「とにかく、管理会社とも話をしてもらって、少しでも、いい方向に向いてもらわないと、俺の方もどうしていいのか分からないからな」
というと、
「わかりました。そのようにします」
と、やっと言葉を発した。
要するに、答えられることは答えるというスタンスで、それだけに、
「答えられないことは、意地でも答えない」
ということは、ほぼ、間違いのない決定事項だということであろう。
そうこうしているうちに、警備会社の人は、電話で、話をしているようだった。
もちろん、森山と別れてのことであったが、その内容というのは、
「音だけを消して、警報の解除は行わない」
ということであった。
つまり、そうしておいて、
「後になって、機械をよく分かる業者に見てもらおう」
と考えたのだ。