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マトリョシカの犯罪

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「民事再生法」
 というものを適用してもらわないといけない。
 というところまできていたのだ。
 民事再生法というのは、ある意味、
「徳政令」
 のようなもので、
「債権放棄」
 の法律である。
 それも、スポンサーを見つけて、再建計画を立て、それが実行できるかどうかを銀行が認めるかどうかで決まってくる。
 だから、この法律を生かすには、最低でも、数社の、
「スポンサー」
 というものが必要になる。
 そして、経営方針をしっかりと建て直し、前に進むしかなのであった。
 そんな会社が、何とか民事再生で、スポンサーを見つけ、何とか、経営を乗り切ることができたが、案の定というべきか、会社の経営権は、スポンサーが握る形になった。要するに、
「吸収合併」
 である。
 しかも、吸収した会社は、これまでに、似たような方法で、どんどんグループを大きくしてきたのだ。これは致し方ないだろう。
 それでも、
「あの時助けてくれなければ、倒産と、社員が路頭に迷う」
 という最悪のケースだっただけに、
「吸収合併であれば、御の字」
 といってもいいだろう。
 そんな会社において、それから約15年くらいが経ったが、途中まではプログラマーとしてやってきたが、そこからは、
「業務担当」
 という課ができたことで、そこの専属になった。
 もちろん、
「データの確認」
 などということのために、アクセスやVBなどで、プログラムを作ることはあるが、基本的には、
「処理を確認しながら、監視を行う」
 という業務となった。
 そのせいで、夜勤も多くなったのだが、大手に吸収合併されて、5年が経った頃、元々の会社の、
「システム部」
 だった会社が、部長の働きかけによって、
「親会社は一緒であるが、元の会社から独立し、
「ソフト開発会社」
 として、再出発することになったのだ。
 そのおかげで、
「社員は、約10人チョットの、少数精鋭でやっている」
 といってもいいだろう。
 そんな会社なので、事務所も小さいところがいい」
 ということで、都心部から、少しだけ離れたところの雑居ビルに入ることにしたのだった。
 もっとも、本来なら、元の会社が流通センターを作ったので、
「そこに最初は間借りする」
 というような話であったが、実際には、それは無理だということになった。
 その会社の本部機能も、
「都心近くのビルを借りて、そこに通う」
 ということになったのだ。
 そうでもないと、電車で通うとしても結構遠くからの人が多いので、物理的に難しくなるのだった。
 それを考えると、
「うちの会社も、同じことだ」
 と考えられる。
 そうなると、
「ワンフロアを貸し切る形にすれば、うちも安く上がって済む」
 ということであった。
 ワンフロアいくらではあるが、すべてが同じ会社であれば、少し安いという話でもあったからだ。
 そのおかげで、
「駅から15分くらいのところに借りられたのだが、実は、一緒に入っていた会社が、営業所を畳むということになったので、経費の問題上、こちらの会社も出なければならなくなった」
 ということである。
 それによって、今度は、なるべく近くで、安めの事務所を借りなければいけなくなり、今から4年前くらいに、この、
「栄ビル」
 に引っ越すことになったのだ。
 その栄ビルでは、
「開発チームと、運用チーム」
 に別れていて、運用チームの中でも、日勤と夜勤に別れているのだ。
 その中で、シフト制となっているのが、森山と、山田の二人で、それぞれ、を受け持つことになる、
 ただ、基本的に夜勤を森山がやり、山田は、土日の日勤と、森山が休みの時の夜勤を賄えるように、うまくスケジュールを組むということであった。
 そもそも、
「運用のシフト制を二人でできるように」
 ということで、考えられたのが、今回の、
「栄ビル」
 でも運用だったのだ。
 そして、運用チームの一人を森山という、以前からいる社員で賄い、もう一方を、派遣社員で賄うということにしているのだった。
 森山という男は、どちらかというと、
「二重人格」
 なところがあった。
 表から見れば、完全な、
「勧善懲悪」
 というような男に見えるが、実際には、それ以外は、結構いい加減なところがあり、だから、山田からも、少し不信感を持たれている。
 山田は、どちらかというと要領はいい方なので、
「自分にとばっちりさえこなければ、それでいい」
 と思っている。
 森山の場合は、中途半端に、
「勧善懲悪」
 なので、
「自分に、火の粉がとびかかっても、それでも、勧善懲悪を優先してしまう」
 と言えるのだ。
 だから、火の粉がとびかかるくらいなら、
「自分は関係ない」
 という態度を平気で撮ることができる山田を見て、
「人間として許されることなのか?」
 と考えてしまい、そんないい加減に見える態度の山田が嫌いだった。
 当然、信用をしているわけもなく、性格の違いという言葉で、
「相手を嫌う」
 ということの言い訳にしているのであった。
 だから、今回の、
「警報機が鳴った」
 ということで、山田自体、
「原因が分からない」
 ということに対して、引き下がったことが許せないのだ。
「誤報だからいいが、本当に火事になったら、どうするんだ?」
 といっても、あいつは、どうせ何も考えていない。
 という風にしか見えないのだ。
 それを、森山が、注意したら、どうなるというのか?
「もし、逃げ遅れて火事になったら、俺は知らないからな。俺は注意したんだからな」
 と実際にいったこともあった。
「どうせ、そういうやつに限って、本当に火事になって、もう少しで焼け死ぬところまでいけば、我を忘れて、自分を正当化させるために、ボロクソにいうに決まっている」
 と感じているのだ。
 そこまで面と向かっては言わないが、相手に悟られるくらいの睨みを、わざと利かせるくらいのことを、森山だったらするに違いない。
 とにかく、森山と山田というこの二人は、
「まったく性格が違っているので。その性格が、お互いに、憎しみになっていがみ合うことになるかも知れない」
 と感じた。
 しかし、冷静に考えれば、二人とも悪いわけではない。喧嘩になりかかったのも、警備会社か、管理会社がいい加減だから、こんなことになったのだ。それは間違いないことであり、仕事としても、それらの問題は、責任者が解決しなければいけないという案件なのであろう。
 今回は、そんな、山田の時から、二週間くらいしか経っていなかっただろうか? どこかから、急に音が鳴り出した。
 時間は、午前4時を回っていた。つまりは、業務終了後であった。
 始発電車までは、まだ時間があるので、たまに会社から出てから、5分くらい歩いたところにある、食堂に寄っていた。そこは、24時間経営で、食事もできれば、コーヒーだけでもよかったりする。
 ただ、この店も、半年くらい前までは、この時間開いていなかった。
 というのも、全世界を震撼させた、
「世界的なパンデミック」
 のせいで、
「時短営業」
 を余儀なくされたことで、営業時間は、早くても、早朝5時以降ということになったのだ。
作品名:マトリョシカの犯罪 作家名:森本晃次